第60話 下着ドロボウを追え ⑤



 サキ少尉を追って、クラッチの町を出た俺は、一路街道を東へ向けて移動していた。


情報屋の話によると、この先にある洞窟に「ブーンファミリー」という賊が巣くっているらしい。


下着ドロボウもおそらくそいつ等の仕業だろう。


営利目的で事を起こしたという事は、売る方と買う方がいるという事か、この国も病んでるな。


おっと、こうしちゃおれん、早速洞窟前まで来たぞ。


 洞窟の手前まで来たのだが、居るな、見張りみたいな門番が。


数は一人、武装している。


見た目は強そうだが、ステータスがあるこの世界ではあまり当てにはならない。


 と言っても、レベルの概念が無いらしいから、俺だけがレベルアップできるので、まあ、鍛えれば俺だって強くなるだろうし。これからだな。


片手を上げて挨拶をする、当然、門番は警戒しているが、まだ腰にある剣は抜いていない。


「こんちは~、ブーンさん居る?」


「そこで止まれ! あんた、何モンだ? 軍服を着てるって事はアリシア軍か? 何しに来た!」


一度立ち止まって様子を見る、ふむ、警戒はされているな、当たり前か。


今俺は軍服を着ているからな。


しまったな、着替えればよかったか、まあいいや。本題に入ろう。


「………パンツ一丁。」


合言葉を言ってみたが、相手の男は口元を二ヤリとして、剣を抜いた。


何か不味ったか?


「へっへっへ、その合言葉は古くてな、それにダミーの合言葉だ。お前が何者かはもうどうでもいい、ここで切り捨てるだけだぜ。」


なーんだ、やっぱりこうなったか。上手くいかないものだな。


俺も虚空から雷の小太刀を取り出し、身構える。戦う前に一応聞いてみた。


「一つ聞きたいのだが、俺の前に女性士官が一人、こっちに来なかったか?」


賊の男は口角を上げ、剣を舌で舐めて不敵な笑みをした。


「へっへっへ、お前、あいつの仲間か部下か? だったらお前も大した事ねえな。この俺様に手も足も出なかったからな、へっへっへ、きっと今頃は………。」


そうか、サキ少尉はここまで辿り着いたのか、中々捜査出来る人だったか。


やるなあサキ少尉。


しかし、ブーンファミリーの連中にとっ捕まっているらしい、早いとこ救出しなくては。


「ここに居るんだな? 女性士官が。」


「ああ、だったらどうだってんだ? ああ!!」


言葉を言い終わる前に、賊は前方にダッシュしてきた。


(何だ? 考え無しに突っ込んで来たぞ?)


男は剣を振るい、攻撃してきたが、俺はあっさりバックステップを踏み、距離を取る。


「へっへっへ、あの女は大した使い手じゃなかったしな、どうせお前もだろう? あの女位の使い手はブーンファミリーにゃゴロゴロ居るぜ! はっはっは。」


(なるほど、こいつ等、玄人くろうとなのか。だったら手加減してやる必要は無いな。)


「へっへ、どうした? お前も手も足も出ねえのか? ああ!!」


アイテムボックスからクナイを取り出し、片手で持って構える。まずは様子見。


「すまんが、その位置は俺の攻撃距離だ。」


 戦いはパワーでも機動性でもない、戦闘距離、つまり間合いを制した者が戦いを制すると俺は思う。


勿論、ゲームで培った経験だ。対戦ロボットアクションゲームで培った、俺のプレイヤースキルだな。


現実では通用しないかもしれないが、少なくとも有利に事を運べる時ぐらいはあると思う。


(間合いが甘い!)


クナイを投擲した。手加減はしていない。


クナイは真っ直ぐ飛んでいき、グサリと賊の男の額に、深々と突き刺さった。


「うごっ………………ぉ………………。」


一撃だった、一撃で賊の男はパタリと倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。


「だから言っただろう、そこは俺の間合いなんだって。」


門番を倒してしまった、もう後戻りは出来ない。


このままサキ少尉救出へ、行動をシフトチェンジした方がいいな。


俺は装備を整えようとして、アイテムボックスから冒険者仕様の忍者装備を取り出した。


そして着替えるのだが、このままでは何かが足りないと思った。


「どうせ忍者になるなら、素性も隠した方がいいよな、よっしゃ! 一丁なりきってみますか。」


ショップコマンドを使い、売られているアイテムから顔を隠すアイテムを探す。


「そういやあ、「銀仮面」なんて物があったな、確かこのへんに。」


一覧をスクロールさせて、必要と思われるアイテムを探す、あったあった、「銀仮面」。


(な!? なんと100ポイントもするのか、中々お高い買い物だな、まあいいや。買ってしまえ。)


銀仮面を購入、早速装備する。うむ、中々様になっているんじゃなかろうか。


いかにも忍者らしくなってきた。よーし! 気分が乗って来た。


よっしゃ! 一丁いきますか!


 洞窟の中へと入る、中は薄暗く、明かりが無いと不便ではある。


 だが、この「銀仮面」の効果は暗い所でも見える様になっているみたいだ、こりゃあいい買い物だったな。


こういう巨大迷路とか洞窟の様な場所では、右手の法則、又は左手の法則が役に立つ。


右手を壁の右側に添わせながら進むと、必ず出口に辿り着くという法則だ。


今回もそれを使ってみる。時間は掛かるが間違いなく目的地へ辿り着けるだろう。


 しばらく警戒しながら歩いて進み、大きな広い空洞へと出てきた。


そこには人の話し声や怒号などが聞こえてきていた。


ここだな、ブーンファミリーの連中が巣くっている場所というのは。


遠巻きから様子を窺い、広場を見る。


賊達が至る所に居て、一段高い所にブーンファミリーの連中のボスらしき人物を確認した。


そこには、サキ少尉も居た。


(よかった、サキ少尉はここだったか。しかし、ここからじゃよく見えないな。)


そう思っていたら、「銀仮面」の性能なのか、遠くのモノがはっきりと見える様になった。


 おそらく「クレアボヤンス」の装備スキルが発動したのかもしれない。中々優秀じゃないか「銀仮面」。


なんと、サキ少尉は鎖で繋がれ、衣服が破けてあられもない姿を賊達に晒していた。


(チッ、あんな上官の姿、見たくなかったぜ。)


サキ少尉は泣いていた。俺はちょっと頭に来た。


ブーンファミリーの連中の背後から近づき、一つ、大声で叫んだ。


「そこまでだ!!」


俺の声に、ブーンファミリーの連中が全員こちらを向いて、武器を構えだした。


「何モンだ! 名を名乗れ!」


俺はゆっくりと近づき、虚空から幾つかのアイテム(武器)を取り出し、準備した。


「闇に光るは銀の仮面! 正義を照らす光なり!」


俺は前口上を口に出し、様子を窺いながら、戦闘距離を測る。


「この世を乱す無法者め! シルバー忍法が許さん!」


その刹那、俺はムーンサルトの要領で高く前方へジャンプし、手裏剣を準備する。


「宙を舞い! 悪を討つ! 必殺! 手裏剣乱れ撃ち!」


 滞空時間の長いジャンプをしていたのか、丁度最高度の所で手裏剣を賊達に向けて乱れ撃つ。


賊達は悲鳴を上げながら逃げ惑い、その体に深々と手裏剣が突き刺さる。


バタバタと倒れ込み、その数を次々と減らしていく。


「嵐を呼ぶ稲妻に! 運命さだめやいばが今宵も光る!」


 雷の小太刀を構え、サキ少尉とブーンファミリーの連中のボスとの間に割って入る様に、サキ少尉を背中越しに庇う位置に着地した。


「力の限りに! (フルパワーコンタクト) 熱き心で! (熱血) 命を懸ける! (必中)」


小太刀を構え、ボスに向けダッシュ。そのまま水平切りを仕掛ける。


「我が名は銀影! 仮面の忍者、銀影! 只今見参!」


 見参、のセリフと同時に熱血必中フルコン掛けの「零距離スラッシュ」をブーンファミリーのボスに叩き込む。


水平切りは見事に炸裂し、命中。ボスを真っ二つにした。


「て、てめ………………。」


ブーンのボスは倒れた。ピクリとも動かなかった。


「勝負ありだ。」


辺りには、静寂だけが支配していた。


{賊を壊滅させました}

{ボーナス経験点500点を獲得しました}


{スキルポイントを5ポイント獲得しました}


おや? いつもの女性の声が頭に聞こえたぞ。


よっしゃ、経験点を貰えたらしい。やったぞ。


おっと、こうしちゃおれん、サキ少尉を解放しなくては。


俺はブーンのボスの遺体から鎖の鍵を探し、手に入れる。


よし、これでサキ少尉を繋いでいる鎖を外せる筈だ。


俺はサキ少尉に近づき、鎖を外す。


「もう大丈夫ですよ、お嬢さん。」


「あの、貴方は?」


 サキ少尉の目には、うっすらと涙の跡が残っていたが、気丈に振舞っている所を見ると、どうやら大丈夫そうだった。


「只の通りすがりの忍者ですよ。」


「あの、お名前を………。」


俺はアイテムボックスからシーツを一枚取り出し、そのままサキ少尉に渡す。


(ふーむ、素性を晒す訳にはいかないんだよな、仮面の忍者って。)


「どうしても呼びたければ、銀影、とお呼び下さい。それでは、これにて御免!」


俺はバックダッシュして、振り返りながら全速力で戦場を後にする。


「あ、………待って、……銀影……様………。」


ふーう、やれやれ、今回も何とか事態は凌いだみたいだ。


もうこんな事は勘弁してほしい所だな。


 後日、サキ少尉が盗まれた下着を発見したと、町中噂になり、サキ少尉は町の英雄へと囁かれる様になったそうな。


やれやれ、これで俺の汚名も返上できそうだな、あー疲れた。寝よ。





「銀影様、必ずお礼を言う為、見つけてみせますわ!」



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