第50話 シスターサナリー救出任務 ⑨



 サナリー王女を伴って、俺達各小隊とマーテルさんは修道院を後にする。


森の中の道を抜け、街道に出たところで、再び辺りを警戒した。


見渡したところ、特に何かの人影や動く物陰らしきものは無かった。


モンスターの影も無い、静かなものだ。


「よーし! 警戒を更に続けて前進、用心しろ。何処から敵が来るか解らんぞ、気合入れろよ!」


「「「 は!! 」」」


 ふーむ、特にこれと言って何もないな、しかし警戒は怠らない様にしなくては。


敵がその気になれば、テレポートなどの転移魔法やマジックアイテムなどを駆使して襲って来るだろう。


闇の崇拝者に、王女サナリー様が何故狙われているのかは解らないが、先の戦いでは間違いなく戦闘になった事は確かな事だし、油断は出来ない。


ふむ、サナリー様に何か思い当たる節は無いか、それとなく聞いてみようかな。


いや、身分が違いすぎるか。俺は只の兵士、サナリー様は王女、お手軽に聞ける相手ではない。


ここはサキ少尉に聞いてみよう。


「隊長、ちょっと気になる事があるのですが、今よろしいでしょうか?」


先頭を歩くコマンド兵のリップと、メリー伍長の鼻を頼りに、少し警戒を緩めてサキ少尉に話しかけてみた。


「何だ? ジャズ上等兵、警戒中だが少し位なら話し相手になってやらん事も無い。言ってみろ。」


「はい、自分は王族の事はよく解らないのですが、やはり王族というだけで命を狙われるものなのでしょうか? 敵はサナリー様を狙っていたと考えた方が自然と感じますが。」


俺が聞いた質問に、サキ少尉が少し言い澱んだ口調で答えてくれた。


「………コホン、おいジャズ、目の前に王族の第二王女サナリー様がいらっしゃるのに、突然何聞いてくるのだ、解るだろう、言いにくい事だってこれまでの王国の歴史の中で幾らでもあるのだぞ。それを何だ、貴様はあれか? スパイか間者か何かか? 貴様はこの国の出身ではないのか?」


おっと、質問したら今度は俺の事を聞きにきたか、困ったな、俺はこの国の出身なのかどうかは正直わからん。


ジャズの過去は本当に俺にとって未知の事だからな。ここはお茶を濁しとくか。


「いえ、ただ自分は歴史についてあまり詳しくありませんので、やはり王族というだけで狙われ易いものなのかと、ちょっと気になっただけでして、答え難い事でしたら無理に聞きはしませんよ。」


何となく誤魔化したつもりだが、自分でも怪しいとは思う。


だがここで答えたのは、意外にもニールだった。


「何だジャズ、お前知らねえのか? いいか、闇の崇拝者ってのは昔語りに登場する様な、それは恐ろしい存在なんだぜ。俺が子供の頃、よくばあちゃんに「悪い事をすると闇の崇拝者になるぞ」って脅かされていたっけな。兎に角、闇の崇拝者ってのはとんでもねえ奴なんだよ。王族の一人や二人狙う事ぐらいするだろうが。」


(え~、ホントかよ、それだったら俺のゲーム知識の方がよく知っているがな。)


闇の崇拝者というのは、ゲーム「ラングサーガ」の中では主人公の邪魔をする存在として、また、戦争の陰で暗躍する邪教集団として描かれていた。


しかし、それはこの世界での事とは当てはまらないと思う。


何故なら今この世界は、ゲーム「ラングサーガ」の話から700年後の世界らしいからだ。


普通、700年も経っていると、色々とゲームとは違うところも出てくる筈である。


普通ならばだが。


何故か「ラングサーガ」のストーリーのままのところもあったりするので、その辺の時間軸はよく解っていない。


まあ、この世界が異世界だからと言われてしまえば、それで納得するしかないが。


そんな訳で、闇の崇拝者が700年経っていても、今だに暗躍している可能性はあるかもしれないので、確信は持てない。


まあ、その辺の事はこの時代の勇者にでも任せておけばいいと思う。


俺が知りたいのは、何故サナリー様が狙われたのか、って所なんだが。


王侯貴族に詳しい人にでも、聞いた方がいいのかな。


「なあニール、闇の崇拝者の目的って何かな? やっぱり世界を混沌にする事が目的なのかな?」


「はあ? 何言ってんだジャズ、世界を混沌にしてどうすんだよ。闇の崇拝者だって生きていけないだろそんなの。自分の居場所を壊してどうすんだよ。」


な!? 何ぃ! ニールの奴、何まともな事言ってんだ? 


いや、確かにそうだ。幾ら闇の崇拝者だって目的があって行動している筈だよな。


俺はその目的が知りたいだけなんだが、目的が解れば対策もある程度練る事が楽になる。


ここは闇の崇拝者と戦い続けている、シャイニングナイツのマーテルさんに聞いてみるか。


「マーテル殿、少し聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」


「何ですか? ジャズさん。」


マーテルさんは俺と話し易い様に、高度を低くして飛んでくれた。


「ずばり聞きますが、闇の崇拝者の目的って何でしょうね?」


「………それは、あのマグマの事ですか? それとも闇の崇拝者全体の事ですか?」


「出来れば、両方。」


ここでマーテルさんは少し考えている様子で、言葉を選んで話す様に思考している様子だった。そして、俺に答えた。


「マグマの目的はおそらく、サナリー様のお命かと、しかし、直ぐに戦いから身を引いた事を鑑みて、その目的ははっきりとは解りません。ですが、闇の崇拝者全体の目的は、これまでのシャイニングナイツが得た情報で、人に影響を与える人物を狙っている節がある事は確かです。」


「人に影響を与える人物ですか、………どうも。」


ふーむ、影響力がある人物を狙う、か、何がしたいんだろうな、闇の崇拝者ってのは。


しかし、それだとサナリー様が人々に何らかの影響を与える人物という事になるよな。


普通に考えて次の女王様とか、いや、確か兄が二人いるんだったな。


それに王位継承権を放棄したって事だし、だけどそれで狙われるってのはどうなんだろう? 


駄目だ、思い付かん。面と向かって王女様に聞く事もはばかられるだろうし。


まあ、この事は今は考えても仕方がないかな。俺が何か出来る訳でもないし。


それに今回の任務だって、マーテルさんが居なければ王女を助ける事も出来なかっただろう。


俺は今回、何も出来なかった、自分の無力を思い知ったってところか。


闇の崇拝者か………恐ろしい手練てだれだったな、もう二度と遭遇したくないもんだ。


 そうこうしていると、いつの間にかクラッチの町に着いていた。


考え事をしながらも、目的地に到着したか、俺もこの町に少しずつ慣れてきたのかな。



{シナリオをクリアしました}

{経験点を750点獲得しました}

{ショップポイントを100ポイント獲得しました}

{スキルポイントを3ポイント獲得しました}



おや、いつもの女性の声がファンファーレと共に聞こえてきた。


そうか、今回俺は特に活躍した訳でもないが、一応経験点は貰えたか。


もしかして、サナリー様を無事に町に送り届けたから、シナリオクリアになったのかな。


こいつは有難い。


ふう~~やれやれ、今回も何とか無事にやり遂げられたか。


俺は特に何もしていないが、まあ、これで良しとしとくか。


ここで、マーテルさんがサキ少尉に声を掛けた。


「それでは、私とサナリー様は町に入りましたので、このまま女神教会へ向かいます。皆さん、今回は本当にありがとうございました。貴方方に付いて来て頂いたお陰で、こうして無事に任務を果たす事が出来ました。感謝致します。」


更に、ペガサスの背に乗っているサナリー王女様からも、お礼を言われた。


「皆様、わたくしの為にここまで護衛して頂き、誠に感謝致します。では、わたくし達はここで失礼致します。」


そう言って、マーテルさんと王女様は、そのまま女神教会のある方へ向けて飛んで行った。


それを見届けて、サキ隊長が皆に号令をかける。


「よーし! 任務は終了だ。皆、よくやってくれた。基地へ帰るぞ。」


「「「 はい! 」」」


こうして、今回の任務は無事に達成できた。


まあ、山賊が全滅したり、闇の崇拝者のマグマが襲ってきたり、謎が残る結末ではあるが。


今回は無事に、第二王女サナリー様を護衛したという事で任務完了という事にしておこう。


基地に帰って一休みしたいところだな。結構歩き疲れた。基地に戻って兵舎で寝よう。


「そろそろ、対魔法使い戦を想定したスキルを取った方がいいのかもしれんな。」


「どうした? ジャズ上等兵。」


「いえ、何でもありません、サキ隊長。」








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