第43話 シスターサナリー救出任務 ②



 サキ小隊とナナ小隊の合同小隊、加えてシャイニングナイツのマーテルさんを伴って、俺達は一路、街道を西へと向かっている。


港町ハッサン方面へと向かい、途中にある土がむき出しになっている横道に逸れる。


そのまま進むと、草原から森の地形へと段々変化していく。


天気は曇り、一雨きそうな天気だ、だが雨が降って来る気配は無い。


只の曇り空ってところか。風がやや吹いている、まだ乾いた風だ。


湿ってはいないので、このままこの天気でいて貰いたいものだな。


マーテルさんは俺達より少し先行した上空を飛んでいて、辺りを警戒してくれている。


流石ペガサスナイト、空からの偵察など、飛兵ならではである。


ただ、敵からは丸解りなので、あまり頼り切る事は出来ない。


 街道を歩いていると、ニール達から声を掛けられた。


何だか皆嬉しそうだ、隊長達も張り切っている。どうしたんだろうか?


「なあジャズ、信じられるか? 俺達あのシャイニングナイツと行動を共にしているんだぜ。なんかこう、英雄にでもなった気分だよな。」


「そうかな? そう言やあ冒険者仲間の女性が言っていたっけ、確かシャイニングナイツは凄く活躍しているって。やっぱり女性だけで構成された聖騎士隊だけあって、人気があるのか?」


そこでリップが嬉しそうに答えた。同じ女性が活躍しているからなのか、まるで自分の事の様に語りだした。


「ジャズったら、何も知らないの? いい、シャイニングナイツっていうのはそりゃあ凄いのよ。たった一人で大型モンスターを討伐したり、王族や貴族の警護をしたり、噂では10人ぐらいであのレッドドラゴンを倒したって評判になっているんだから。その活躍ぶりはこの国のみならず、他国にまで評判や噂が広まっているんだから、国境を越えて人々の為に活躍しているのよ。凄いわよねえ。」


「へえ~、そうなんだ。シャイニングナイツって凄いんだな。そうだ、折角マーテルさんが居るんだから、その噂話を聞いてみればいいんじゃないか?」


俺の意見に、メリー伍長が慌てて答えた。


「そ、そんな恐れ多い事聞ける訳無いです。シャイニングナイツですよ。私達とは違うです、本物の聖騎士様ですよ。きっと並々ならぬ努力を積み重ねてきたに違いないです。そうして今のシャイニングナイツがあるです。」


ふーむ、そうなのか。ちょっと聞いてみようかな。


折角近くにシャイニングナイツのマーテルさんが居る訳だし。よし、聞いてみよう。


「マーテル殿、少しお聞きしたい事があるのですが?」


俺の質問に、マーテルさんは高度を下げて、俺と話し易い高さまで下りてくれた。


「何ですか? 私にお答え出来る事で良ければ。」


「噂では色々とご活躍されているとお聞きしたのですが、本当のところはどうなのですか?」


俺の質問にマーテルさんは笑顔になって、少し困った様な表情をしつつ答えてくれた。


「え~とですね、色々と活躍しているメンバーは確かにいますが、そういった本当に強い騎士はほんの一握りですよ。私は勿論、他のシャイニングナイツの皆も、おそらく皆さんと同じくらいの強さだと思いますよ。噂や評判が先行してしまって、尾ひれがついているのは確かですよ。」


「そうでしたか、有名になるというのも大変なのですね。答えて下さりどうもありがとうございます。」


「いえ、私も誤解されたままでは、困りますので、では。」


そう言って、マーテルさんは上空の警戒に戻っていった。ここでサキ少尉から俺に意見があった。


「ちょっとジャズ上等兵、何聞いているのだ。失礼だろうが。アリシア軍人として恥ずかしくない態度と礼節をもって行動しろよ。いいな。」


「は、はい。了解であります。」


怒られちゃった。


サキ少尉と、それからナナ少尉もこちらを一瞥していて、あまりいい顔はしていなかった。


ちょっと聞いただけなのだが、シャイニングナイツって女性陣にとっては何か特別な存在なのかもしれないな。


これからは気を付けよう。


 辺りの景色が草原から森へと変わってきて、大分歩いたところで、サキ少尉が片手を上げ、皆を制止させた。


俺達は移動の足を一旦止め、辺りを警戒する。


「そろそろ目的地に到着する。よし皆、30分休憩。マーテル殿も降りて来て下さい。それとナナ、リップ二等兵、ちょっとこっちに来てくれ。」


サキ少尉が休憩を取らせ、俺達はその場で座り込み、革袋の水筒を取り出して水分を補給する。


辺りは静かな森の中だ。目的地の修道院まではもう少しといったところだろうか。


サキ隊長とナナ隊長、それとリップが集まり、何やら話し込んでいる。


おそらくこれからの作戦か何かを話し合っているのだろう。


ちょっと聞き耳を立ててみよう。


サキ少尉が自分のアイテムボックスから地図を取り出し、それを広げて三人に見える様に地面に置く。


「ここが今我々が居る場所だ。そしてここが修道院、この修道院の周辺に賊が取り囲んでいるらしい。リップ二等兵、君のコマンド兵としての力が必要だ。先行偵察して様子を伺い、正確な敵の数と敵リーダーの存在の有無、それと、待ち伏せに適した場所を探してほしい。やってくれるか?」


「はい、出来ます。」


「リップさん、休憩してからで構いませんわ、無理せず、事に対処して下さいな。」


「は! 了解であります。」


なるほど、リップを偵察に出して様子を見ようという事か。


確かにリップは斥候スカウトとして優秀なコマンド兵だからな。


だけど、ちょっとだけ心配だな。


よーし、俺のショップコマンドを使って、リップに何かアイテムを渡しておくか。


俺はショップコマンドを開き、リップに適したアイテムを探す。


………お? これなんかいいかも。早速購入し、アイテムボックスから取り出しアイテムを確認する。


(フルブロックの指輪、こいつならリップの助けになると思う。)


「リップ、ちょっといいか?」


「何? ジャズ。」


「この指輪を受け取ってくれ。」


「………ちょ、ちょっとジャズ、こんな時に何を!」


リップは何か慌てた様子だったが、気にせず説明した。


「この指輪はマジックアイテムだ。「フルブロックの指輪」といって、どんな攻撃でも一度だけ完全に防いでくれる、いいか、一度だけだぞ。もしこれが壊れる様な事態に陥ったら、何も考えずに逃げろ。そして身を隠せ、いいな。」


「あ、ああ、そういう、………わかったわ、有難く受け取っておくわ。ありがとうジャズ。」


リップは俺から受け取った指輪を、左手薬指に嵌めた。


別にそこでなくてもいいんだが、まあいいか。


俺とリップのやり取りを見ていたナナ少尉が、横槍を入れるような感じでちゃちゃを入れてきた。


「こら、君達、何イチャついていやがりますの、作戦前の大事な休憩時間でしてよ。」


「「 べ、別にイチャついている訳では。 」」


「うふふ、いいですね、もしお二人が式を挙げるなら私が仲人をしますけど?」


「「 マーテル殿まで、違いますから。 」」


俺達はからかわれたが、まあ、こういう気の抜き方も必要という事だな。


 30分の休憩の後、リップは先行偵察の為に行動を開始した。


森の中の道を、修道院方面へ向けて駆けていったようだ。


何事も無ければいいが。うまくやってくれよ、リップ。


ここでサキ少尉から俺達に、命令があった。


「よーしお前達、準備しとけよ。武具の手入れも忘れずにやっているな、回復薬も常に使える様にホルダーに固定しとけよ。」


「「「「 了解。 」」」」


ナナ少尉も俺達に声をかけた。


「リップさんに先行偵察を命じました、上手く事が運べばそろそろ戻ってくるかと思いますわ。リップさんが戻ってきたら、作戦を練りますから、貴方方はしばらく待機、備えておきなさいな。」


「「「「 はい。 」」」」


ここで、こうして待っているだけってのも、意外と辛いものだな。


リップの事は心配ではあるが、リップはリップで上手くやると思う。


これまで厳しい訓練に耐えてきた俺達なら、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。


さあ、いよいよ作戦が動き出したってところか、俺も上手くやっていこう。




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