第59話 下着ドロボウを追え ④



 翌日。


「え? 下着ドロボウがまだ捕まっていない?」


食堂で朝飯を食い終わり、お茶を嗜んでいた時だった。


リップとニールが寄って来て、俺に相談してきた。


「そうなのよ、ジャズ、あんた何か知らない?」


「うーん、ちょっと解らないな。」


ここでニールがズイっと前のめりに聞いて来た。


「何? 女子寮下着ドロボウ事件って、ジャズにビンタして決着が着いたんじゃねーの?」


「おいニール、人を犯人扱いするんじゃねえよ、俺じゃねえよ。俺じゃねえんだってばよ。あれは誤解が誤解を呼んだ悲しい出来事だったんだよ。俺じゃねえよ。」


「はいはい、わかったよ。で、どうなんだ? リップ。」


リップは何か解っている様な感じで答えた。


因みにリップはビンタの時手加減してくれた一人だ。


俺は覚えている。うんうん、やっぱり持つべきはよき理解者だな。


「女子寮の方はね、問題はクラッチの町の方に出没した奴の方よ。まだ被害に遭っている女性がいるみたいなのよ。ねえジャズ、何か知らないの?」


「いや、本当に知らないんだって。それにしても、町の中にまで下着ドロボウの被害が出ているってのか、しかもまだ捕まっていないと。ふーむ、これはあれじゃないか? 犯人は一人だけじゃ無いんじゃないか?」


俺の意見に、リップは喰いつき気味に聞きながら、更に聞いて来た。


「と、言うと、犯人はまだ町の中に居る可能性があるって事?」


「いや、おそらくだけど、もう下着ドロボウは町にいないかもしれない。確信は無いがおそらくはな。」


と、ここでニールがこんな事を言った。


「そもそもさ、下着ドロボウが町に出たんなら、やっぱり衛兵の領分なんじゃねーの? 町に被害が出てんだろ、衛兵は何やってんの?」


これにリップが嘆息しながら答える。


「は~、あいつ等エリートよ。下着ドロボウ位じゃ動かないわよ。忙しいとかなんとか言って。」


ふーむ、衛兵は動かないか。そういやあサキ少尉を見かけないな。


「なあリップ、サキ少尉はやっぱり、まだ下着ドロボウを捕まえる為に指揮を執っているのか? 何だか姿が見えないが。」


「ええ、今も指揮を執っていると思うわ、町の方に出かけて捜査の輪を広げているみたい。ああ、それと、ジャズ、あんたに伝言。」


「伝言? 何。」


「汚名を返上したくば、手伝え。だそうよ、どうする? ジャズ。」


「うーむ、汚名返上か、まあ、そうだな。やってみる価値はある筈だよな。」


このままいつまでも「下着ドロボウのジャズ」と言われるのは、本意ではない。


よっしゃ! 一丁いきますか! 手伝おう。犯人扱いは嫌だし。


「じゃあ、俺ちょっと町の方へ行ってみるよ、下着ドロボウを捕まえる手伝いぐらいはした方が自分の為だしな。それじゃあ。」


「「 気を付けて。 」」


 こうして俺は、下着ドロボウの犯人を捜す為、クラッチの町中へと向かうのだった。


(さて、まずは被害に遭った女性に話を聞きたい所だが、誰が被害女性かわからん。まずは冒険者ギルドへでも行ってみますか。)


俺はまず、冒険者ギルドへ向け、移動を開始した。上手く話が聞ければいいんだがな。


 それにしても、何だって下着ドロボウは犯行に及んだんだろうか、ただ単に自分で楽しむ為か? それとも………。


 冒険者ギルドに着いた、早速ガーネットあたりに聞いてみよう。


………あ! 居た居た。ガーネットだ。


酒場の方に居るって事は、今は依頼を達成して寛いでいるのかな? ちょっと行ってみよう。


「おーい、ガーネット、元気か?」


「あら、ジャズ。お仕事はいいの?」


「ああ、今はちょっとやる事があってね、それよりガーネットに聞きたい事があるんだけど。」


「何かしら、私で良ければいいわよ。」


「この町にさ、今下着ドロボウによる被害が出ているらしいじゃないか、それを聞きたくてね。俺も犯人逮捕に協力しようと思ってさ。」


「あら、そうなの。ちょっと聞いてよジャズ。私もパンティーを盗まれちゃったのよ。ホント腹が立つわ!」


なんと、ガーネットも被害に遭っていたか。よし、早速聞いてみよう。


「ガーネット、その時の状況をできるだけ詳しく聞きたいんだが、いいかな?」


「ええ、勿論よ。昨日の事だけど、私はいつもの様に洗濯をしてロープに干しておいたの。で、冒険者依頼の仕事を終えて帰ってきたら、他の物には目もくれず、下着だけ綺麗さっぱり無くなっていたって訳。」


「うーむ、昨日か。直近の事だね。誰か心当たりは無いの?」


「それがね、私だけじゃなく、他の若い女の人も被害に遭っているらしいのよ。この町全体でね。ホント、どうなってんのよ。それで今、町の中はちょっとピリピリしてんのよ。」


ふーむ、下着ドロボウによる犯行は、中々手広くやっている様だな。


それでも尚、被害が出ているってのは、もうこの町にはいないかもしれないな。


犯人は捕まる前に姿を消すだろうし。


「そういやあ、ジャズの所の若い女の人が訪ねて来て、色々と聞いて来たから、一応答えたけど。何? 兵士の人達も犯人捜しをしているの?」


「ああ、そうなんだ。へ~、サキ少尉もここへ来たのか。それで、サキ少尉は? その女の人は今何処へ?」


「え~とねえ、確か「解った!」とか言って、外の方へ向かって走って行ったみたいだけど。」


何? サキ少尉、何か解ったのか。


町の外へ向かったという事は、この町の外へ出た可能性があるな。


ちょっとサキ少尉の足取りを追ってみるか。


「ありがとうガーネット。大体解って来た。俺も色々と調べたいから、更に探してみるよ。」


「ええ、頑張って犯人を捕まえてね。私のパンティー取り戻してきて頂戴。頼んだわよ!」


 こうして、更なる情報を探りに、一度ギルドを出て、町の中を歩くのだった。


 さてと、情報収集か。こういう場合、まずは酒場だよな、情報ってのは酒場に転がっているものだしな。


 俺は早速一件の酒場へと足を踏み入れる。


 店の中は小綺麗に掃除がされていて、カウンターの向こうに酒場のマスターが一人、あと、テーブル席に客が数人、酒を飲んでいた。


俺はまずマスターの所へと近づき、声を掛ける。


「マスター、ちょっと聞きたい事があるんだが。」


酒場のマスターはコップを布で拭きながら、こちらに対応した。


「まずは酒を注文してくれ、ここは酒場だぜ。」


おっと、そうだった、タダで聞ける話は無いという事か。


こういう場合はまず何かを注文しなければ。


「それじゃあ、ミルクを一杯。」


「はいよ、ミルクね、今は仕事中か何かかい?」


「まあ、そんなところだ。」


注文したミルクは直ぐに出された。俺はそれを一口飲み、マスターにもう一度聞いてみる。


「マスター、この町全体に下着ドロボウによる被害が多発しているらしいけど、犯人の特徴というか、何か解る事ってないかな?」


「うーん、そう言われてもな、ウチの客の中には居ないと思うがな。」


「そうか、誰か知っていそうな人に心当たりって?」


「そういう事なら、ほら、そこに居るだろう。テーブル席に一人で座っている奴が。あいつは情報屋だ。何か知っているかもな。」


ふーむ、情報屋か。確かに何か知っているかもな、ちょっと聞きに行ってみようかな。


 ミルクを飲み干し、俺はカウンターから離れ、情報屋の近くまで行って、話を聞く為に銅貨を何枚か用意した。そして、情報屋に話しかけた。


「ちょっといいかい?」


「何だ?」


情報屋は静かな声で返事をした。


明かりは届いていないので顔はよく解らないが、男である事は間違いない。


 年齢も相当な年をくっている様だ。情報ってのは鮮度も大事だが、昔ながらの情報も当てになる事があったりするので、中々侮れない。


「今流行っている下着ドロボウについて、何か知っているかい?」


俺は男が座るテーブル席の上に、銅貨を一枚置く。


「………うーん、ちょっと思い出せないな。」


(ふむ、「思い出せない」か。「知らない」ではなく、ね。)


俺は更に、銅貨を一枚置く。テーブルの上には銅貨が二枚。


「………うーん、もう少しで思い出せそうなんだがな。」


(こいつ、足下見やがって。)


更に一枚、銅貨を置く。テーブルには銅貨が三枚。これで駄目なら回収して他を当たろう。


「ああ、思い出した。確かアリシア軍の女性士官が一人、色々と聞きに来たな。下着ドロボウなんてやってる奴ってのは、個人で楽しむ奴と、営利目的でやってる奴の二種類だ。個人でやってる奴ってのは派手に動かない。今騒ぎになっているってのは、多分、営利目的でやってる奴だろうな。」


「個人じゃなく、多人数での犯行って訳か。それで、そいつ等の居場所は?」


「まあ待て、奴等は危険なタイプの賊だ。「ブーンファミリー」ってやつでな、手広くやってる。邪魔をする者には容赦しない、たちが悪い連中だ。関わるなら覚悟した方がいいぜ。奴らは喧嘩っぱやく、そして強い。」


「ブーンファミリーね、場所は?」


「おいおい、話聞いてたか? 奴らは強い、一人で向かうのは自殺行為だ。警戒も厳重だしな。」


「ちょっと待て、アリシア軍の女性士官は一人で向かったんだよな?」


「ああ、そうだ。一応引き留めたぜ、一応はな。」


何てこった、サキ少尉はそんな連中の所に一人で向かったのか。


こうしちゃおれん! 俺も直ぐに行かねば!


「場所は? 何処に居る、そのブーンファミリーってのは?」


「町の外へ出て、街道を東へ進み、途中、石が四つ置いてある脇道がある。そこを右へ曲り真っ直ぐ行くと、洞窟がある。そこだ、門番が居る。客を装い、上手く潜入するなら荒事は無しの方がいいだろう。合言葉は「パンツ一丁」だ。いいか?覚えて置けよ。」


「 「パンツ一丁」ね、解った。ありがとよ。」


さて、場所は解った、サキ少尉を追って俺も動かなくては。


急いだ方がよさそうだな。


ブーンファミリーってのはどうやら強い相手らしい、気を引き締めて行こう。


酒場を出て、町の外へと向かい、門衛に事情を話して、街道を東へ向かって移動する。


サキ少尉、何事もなければ良いが。



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