第105話 旅 ②
王都アリシアに到着した、相変わらずの盛況ぶりだ。
人、物、お金、あらゆるものがここに集まる、当然、情報も。
「それじゃあ、ここからは別行動といこうか。」
「オッケー、私はジャズー王子殿下を、このまま王城へとお連れするわね。」
「ああ、宜しく頼むよ。ガーネット。」
ガーネットとジャズー王子とはここでお別れだ、きっと女王も首を長くしてお待ちだろう。
「ジャズさん、色々とお世話になりました、どうか、フィラさんが見つかりますように。」
「はい、ジャズー王子殿下も、お元気で。」
ガーネットとジャズー王子は、そのまま王城へと向かった。
兄妹で仲良く出来るといいな。
「さてと、それじゃあ私は女神神殿へ赴いて、シルビアの情報を探ってみるわね。」
「はい、姐御もお気をつけて、マーテル殿に会ったらよろしくお伝え下さい。」
「解ったわ、ジャズはこれからどうするの?」
「俺は取り敢えず、盗賊ギルドを当たってみます。ドニという奴が居たら頼ろうと思っています。」
「そう、私ともここでお別れね、それじゃあね、もしシルビアに会ったら近づいちゃ駄目よ、いいわね。」
「はい、出来るだけそうします。それじゃあ姐御、お互い良い情報を得られるといいですね。」
「本当にね、じゃあね。」
ここで姐御とも別れた。さて、ここからは俺一人で行動する事になるな。
まずは情報を集めないと、兎に角、盗賊ギルドへ行ってみよう。
確か、スラム街に行けばいいんだったよな。早速向かおう。
大通りを歩き、段々と薄暗い雰囲気がにじみ出ている場所へと、風景が変わっていく。
スラム特有のすれた匂いだ。ここだったな、盗賊ギルドは。ドニは居るかな?
スイングドアを押し開いて、建物の中へと足を踏み入れる。
居る居る、ヤバそうなのが沢山居る。目つきが鋭い奴ばかりだ。
みんな、シーフか何かだろう、ギリギリ犯罪じゃないラインの所を渡り歩いている感じだな。
「いらっしゃい、何かご用ですか?」
酒場のマスターみたいな感じの人に、声を掛けられた。
焦ってはいかん、落ち着け、俺。まずはこちらも挨拶からだ。
「こんにちは、旅の者だが、ここに義賊ドニってのは居るかい? 会いたいのだが。」
マスター風の男は、こちらをよく吟味しながら返事をした。
「………旅人かい、ドニだったらもう直ぐ来る頃だよ。待っているといい。」
「そうですか、じゃあ、エールを下さい。」
「はいよ、銅貨二枚ね。」
俺は懐からお金を取り出し、マスターに支払う。
飲み物は直ぐに出された。「ごゆっくり」とマスターの声。
その間も、俺をじろじろと見てくる奴が結構いるが、気にしない。
ここじゃあこういうのは、きっと珍しくもないんだろうけど。普通に振舞う。
ヤバそうなのとは目を合わせない様にする。喧嘩でも吹っ掛けられたら災難だ。
大人しくしていよう。
暫くエールをチビチビとやっていたら、ドニが姿を現した。早速声を掛ける。
「ドニ、久しぶりだな。」
「………誰だ、あんた?」
まあ、そうなるわな。
俺はこれまでの経緯をドニに話した。その結果、ドニはあっけなく理解した。
「よくそれで解ったな。ホントに理解できているか?」
「ああ、大体はな。姿形を変える奴なんざ、ここじゃごろごろいるぜ。犯罪スレスレの事をやらかしてやがる奴も大勢いるしな。」
「そ、そうか。話が伝わったのなら、いいんだ。」
ドニは俺と同じエールを注文して、隣の席に着いた。
「それで、ジャズはどうして俺を頼ってここへ?」
おっと、そうだった。目的の事を話さないと。
「ああ、実はドニから情報を聞きたくてね、ここまでやって来たという訳なんだ。」
「何が聞きたい?」
「さっき話したフィラという女性だ、探している。心当たりはないか?」
ここでドニは両腕を組み、思案しながら「うーん」と唸った。
「そもそも、転移魔法か装置で飛ばされたんだろう? そういうのは見つけるのに苦労するんだよな。」
「どんな些細な事でも構わん、何か情報はないか?」
「うーん、関係あるかどうかは解らんが、オーダインがヤバいらしい。」
「こっちは草原や森からモンスターが居なくなったって事を聞いてるんじゃない。アリシア王国内の事じゃなくてだな、………オーダイン?」
会話を一旦区切り、改めて聞き返す。ドニは得意げに語りだす。
「おいおい、盗賊ギルドの情報網を侮るなよ。この辺りからモンスターが姿を消した事ぐらい、とっくに仕入れてるぜ。」
「そ、そうか。なら、オーダインというのは、大陸北部にある、国だよな。そこが何か関係しているのか?」
ゲーム知識として、アワー大陸の地図は把握している。聞いたところ、ドニも何かに引っかかる様だ。
「いや、解らねえ、ただ、時が同じなんだよな、これが。モンスターが居なくなった、で、同じ頃、大陸北部にある魔の森からモンスターが溢れ出てきた。これは偶然か? いや、違うな。俺は何か関係があると睨んでいる。」
「
「ああ、長年のな。」
ふーむ、オーダイン王国か。時期が同じというのが引っかかる。確かに怪しい。
「大陸北部の、オーダイン王国だな、解った。行ってみる事にする。」
「そうか、気を付けろよ、何でも、いきなり王都の中にモンスターが現れたそうだ。只事じゃねえ。陥落寸前らしい。オーダインの冒険者、衛兵、兵士が第一波を何とか退けたらしいが、第二波が無いとも言い切れん。」
「解った、気を付ける事にする。ドニ、ありがとよ。」
「なーに、気にすんな。いいって事よ。ジャズには世話になったからな。本当に気を付けろよ。」
「ああ、じゃあな。」
こうして、ドニと別れ、俺は盗賊ギルドから出た。エールは飲み切った。
少し千鳥足ぎみだが、酔いは直ぐに覚める。そんなに飲んでないからな。
今晩は王都の宿で一泊して、明日、朝一でオーダイン王国行きの乗合馬車を利用する。
その前に買い物だ、水に食料、買えるだけ買い込み、アイテムボックスへ収納。
王都の物価は高い、散財しない程度にお金を使う。よし、準備万端。いつでもいける。
そのまま宿で一泊し、ぐっすりと眠る。安宿で銅貨8枚は高い、流石王都。
早朝、まだ眠く目をこすりつつ起き上がる。顔を洗い宿を後にして、乗合馬車がある所まで歩き、オーダインまでの交渉をする。
運賃を支払い、城門を出て、そのまま馬車が待機している所まで歩き、馬車に乗り込む。
オーダイン王国まで、ざっと五日の距離だそうだ。結構かかるな。
まあ、国を跨ぐ訳だから、それ位日数が掛かるか。
ゆらりと馬車に揺られながら、オーダイン王国までの道を進む。
フィラが無事だといいが。いや、フィラが居るといいが。こればっかりは行ってみないとな。
考えていても始まらん。なる様にしか成らん。
そういうものだと、腹をくくる事にした。
途中、モンスターと遭遇することも無く、馬車は順調に進んでいく。
さて、この先何が待っているやらだな。もう、進むしかないか。
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