第97話 フィラ強化計画 ⑤


 古代魔法文明時代の遺跡、この中にポール男爵たちが潜っている可能性が浮上してきた。


なので、俺達もこの遺跡へと足を踏み入れる事にした。準備は既にできている。


 と言っても回復薬をそれぞれ各個人に一本ずつ渡しただけだが、それでも無いよりはマシである。


「よし! 潜るか。」


「気を引き締めていきましょう。」


「ジャズ様のお背中は私が。」


「こえーなー、何だって男爵様はこんなところに………。」


 遺跡の入り口を覗き込む、下へと続く階段が見える、確か「ラングサーガ」だとこの遺跡は地下3階層構造のダンジョンになっていた筈だ。


 下へと降りる度に強いモンスターが現れる、ポール男爵たちがそこまで降りて行っていたら面倒だ。


浅い所で待機していてもらいたいもんだな。


 隊列は男爵の取り巻きの一人、マッシュ、こいつはシーフらしいので、斥候をやってもらう、罠感知の仕事だ。


その後ろに俺、フィラ、ガーネットと続く、慎重に行動しよう。


ダンジョンは初めてだ、どこからモンスターと遭遇するか解らん。


 地下1階層に来た。特に怪しい所は無い。松明の明かりだけが頼りだ、遠くまで見渡せないのが残念だ。


途中の通路を進み、左右への分かれ道を調べ、隈なく進む。


目的は男爵たちを探す事なので、隅々まで探索する必要がある。


モンスターにも遭遇したが、いずれも弱いモンスターだったので、その場で対処した。


ほぼフィラが倒した、こちらが楽ちんである。


「居ないな、ここには。」


「もっと奥を探しましょう。」


「現在までに3匹のモンスターと遭遇しましたが、いずれも倒しました。ホーンラビット程度では私達の足を止める事は出来ません。このまま進みましょう、ジャズ様。」


「今の所、罠やトラップの可能性は無かった、俺の出番は無いな。」


ふーむ、この遺跡は罠の類はほぼ無いのかな? まだ1階層だからって事かな?


「あ! 見て! 階段があるわ。」


「ホントだ、下へと続いているな。」


「如何しますか? ジャズ様。」


 ふーむ、1階層に男爵たちは居なかった。という事は、更に奥へと進んだ可能性もあるって事か。


「よし、下へと降りてみよう。」


「マジでか!? なにやってんだ男爵様は!」


 地下2階層へとやって来た。空気がひんやりとしている、しばらく進むと、居た! モンスターだ!


「全員警戒、モンスターとエンカウント。あれはおそらくビックスパイダーだ。毒を持っている、ガーネット、遠距離戦で対応。」


「おっけー、任せて!」


 ガーネットが弓に矢を番えて、狙いをつけている、おそらく「狙撃」のスキルを使っていると思う。


 ビックスパイダーはこちらに近づきつつも、動きが鈍く、接近する前にガーネットの矢を受けて、そのまま倒れた。


やるなガーネット。一撃で仕留めたか。


 更に奥へと進む、すると、何やら話し声が聞こえてきた。


男の声が数人。何かを相談している感じの声のトーンだ。


「この先かな? 男爵たちは。」


「行ってみましょう、確かめないと。」


「声からして、おそらく男爵たちだと推測できます。」


「間違いねえ! 男爵様たちだ。この先だ。」


俺達は少しづつ進みながら、辺りの様子を窺い、慎重に行動した。


 この先での話し声が更に聞こえる様になってきた。間違いない、ポール男爵たちの声だ。


通路の角を曲がり、真っ直ぐな道に出た。居た居た。やはり男爵たちは居た。


こんな遺跡の奥にいるなんて、一体どうしてなんだろうか? 


まあ、いいや。見つけたから問題ない。


 「おーーい」と、男爵たちに声を掛ける。ポール男爵たちはこちらを振り向き、ホッとしたような表情をしていた。


 まさか、迷ったのか? ここまでほぼ一本道だったのに。


いや、そうじゃないか、何か相談していたって事は、何か見つけたという事か?


「おお! ジャズではないか! お前たちもこの異変に気付いて調査をしに来たのかね?」


「調査? いや、俺達はあんたを探していたんだよ。ほら、ここに居るマッシュがポール男爵たちとはぐれたと言っていたのでな。」


俺がそう言うと、マッシュは恐る恐るといった感じで前へ出て来て、姿を見せた。


「男爵様! 探しましたよ! なんだってこんな遺跡に潜ったりしたんですか? 俺は心配しましたよ。」


マッシュが言うと、ポール男爵たちは一斉にマッシュに声を上げた。


「マッシュ! お前こそどこ行ってたんだ! 地上でモンスターとの戦闘になり、慌てて対処したが、お前の姿が何処にも見当たらないから、ここまで探しにきたのだぞ!」


「そうだぜマッシュ! 俺達であのモンスターを倒して、一安心してたらお前の姿が何処にも無いんで、何処に行ったのか辺りを探したんだぞ!」


「遺跡の扉が開いていたから、てっきりお前がそこへ逃げ出したと思って、ここまで遺跡の内部に潜ったんだぞ! まったく。」


 ん? 何だと? という事はつまり、男爵たちを探すつもりが、マッシュを探す男爵たちとここで遭遇したという訳なのか? 


おいおい、ミイラ取りがミイラになるって事になるかもしれなかったのか。


やれやれ、とんだハプニングだよまったく。


 マッシュの奴、結局自分がその場を逃げたせいでこんな事態になったという訳か、やれやれ。


まあ、こうして無事にポール男爵たちと合流できたので、よしとしとくか。


「よーし! 男爵たちも見つけた事だし、ここを出よう。」


「「「 さんせーい。 」」」


俺達が、やって来た道を戻ろうとしたその時、ポール男爵から妙な事を言われた。


「それにしても、マッシュたちが俺様たちの後ろからやってくるとはな、てっきりこの先に居るものとばかり思ったぞ。」


んん? どういう事だ?


「なあ、ポール男爵、あんた等この遺跡の扉を壊して中に入ったんじゃなかったのか?」


「何を言っているジャズ、俺様たちはマッシュがこの遺跡への扉を壊して中に入ったものとばかり思っていたのだぞ。」


………………はい?


「ちょっと待て男爵!? すると何か! 男爵たちが遺跡へと入る前に扉が開いていたって事なのか?」


「ああ、その通りだ。てっきりマッシュが開けたものだと思ったのだがな。」


おい、おいおい、ちょっと待てよ、するってえと何か? 


俺達の更に前に、誰かがこの遺跡に入ったって事か? だとしたら大変じゃないか。


そいつを見つけ出さないと。きっと今頃心細い思いをしているかもしれない。


「おいみんな! ここで緊急会議を開く。どうやら俺達よりも更に前に、この遺跡に潜った奴がいる可能性が出てきた。そいつを探さなきゃならんかもしれない。」


「どうしたの? ジャズ、もう男爵たちは見つけたじゃない。」


この遺跡は確か、最下層の地下3階の奥に、ある魔導装置があった筈だ。


 しかもそれは大規模転移装置だったと思い出す。もしそれが発動していたとしたら、今回の草原や森にモンスターが居ない事に説明がつく。


きっとモンスターたちはこの遺跡の装置によって、何処かへと転移した可能性がある。


(た、大変だ! だとしたら一体どこにモンスターたちが飛ばされたんだ!)


思ったより事態は悪い方へと傾いているかもしれない。


「みんな、悪いがこのまま進んで、地下3階層を目指そうと思うが、どうだ?」


「ええ!? どうしたのジャズ? 急にそんな事を言い出すなんて。」


「ジャズ様、何か訳がおありなのですね。解りました。このフィラ、付いて行きます。」


男爵たちもこの俺の意見に難色を示した。


「おいジャズ、どうした? このまま地上へと帰還しようではないか、なあお前達。」


「そうだぜ、男爵様の言う通りだぜ。」


「今更この遺跡を潜りつづける意味が解らんぞ。」


「ジャズ、あんたには世話になったが、こうして男爵様たちに会えた訳だし、もういいんじゃないのか?」


こいつらの意見はもっともだ、だが、このまま放置するのも何だか良くない気がする。


「なあ、聞いてくれ、この遺跡にはある装置があるんだ。古代魔法文明時代、セルセタ文明の時代のころの魔動装置が今も稼働している可能性が出てきたんだ。」


ここで、ガーネットが話に乗って来た。


「古代魔法文明時代の産物か。一度見てみたいと思うけど、でもこの先は危険じゃない?」


 確かに、ガーネットの言う通りだ。この先のモンスターは危険かもしれない。だが、何か嫌な予感がする。


「私はジャズ様に付いて行きます。ジャズ様、参りましょう。」


フィラは賛成してくれる、有難い。


「やれやれ、折角ここまで来たのだ、今更もう1階層降りたところであまり変わらんだろうな。俺様も行くぞ。」


 おや? 意外にもポールは乗り気みたいだな、別にポール男爵たちはそのまま帰ってもらっても一向に構わんのだが。


まあ、ついて来るというのならそれでも構わんが。


 さてと、最初の目的であるポール男爵たちは見つけ出したが、それだけで事態は良くなるとは思えないんだよね。


まずは、この先の装置がある部屋まで行ってみる必要が出てきた。


よっしゃ! 一丁いきますか! 色々と確かめに。











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