第66話 アリシア動乱 ⑤



 「いや~~、さっきの見たかよジャズ、俺の大剣さばき。さすがだよな~、やるよな~俺、もう怖い物なんてねえーって感じだよな~。なあジャズ。」


「はいはい、そうだな、お前は凄いな、大した奴だよ、もういいだろ、ちょっと静かにしてくれよニール。護衛に集中できねえだろうが。」


 荷馬車護衛の任務は順調だ、相変わらずの小雨だが、この時期この地方では雨期なのかもしれない。


まあ、雨に濡れながらの旅も悪くは無い。


 途中、馬を休ませる為と、暗い夜道は危険という事で、街道の脇に荷馬車を止めて交代で仮眠を取って夜の番をして、一日が経過した。


飯は干し肉にパン、チーズといった簡単な物だ。携帯食ってやつだな。


革袋の水筒で喉を潤し、人心地付いてから、翌日の早朝に出発した。


 今日も相変わらずの小雨が降っている。まあこの程度なら問題ないと思う。


外套も纏っているし、荷物も濡れていない。


 ちょっと肌寒いが、この程度は何の障害にもならない。このまま護衛任務を続ける。


サキ隊長によると、もうじき王都の街の城壁が見えてくるそうだ。


 どんな街かな、きっと王都なんて呼ばれている位だから、大きい街なんだろうな。


 街道を進んで行くと、途中モンスターにも出くわした事もあった、「ビックスパイダー」というデカい蜘蛛のモンスターだ。


一匹だけだったので、ニールが張り切って対処していた。


大剣を一振り、一撃でモンスターを倒していた。


ニールの奴も中々やるようになってきたと言う事か。


「隊長、見ましたか? 俺の大剣さばき、見事でしたよね? 間違いないですよね?」


「ニール二等兵、ちょっと五月蠅うるさい、任務に集中しろ。」


 サキ隊長に怒られてやんの、まあ無理もない、いきなり今まで扱いきれていなかった大剣が、急に扱える様になったから、自分でもびっくりしているんだろう。


そっとしといてやるか、めんどくさいし。


 街道をしばらく進んでいくと、王都の外壁らしき物が見えてきた。


ニールと二人で少し感動していたが、その手前の街道脇に一人の見知らぬ人影が見えた。


ニールが隊長に報告した。


「隊長、前方に人影が見えます、何か大声で叫んでいるみたいですが?」


「ああ、こちらでも確認した。何て言っているか解るか?」


「うーん、ここからでは解りません、もう少し近づいてみない事には何とも。」


 遠くに居る人影は、何やら大声でこちらに何かを伝えている様な感じに聞こえるのだが、さて、何かな?


サキ隊長が少し考えてから、小隊に指示を出した。


「よし、お前等、警戒しつつ前進、一応様子を見る。それから判断する、いいな! 気合だけは入れとけよ!」


「「 は! 」」


ふーむ、別に怪しいって訳じゃなさそうだが。


 こんな昼日中に堂々と山賊行為をしている訳でもなさそうだし、何かこっちを呼び止めているっぽいんだよな。


何事であろうか? 


 人影の近くまで来た所で、その人物が男である事が解った。


何やら叫んでいるのは、こちらを呼び止めている様子だった。


男の元へと行き、ニールが荷馬車を止める。


サキ隊長と二人で男の元へと向かう為、荷馬車から降りて歩いて近づく。


「おーーい! 止まれーー!」


やはり男はこっちを呼び止めていた。何事だ? 只の山賊には見えないが。


たった一人でこちらを相手取るつもりなのか? 中々度胸があるじゃないか。


どれ、一つ話ぐらいは聞いてみるか。


「どうした? 何か用か?」


問いかけた後、サキ隊長も男に向かって言葉を発した。


「我々をアリシア軍と知って止めているのか? 余程の事なのか?」


サキ隊長が声を掛けると、男はことらに向かって歩きながら、返事をした。


「やっぱりあんた等兵隊さんか、荷物を運んでいる所を見ると、あんた等王都へ向かっているのか?」


サキ隊長が答える。


「だったらどうだって言うんだ?」


男は手の平を自分の顔の前に持っていき、左右に振りながら諭す様に答えた。


「止めとけ止めとけ、今王都に行くのはヤバいぜ。あんた等の為を言ってるんだぜ、引き返した方がいいぜ。」


 男は王都に行くなと言っていた。何か問題でもあるのだろうか? ちょっと聞いてみるか。


「まず、あんたは何者で、何が目的なんだ。それを教えてくれなきゃこっちは判断のしようも無いんだが。」


「おお、そうだったな、俺は「盗賊ギルド」所属の「シルバーウルフ」だ。王都のスラムの連中からは「義賊」なんて呼ばれちゃいるがな。」


この答えに、サキ隊長が反応した。


「シルバーウルフだと!? 本当か?」


「隊長、知っているのですか?」


「ああ、王都ではちょっとした有名な連中だ。義賊としてな、悪どく儲けている奴からしか盗みを働かないと、噂や評判になっている。そうか、貴様がシルバーウルフか。」


 サキ隊長が説明してくれると、男は後頭部をポリポリと搔きながら、困った様な表情をした。


「なーんだ、知っていたのか。シルバーウルフも有名になっちまったな、仕事がやり辛くていけねえや。まあ、そんな訳なんで、こっちの言う事を信用してくんねえか。王都へは行かない方が身の為だぜ。」


「何が問題なんだ? シルバーウルフ。」


「おう、実はよ、今王都の街中じゃ、ヤバい状況になってるんだよ。表向きは平和そのものって感じだが、一歩裏へ足を踏み入れれば、そこは裏切りや殺し、騙し騙されが横行しているんだよ。」


 ふーむ、表は平和、裏では荒事、王都ってのは大きな街っぽいから、それ位の事は日常茶飯事だと思うがな。


「アロダントだ。アロダントのヤローの指図で、スラムにある「盗賊ギルド」や「傭兵ギルド」なんかが狙われているって話だ。これでもう何人もやられているから、俺は王都を抜け出して、こうして王都にやって来る奴に知らせているって訳なんだぜ。」


ふーむ、アロダント第二王子の差し金でか、スラム街に何があるって言うんだ? 


盗賊ギルドに傭兵ギルドが狙われている、というのはどういう事であろうか。


うーん、今の段階ではまだ解らんな、しかしこの情報は貴重な情報ではなかろうか。


他でもない、王都の街中の事で、しかもアロダント第二王子の事が含まれているとなると。


いやはや、義勇軍の任務ってのも案外、楽ではなさそうだな。


「隊長、どうします?」


「うーん、まあ、こちらとしては、別に問題は無い様に感じるがな、我々はただ、積み荷を王都まで持って行き、スラム街にある空き地で受取人に積み荷を渡して任務完了となる。取り立てて困る様な事は無いと思うがな。」


「しかし隊長、相手、つまり荷物受取人は確か、アロダント第二王子の使いの者でしたよね。」


「ああ、そう聞いている、何か問題か? ジャズ上等兵。」


(ふーむ、サキ隊長には義勇軍の任務の事を話しておいた方がいいのかもしれんな。どうする。) 


考え込んでいると、シルバーウルフの男がこちらの任務内容を危惧した様に言った。


「アロダントの使いに渡すだって! おいおい、積み荷を確かめた方が良くねえか? しかもスラムの空き地で取引って、ヤバい事満載じゃねえか。悪い事は言わねえ、止めとけって。」


「すまんが、我々にも任務というのがあってな、ここで引き返す訳にもいかんのだ。よーし、このまま予定通りに進む。お前等、王都の中に入っても警戒だけは怠るなよ。いいか!」


「「 はい! 」」


こちらが王都へ向かう事になった事を聞いて、シルバーウルフの男はこちらに進言した。


「あんた等、王都へ向かおうってのか? 中々気骨がある話だが、勇気と蛮勇は違うぜ。行くのなら、俺も連れてってくれ。スラムにゃ世話になっている人も多く居る。頼む、俺も連れてってくれ。」


「………どうします? 隊長。」


「うーん、面倒事になる可能性も考慮に入れるべきか。我等はスラムに明るくない。シルバーウルフの男に王都のスラムまで同行して貰うのも、危機回避に繋がる事もあるやもしれんか。」


「と、言う事は、この男を同行させるのですね?」


「そうだな、問題はなかろう。」


よっしゃ、そうと決まれば。


「おいシルバーウルフ、荷馬車の荷台に乗れ。俺達と行動を共にするぞ。後、色々と聞きたい事もあるから、教えて貰うけど、いいよな。」


「おう、任せろ、俺に話せる事なら話してやるぞ。」


こうして、サキ小隊にシルバーウルフが加わった。


王都まであと少し。更に警戒しつつ荷馬車は進んでいくのであった。






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