第56話 下着ドロボウを追え ①



 今朝もスラッシュをモノにする為、自己鍛錬に勤しんでいる。


ここはグラウンド、今は俺一人で使っている。朝起きて直ぐに活動している。


体にそういう癖がしみついてしまっている。訓練兵時代からのやり方ってやつだな。


「スラッシュ!」


目の前の的に向かって木剣を振るう、技の完成度はもう結構なものになってきている。


今なら、零距離からのスラッシュなら殆どミスらずに技が発動する。


的にヒビが入っている、かなりの威力だ。


「よーし、今度は少し離れたところからやってみよう。」


俺は的から10メートル程離れた距離から、木剣を構えて闘気を練る。


………よし! いい感じだ、剣に闘気が乗って来た。


木剣を居合抜きの要領で構え、抜刀と同時に水平切りの軌道を描く。


「スラッシュ!」


しかし………。


「うーむ、駄目だな、変化なしか。」


的を見てみると、少しも変化は無かった。


まだまだ離れた相手に向けてのスラッシュ、「遠距離スラッシュ」は使いこなせていない状況だ。


まだまだ鍛錬が足らないという事か。


「エリック師匠は確か20メートル程離れたところから撃ってきて、それであの威力だったからなあ。俺はまだまだ修行が足らんという事だな。」


まあ、離れた相手に攻撃するなら、手裏剣などの投擲をすればいいのだが。


武器を持ち変えなくてもいいというのは、状況に即応できる様になる。


なので、使いこなせるようになっておくというのは、必要だと思う。


(零距離スラッシュならば、もう使いこなせる様になってきては、いるんだけどなあ。)


何かが足らないという事だろうか? 


闘気の練り方とか、構え方とか、思いつく事は色々ある。


上級者に聞いてみるのも悪くないかもな。


「………エリック師匠………。」


もう、エリック師匠はどこにもいない。俺が最後の教え子という事らしい。


エリック師匠に恥じない様に、更に技に磨きを掛けなければ。


と、そこでお腹のムシがグ~と鳴った。


「朝の鍛錬はここまでにしておくか、朝飯を食おう。」


木剣を仕舞い、食堂へ移動する。


 朝も早くから料理を作ってくれているスタッフは、今日も一生懸命働いている。


俺達兵士全員分の食事を作る訳なので、これは大変だろうと思う。


順番が回って来るまで列に並ぶ。


「おはようございます、毎日食事を作って頂き感謝しています。」


俺はスタッフのあばちゃんにお礼を言った。


おばちゃんは「いいよ、いいよ、これが私達の仕事だからね」と言って、元気よく返事を返してくれた。


やっぱり朝の挨拶をすると気分がいいな。


今日の朝ごはんは、米のご飯に味噌汁、大根の煮物にベーコン焼き、胡瓜のスライスだ。


旨そうだな。早速席に着いて両手を合わせて「頂きます」をする。


箸を用意してもらって、正に日本式スタイルでの食事だ。


食事も進み、途中でニールと合流する。俺達は朝飯を食べながら会話をする。


「なあジャズ、最近何だか女性兵士達の視線が厳しいものに感じないか?」


「え? そうかな、俺にはよくわからんが、お前何かしたのか?」


「何もしてねえよ。今のところはな、だけど何故か女の視線がピリピリとしたものに感じるんだよな。一体なんだろうな、ジャズ。」


「さあなあ、リップにでも聞いてみたらいいんじゃないのか。」


「そうだな、ちょっと聞いてみるか。」


そう言いながら、ニールはリップの座っている方を向いて声を掛ける。


「おーい、リップ、こっち来て一緒に食べようぜ。」


するとリップはこちらに一瞥する事もなく、返事をした。


「ごめーん、今日は私一人で食事をするから。」


「何だ? もしかしてアノ日か?」


(おい! ニール、余計な事を言うもんじゃないぞ!)


ニールのこの発言に、他の女性兵士達が一斉にこちらを向き、鋭い視線でニールを凝視した。


リップもこちらを向き、ニールに対して眉根を釣り上げて言った。


「まさか、あんたじゃないよね?」


「は? 何が?」


「………下着ドロボウ………。」


「「 下着ドロボウ? 」」


俺とニールは顔を見合わせ、お互いに疑問の表情をしつつ、リップに尋ねた。


「何? 下着ドロボウが出たの?」


「ちょっと待てニール。そんな興味津々に聞くもんじゃないよ、そういう雰囲気でもなさそうだぞ。」


「あ、ああ、わかった。」


周りからの女性兵士達の視線が、やけに冷ややかだ。


もしかして俺達、疑われているってのか? 


冗談じゃない、俺はやっていない。ニールは知らんが。


「あんた等じゃないっていう証拠はあるの?」


「おいおいリップ、俺達を疑うのか? 俺達じゃねえよ。何もしてねえよ。」


「ニール、あんたには聞いてない、ジャズ、どうなの?」


「俺じゃないよ、そもそも俺は今朝、自己鍛錬をしていたからな。」


俺は弁明する、俺じゃないよ。ニールは知らんけど。


「………そうよね、ジャズは違うわよね、疑って悪かったわねジャズ。」


「おいおい、ジャズはすんなり信用して、俺はまだ疑うのかよ。どうなってんだ?」


ニールの事は知らんが、このままこういう状態が続くというのは、正直言ってあまり感心しない事ではある。


それにしても居るんだな、この世界にも下着ドロボウなんて、世間は広い様で狭かった。


「なあ、リップ、誰の下着が狙われたんだ? 良かったら協力しようか?」


「そうね、ジャズには協力して貰った方がいいかもしれないわね、あのねジャズ、お花柄のパンティーばかりが狙われたのよ。私は違うからいいんだけど、そういう問題じゃないのよ。女性兵士全体の問題として、今サキ少尉達が陣頭指揮を執って、下着ドロボウを捕まえる計画を進行中なのよ。」


「へえ~、サキ少尉達が、早く見つかるといいね。」


「ちょっと待てよリップ、俺じゃねえからな。そこんところしっかりとサキ少尉達に言っとけよ。いいな!」


リップはニールの意見を無視して、他の女性兵士達に俺が作戦に参加した事を説明していた。


「なあ! 何でジャズは信用して、俺は疑われてんの? 訳がわからないんですけど!」


「あんたは信用に足る何かが欠けているのよ、ニール、本当にあんたじゃないのよね?」


「だからちげーって、俺じゃねえよ!」


「ニール、お前でもないなら下着ドロボウ逮捕に協力した方が身の為だぞ。」


「何だよジャズまで、信用しろって、俺じゃねえよ。ホントだって。」


「解ってるよ、取り敢えず飯を食おうぜ、お茶飲みたい。」


「お前、マイペースだなジャズ。」


こういう時は慌てない方が、かえっていいのだ。


挙動不審な動きをしていたら、間違いなく疑われるからな。


朝飯を食べ終わり、お茶を啜りながらリップの話を聞く事になった。


なんでもここ最近、下着ドロボウがクラッチの町中で流行っているらしい。


この駐屯地も例外ではなく、女性兵士が被害に遭ったらしい。


「普通に考えて、駐屯地の中にまで入って来ての犯行、って事だよな。うーん、そんな気の強い奴が下着ドロボウなんかするかな?」


「どういう事? ジャズ。」


「あのなリップ、普通下着ドロボウってのは誰にも気付かれずに下着に手を出して、その下着を女性の身体に装着されているところを想像しながら興奮する奴が、多いんじゃないかなと思うんだよ。多分だけどね。」


「………いやに詳しいわね、ジャズ。」


「俺じゃないよ、俺じゃ、下着ドロボウが捕まった事があったんだが、その時の弁明が確かそんな感じだったんだよ。言っとくけど、俺じゃないよ。」


「………わかってるわよ、何度も言わなくても、ニールも違うのよね?」


「ああ、俺じゃねえ。俺はやってねえ。」


「………今は、信用してあげる。私達に協力するのよね?」


「「 はい、そうです。 」」


「それじゃあ、まずは、備品課のクリスの所まで行って来て頂戴。あの子も被害に遭ったらしいのよ。」


な!? 何だと!? 備品課のマドンナ、クリスちゃんまで毒牙に掛けるだと! 


許せん! 下着ドロボウめ! スラッシュをかましてくれるわ! 


きっとエリック師匠もそうしろって言うだろう。


「それじゃあ、俺ちょっとクリスちゃんの所へ行って、様子を見に行きがてら情報を集めに言ってくるよ。」


「ええ、お願いね、ジャズ。ニール、あんたは私達と犯人捜しよ。いいわね。」


「………了解。」


こうして、下着ドロボウの捜索と犯人逮捕へ向けて、俺達は一丸となって事に対処していった。


犯人は果たして誰なのか? 捜査の輪が狭まりつつあるのであった。


花柄のパンティーか、必ず取り戻してみせる。










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