第30話 休日の過ごし方は人それぞれ ⑨
クラッチの町の襲撃事件から一夜明け、町の中は復旧作業に今も追われている。
とんだ休暇になってしまったな。
今日も、クラッチ駐屯地の敷地内にある兵舎で目を覚ました。
顔を洗い、食堂で朝飯を食べ、まったりと過ごしていた。
そんな時、一人の先輩兵士から伝言を聞いた。
「おい、ジャズ。コジマ司令がお呼びだ。直ぐに向かった方がいいぞ。」
「コジマ司令が? わかりました、直ちに向かいます。」
(はて? 何事であろうか。)
急ぎ、司令室の前まで来た。
扉をコンコンとノックして、「ジャズ二等兵! 参りました!」と名乗り返事を待つ。
すぐさま「入りたまえ」という声が聞こえたので、「失礼します!」と言いながら扉を開けて中へと入る。
司令室にはコジマ司令とリカルド軍曹の二人が居たが。
入室するのと同時に軍曹が、「それでは、自分はこれで失礼します」と言って司令室を退室した。
特に軍曹との会話は無かった。
扉から横へとずれて、軍曹の退室を優先させ、自分は敬礼したまま立っていた。
「ジャズ二等兵、来たまえ。」
「は!」
コジマ司令に言われ、司令の前まで歩き、立ち止まって敬礼する。
「お呼び出しとお伺いしました。」
「休め、まあ楽にして下さい。いまお茶を淹れますからね。」
「は、はい。」
気を付けの姿勢から休めの姿勢へと変える。
コジマ司令はお茶を淹れてくれるらしい。
一体どうしたってんだ? 只の二等兵だよ俺。
コジマ司令がお茶を淹れて、司令の机の上に置いた。
「どうぞ、遠慮しないで飲んで下さい」と勧められたので、「は、いただきます」と言って熱いお茶をと啜る。
う~んいい味、そして香り、美味いお茶だ。きっと高級な茶葉を使ったに違いない。
「さて、本題に入る前に、君に言っておきたい件があってね、呼び出して悪かったね。」
「いえ、それで、自分にお話というのは?」
「うむ、先日のモンスター襲撃騒ぎなのだが、やはりダークガードの仕業である事が判明した。君も知っているだろうが、あの二人組みの黒いローブを着た不審な人物の事だよ。リカルド君が捕らえて、この基地に収監している。」
やはり、あの二人組みの男というのはダークガードだったか。
黒ローブってとこからもう怪しかったからな。
「そして、尋問した結果、その二人が本来使用する事をご法度(はっと)としている召喚の宝玉を使い、モンスターを召喚していた事がわかりました。」
「やはり召喚されたモンスターでしたか。倒したモンスターが砂に変わったので、もしやと思いました。それにしても、ご法度なのにその二人組みの男は持っていたのでありますか?」
この質問に、コジマ司令が「まあ、ご法度なのは使用する事であって、取引そのものは違法ではないんですがね」と説明してくれた。
まあ、貴族なんかがコレクションしたり、好事家が持っていたりするという事か。
この国の法律も、結構穴だらけという事かな?
「だが、昨日の町や他の皆様のお陰で何とか事なきを得た、といった具合だよ。ジャズ君、君はダークガードについてどう思うかね?」
(ダークガードについて、か。)
「そうですね、自分はよく解らないのですが、ダークガードというのは危険な存在だと認識しています。現段階に置いては、ですが。」
「そうだね、私もそう思う。ダークガードについては我々は後手に回っているのが現状なのだよ。このままではいかんと思ってはいるがね。」
ふーむ、ダークガードは召喚の宝玉まで使って、一体この町で何がしたかったのかな?
今一わからん。
「ダークガードについては引き続き警戒を強めるしか、今の所打つ手が無い。ジャズ君も十分に気を付けたまえ。」
「は!」
話が一段落して、コジマ司令がお茶を飲み、一呼吸置いて、今度はにこやかな表情で語り始めた。
「さて、それでは本題に入ろう。ジャズ二等兵、女神教会へ赴き、話は聞けたかね?」
「はい、その事なのですが、自分はあまり信用されていなかった様でして、司祭様やシスターさんからお話は聞けませんでした。お役に立てず申し訳ありません。」
「いえいえ、気にしないで下さい。そうでしたか、お話はして貰えなかった訳ですね。それなら丁度いい機会です。」
そう言いながら、コジマ司令は机の引き出しから、一つの指輪を取り出した。
それを机の上に置いて、こう言った。
「それではジャズ二等兵、先の混乱の最中に大型モンスター、ヘルハウンドを討伐した功績を認め、ジャズ二等兵を上等兵へと昇進させます。階級章を受け取り賜え。」
(俺が昇進? 上等兵に?)
「は! 謹んで拝命致します。」
(この人はまた、俺の事をどこで見ていたのやら。大型モンスターを倒したのを、どこかで見ていたという事か?)
「それと、ジャズ君。君に義勇軍への参加を命じます。この指輪を受け取りなさい。」
「義勇軍への参加? それは一体?」
階級章を受け取りつつ、コジマ司令に聞き返した。
義勇軍って、あの義勇軍の事だよね? ゲーム「ラングサーガ」の。
「ジャズ君、現状、我々は厳しい立場に立たされています。ダークガードについて何も知らない。おまけにこの町に少なからず被害が発生してしまいました。もう悠長に構えてはいられないという事です。」
コジマ司令は机の上にある指輪を、こちらに差し出した。
「ジャズ君、君にこの「ブレイブリング」、義勇軍の証を渡しておきます。ああ、大丈夫。義勇軍といっても仮入隊ですから、基本的にはアリシア王国軍の兵士として任務に従事し、義勇軍からの任務が発令された場合には、そちらの方を優先させて下さい。」
「自分がでありますか? 務まるでしょうか? 義勇軍になる事を。」
「私は出来ると信じていますよ。他でもない、ジャズ君ならね。やってもらえるかね?」
ふーむ、義勇軍か、今、俺は一兵士なんだがなあ。
ここで更に義勇軍への参加を要請されてしまった。どうしよう。
「コジマ司令官殿、自分には荷が重いと思われます。二足のわらじというのは自分には出来ません。」
断ると、コジマ司令は笑顔になり、こう切り出した。
「大丈夫ですよ、ジャズ君。君には普段どおりに生活して頂きます。兵士としてね。義勇軍といってもそんなにしょっちゅう任務がある訳ではありません。普段はここのクラッチ駐屯軍としての兵士として、任務に従事してくれればよいのですよ。」
ふーむ、そう言われてもなあ。
「それに、この基地には他に二人、義勇軍のメンバーがいます。今はまだ、誰が義勇軍のメンバーなのかは秘匿させて貰いますが、いずれ、会う事もあるでしょう。」
(なんと、俺の他にこの基地には二人の義勇軍が居るという事か。それは心強いな。)
「ジャズ君、君の力は必ず人の助けになります。その時に自分には何が出来るのか。君には気付いている筈だよ。ジャズ君、この指輪を受け取ってくれ。頼む。」
「司令………。」
コジマ司令は頭を下げた。ここまでされて、黙っているというのも気が引ける。
しょうがない、やれるだけやってみますか。
「解りました、義勇軍への仮入隊の件、確かに受けました。しかし、自分には出来る事が限られているという事もご理解下さい。」
「おお! やってくれるかい、ありがとうジャズ君。」
コジマ司令は義勇軍の証、ブレイブリングを手渡してきた。
それを受け取り、指に嵌める。これで義勇軍の仲間入りか。なんだかむず痒い感じだ。
だけど、この世界はゲーム「ラングサーガ」から700年も経過している。
にも関わらず、この世界ではまるで時間を感じさせない様な事が多々ある。
そこのところはどうなっているのやら? よくわからん。
ここがゲーム世界だからと言われれば、それで納得してしまえるけど。
700年経っても、変わらないものもあるという事かな。
「それではジャズ上等兵、引き続き休暇を楽しみたまえ、以上だ。」
「は! では、これで失礼致します。」
こうして、司令室を後にして兵舎へと戻った。
襟首には上等兵の階級章と、指には義勇軍の証、ブレイブリングが嵌まっていた。
(そうか、とうとう俺は義勇軍に入ってしまったのか。これでゲームのストーリーの本筋になるのかどうかは、ちょっと解らないな。まあ、やるだけやってみますか。)
こうして、今日一日が幕を下ろそうとしていた。これから先、何が起きる事やら。
少しの不安と、義勇軍に入った事を期待に思い、ベッドに横になるのだった。
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