第28話 休日の過ごし方は人それぞれ ⑦
ガーネットに連れられ、クラッチの外へと続く町門のところまでやって来た。
この町をぐるりと、3メートル程の高さの壁が囲っている。
モンスターに襲撃されても、すぐさま対処できる様にする為だな。
門番である町の門衛に挨拶をして外へと出る、確か、この街道を東に行けば王都方面へ行けた筈だ。
西へ行くと、港町へ行くんだよな。
こちらの目的はクラッチの町から程近い草原地帯だ。そこに行ってモンスター退治だな。
町から出て、街道を歩き、一歩道を逸れるとそこはもう草原だ、広大な草地が広がっている。
その幾つかの箇所にぽつぽつとモンスターが見える。
居た居た、ホーンラビットだ。確かに沢山居る様だ。
こいつを間引いてほしい。というのが今回の依頼内容だったな。
「ガーネット、取り敢えずあそこに居る奴から倒していこうか。」
「わかったわ。」
ガーネットと二人、モンスターが密集しているところまで近づく。
モンスターはまだこちらに気付いていない、草を食(は)んでいるようだ。
「ガーネット、フォーメーションスリーだ!」
「え? ふぁーめーしょん?」
(しまった、ついゲームの時の癖で。)
「ガーネットはその場で狙撃。俺が左側面から回り込みながら接近して、接近戦に持ち込む! ガーネットは兎に角遠距離射撃! いけるかい?」
「わ、わかった! 何とかやってみる!」
ガーネットが弓に矢を番えて、モンスターの一団に狙いをつける。
こっちは弓の射線上に入らないように、左方向から回り込む。
よし! 半包囲できつつある。
両手にクナイを持ち、精神コマンドは使わずモンスターに接近し、渾身の力でクナイを二本同時に投げる。
(まずは初手!)
ストレングスレベル5の投擲だ、そう易々と避けられるものでもない。
クナイは勢いよく飛んでいき、二匹のホーンラビットに命中。
ホーンラビット二匹はその場で吹っ飛び、地面にパタリと倒れる。
(よし! 一撃か、流石スキルレベル5だ。筋力だけならレベル15相当ぐらいはある。)
二匹のホーンラビットを仕留めた直後、ガーネットも弓を射掛け、モンスターの集団の一匹に命中した。
ホーンラビットはパタリと倒れてその場で動かない。どうやらガーネットの攻撃でも一撃で倒せるようだ。
「ジャズが私の射線上に入ってこないから、狙いが付け易いわ! ラットと二人だけで組んでいたらこうはいかないでしょうね!」
「油断せずいこう! まだモンスターの数はあまり減っていない。この調子でいこう!」
「オッケー!」
モンスターの集団に接近し、今度は雷の小太刀を抜き、逆手に持って走りながら狙いをつける。
一匹のホーンラビットを攻撃。横一閃に斬り、モンスターを真っ二つにする。
よし、小太刀の切れ味は大したものだ。
雷属性の攻撃ダメージを追加で与える魔法の武器だからな。これでショップポイント50は寧ろ安い方だ。
その間もガーネットは一匹ずつ倒していっていた。やるなあガーネット。
もう駆け出しの新米では無いんじゃないか?
モンスターの一団を壊滅させたので、少し休憩をした。
こうやって少しずつ休みながら動くといいんだよな。
常に緊張しっぱなしよりかは随分ましだ。
「ジャズ、あなた凄く戦えるじゃない。今までどんな経験してきたの?」
「ガーネットこそ、ほぼ一撃でホーンラビットを倒していたじゃないか。もう新米なんて呼べないな。」
こうして、モンスターの集団を見つけては攻撃し、討伐しては休憩を挟み、昼近くまで仕事をしていた。
もうそろそろお昼時かな?
「ガーネット、飯にしよう。ここまでホーンラビットを倒せばもう十分なんじゃないかな?」
「そうね、もうお昼時なのね、何だかジャズと組んで仕事をしているとこっちがやり易いのよね。ジャズってさ、パーティー戦の経験あるの?」
「うーん、どうなんだろうね。自分ではよく解らないからね。」
(まあ、ゲーム知識を活かしてやっているだけだし。)
「ふーん、さあ。ご飯にしましょうか。」
今日のお昼ご飯は簡単なものだ。パンに干し肉、チーズ、皮の水筒の水を飲み、昼飯を食べる。
こういう外で食べるのも中々風情があっていいな。
遠足気分を味わいながら、昼休憩をまったり過ごす。
「そういやさぁ、倒したモンスターって、アンデッドモンスターにならないのかな?」
「ああ、それなら大丈夫よジャズ。スライムがいるからね。」
「スライム? あのスライムの事かい?」
「ええ、スライムってね、別名「掃除屋」と呼ばれているのよ。私達冒険者や衛兵なんかが倒したモンスターを、スライムが捕食して食べて溶かしてくれるのよ。だから、スライムの討伐依頼って無かったでしょ。そういう理由よ。」
「へえ~、掃除屋ねえ。」
「尤も、大きくなり過ぎたスライムは討伐対象だから、見かけたら倒さなくちゃならないけどね。」
なるほど、そういうからくりがあったのか。
道理で倒したモンスターをそのままにしておく理由が解った。
ちゃんと理由があったんだな。
飯を食い終わり、人心地ついた。
モンスターの討伐依頼も達成したという事で、クラッチの町へ帰還しようという事になった。
「それじゃあ、帰りましょうか。ジャズ。」
「そうだね、帰ろう。」
クラッチへと帰る道すがら、何やら町の様子が変だなと感じた。何が? とは解らないが。
「あ!? 見てジャズ! 町から煙が上がってるわ!」
「本当だ!? 黒煙じゃないか! 何かあったのかな? 急いで行って見よう!」
ガーネットと二人、急ぎ、クラッチの町へ向けて駆け出した。
何か嫌な予感がする。町の皆は大丈夫だろうか。
クラッチの町の壁門まで近づいた時、壁門付近で門番の門衛とモンスターのゴブリンが戦闘していた。
門衛が一人でゴブリン5匹と対峙していた。まずい! 劣勢だ。急いで駆けつける。
「冒険者です! 支援します!」
「すまん! 助かる! こいつら急に湧いて出て来たんだ! 一体何処から!?」
どうやら緊急を要するみたいだ。兎に角まず、門のところにいるゴブリン5匹に対処しなければ。
「ガーネット! フォーメーションスリー! 覚えてるか?」
「ええ! あの手で行くのね! わかったわ!」
ガーネットがその場で狙撃。
こっちは左側面からゴブリンを回り込んで接近。
その合間に両手に手裏剣を持ち、ゴブリン2匹に狙いをつけ、渾身の投擲を叩き込む。
「「 グギャッ……… 」」
(まずは2つ!)
ゴブリン2匹に同時に命中、ゴブリンを一撃で倒した。
よし、いける、ストレングスレベル5はやはり強力だ。
おまけに「投擲」のスキルもある。効果は絶大だ。
その間もガーネットが弓を射掛けて、ゴブリンにダメージを負わせている。
さすがに一撃とはいかないが、それでも牽制にはなっている。
門衛の人も、ゴブリン1匹によく対処している。
ゴブリンに接近し、小太刀を抜いて横一閃、切れ味抜群の小太刀はゴブリンを一刀両断にした。
声を上げる暇も無いようだ。
(これで3つ!)
その間に門衛がゴブリン1匹を槍で貫き、仕留める。やるな、門衛さん。
(4つ、あと1つ!)
残ったゴブリンを見ると、既にガーネットの弓が炸裂していた後だった。
石の矢が二本、ゴブリンの頭部に突き刺さっていた。やるじゃないかガーネット。
(これで仕舞い。戦闘終了。)
武器を納めて門衛に近づく。
三人とも特に怪我などはしていない様だ。よかった、間に合ったか。
「門衛さん、一体何があったのですか?」
ガーネットが門衛に聞くと、門衛はぜえぜえと息を乱しながら答えた。
「と、兎に角、助かったよ、ありがとう、参ったよ、いきなりこんな事態になってしまって。」
いきなりなのか、モンスターが町を襲撃してきたのは。
ゴブリンというのはそんなにも危険なモンスターなのか?
レベルの低い内は手こずる相手かもしれんが。
ガ-ネットが更に衛兵を落ち着かせていた。
「慌てないで、ゆっくりでいいですから。」
「ああ、先程の事だが、妙な二人組みの黒いローブの男が町に入ろうとしていたんだ。俺は仕事だから一応身分証を見せてくれと言ったんだが、その直後にゴブリンが現れて、町の中に入れる訳にはいかないから、応戦したのさ。気付くと二人組みの男もいつの間にか居なくなってしまうし、一体何がどうなっている事やら。」
(なるほど、いきなりモンスターが現れたというのが気になるが、その二人組みの黒ローブも気になるな。)
そこへ、ガーネットが声を上げた。
「ちょっとジャズ! これを見て!」
言われてガーネットが指を指(さ)したところを見ると、ゴブリンの死体が砂に変わっていた。
「何だと!? 砂になっただと!」
(これは間違いない、モンスター召喚用アイテムを使った証拠だ。倒したモンスターが砂に変わるという事は、こいつ等は召喚されたモンスターという事になる。)
一体誰が? 何の目的で? 解らんな。
それにしても、その黒ローブの男二人組みというのが怪しいな。
ふむ、また黒いローブの人物か。この町は黒ローブに人気のスポットなのか? よくわからん。
兎に角、町の中が心配だ。
ガーネットと二人、この場を後にして、急ぎ町の中へと駆け出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます