第24話 休日の過ごし方は人それぞれ ③



 やけに安い報酬の「落し物捜索」の依頼票を剥がした。


受付カウンターへと持って行き、受付嬢に詳しい内容を聞く事になった。


初仕事だ、報酬は安くてもしっかりやっていこう。


「すみません、この依頼を受けたいのですが?」


受付嬢は何か他事をしていた様だが、こっちが話し掛けると即座に対応してくれる。


ちゃんと仕事をする人として、扱ってくれているという事だろうか?


「はい、どういったご依頼の件ですか?」


「これなのですが」と言いながら依頼票をカウンターの上に置いた。


それを見ていた受付嬢は「ああ、この依頼ですね」と言っていた。


何か、分かっているというような態度だった。


「このご依頼を発注してきたのは、ミネラルさん家の女の子で、名前はエナちゃんという方です。何でも、お友達と遊んでいて気が付いたら無くなっていたそうですよ。この依頼をお受けになりますか?」


ふーむ、ご近所さんの依頼という訳か。


冒険者ギルドとしては、こういった依頼も引き受けるのだろうな。


こうやって信頼関係を構築していくという事だな。


中々地道にやっている様じゃないか。感心感心。


「はい、この依頼を受けます。そのミネラルさん宅はどちらになりますか?」


「では、こちらの依頼はジャズさんにお任せ致します。しっかり探してくださいね。場所は住宅街にある一軒の家です。白い壁に赤い屋根のお家です。ジャズさん、お願いしますね。」


「白い壁に赤い屋根ですね、分かりました。今から早速向かいます。ああ、それと一応報告なのですが、パーティーメンバーにガーネットを加える事になりました。二人でこの依頼をしてきます。」


「ガーネットさんにジャズさんですね、はい。承りました。それではお願いします。」


よし、取り敢えず依頼は引き受けた。まずはミネラルさん家に行ってみよう。


ガーネットから「どうするの?」と問い掛けられたので、「まず、ミネラルさん宅に向かおう」と答える。


「へ~、ジャズって意外と考えて行動できる人なのね。私に聞いてこない辺り、ラットとは違うわね。」


「ラット? ああ、あの時の荷馬車護衛の仕事を一緒にしてた男の子だよね、そう言えばそのラットは今日は一緒じゃないの?」


こちらの問いかけに、ガーネットはつまらなさそうに答えた。


「あいつとはいつも一緒って訳じゃないわ、あいつはあいつで他の冒険者パーティーに呼ばれて、そっちの方で仕事をしていると思うわ。」


「………ごめん、何か余計な事聞いちゃったかな?」


俯き加減で答えると、ガーネットは手の平をパタパタと左右に振って「違う違う」という仕草をした。


「え? いえいえ、違うのよ、ほら、私もラットもまだ駆け出しの新米冒険者でしょ。色んなパーティーと組んで、色んな経験を積んで、自分に合うパーティーを捜すってのもその一つなのよ。別に仲が悪い訳じゃないわ。」


「あ、そうなんだ。じゃあ、俺とパーティーを組んだのも経験を積む一環なんだね。」


「そういう事、さあ、行きましょう。」


こうして自分達はギルドを出て、町の中にある住宅街を目指して歩く。


自分はこの町の事を詳しく知らないので、ガーネットが先頭でその後を付いていく。


 しばらく歩いて、住宅街へとやって来た。


確か白い壁に赤い屋根のお宅だったよな。早速探す。


表札とかは出ていない、家の色で判断するしかない。


………あった! 白い壁に赤い屋根、間違いない。ここだ。


「ガーネット、見つけたよ、この家だ。ミネラルさん家だよね?」


「ええ、多分そうだと思うわよ。早速訪ねてみましょう。」


自分とガーネットは、目的の家へと向かい、玄関のドアをノックする。


すると「は~~い」と言う声が家の中から聞こえてきた。


玄関のドアがガチャリと開き、一人の女性が現れて、「どちら様ですか?」と問い掛けてきた。


「突然の訪問で恐縮です。我等は冒険者です。ミネラルさんのところのエナちゃんという女の子の依頼を受けに来ました。詳しい内容をお聞きしたく思い、ここまでやって来た次第です。」


「まあ、これはどうもご丁寧に。今エナを呼んできます。少々お待ちになって下さい。」


母親らしき人は家の中へ入って、「エナ~、どこ~、お客さんよ~」と声が響いた。


しばらくして、母親に連れられて、一人の女の子が玄関口までやって来た。


「あたしエナ、なにかごようですか?」


ふむ、見たところ五歳くらいの女の子だな。


この女の子が依頼主かな? だから報酬が安かったのか。


詳しく話が聞けるといいのだが。


「君がエナちゃんだね、僕達は冒険者だよ。君が出した依頼を受けてやって来たのさ。君に詳しいお話を聞きたいんだけど、いいかな?」


「………………。」


こちらが話し掛けると、エナちゃんは母親の陰に隠れてしまい、こちらを見つめていた。


参ったな。俺じゃあこの子に話が聞けそうになさそうだ。


「ガーネット、頼めるかい?」


「まあ、そうくると思っていたわ、私に任せなさい。」


ガーネットはエナの視線に目を合せて屈み込み、にこりと笑顔を見せて、優しく問い掛けた。


「ねえ、エナちゃん、おねえちゃん達こう見えて冒険者なのよ。エナちゃんが落として無くしちゃった物を探してあげるわ。何を落としちゃったのか、おねえちゃんに教えてほしいなあ。」


すると、女の子は母親の陰から出て来て、ガーネットに話し始めた。


「んーとねえ、たっくん。」


「たっくん?」


ガーネットが母親の方を見る。母親は「ぬいぐるみです」と答えた。


「そっかー、たっくん落としちゃったのか。どこで落としちゃったのかな?」


「えーとねえ、おともだちとあそんでたの、おママごとよ。広場であそんでたの。」


「広場? 噴水のある広場なの?」


「ううん、ちがう。ただの広場。」


「そっかー、広場かあー。それから?」


「わんちゃんがやってきたの、う~~ってうなってたからこわくなってにげたの。」


「わんちゃん? ああ、犬ね。それで?」


「そのときにたっくんおいてきちゃったの。」


「そっかー、犬にびっくりしてたっくんを置いてきちゃったのかー。よ~~し、おねえちゃんが探してあげる。ちょっとの間、待っててくれるかな?」


「うん! いいよ、まってる。」


「それじゃあ、探してくるわね。」


ガーネット凄いな。女の子から情報を聞き出してしまったぞ。やるなあ。大したもんだ。


ガーネットは立ち上がり、こちらの方を向いた。


「この近くに広場があると思うわ。多分そこよ。早速行ってみましょう。早くしないと何処かに持っていかれてしまうかもしれないわ。」


「ああ、わかった。」


 こうして、二人で辺りを捜索して広場がある所を見つけた。


少ない情報で、ここまで漕ぎ着けたのは流石ガーネットだ。


「ここね、広場っていうのは。ここで無くしたのよね。」


広場は大体家一件分の広さがある、空き地ってやつだな。


ここでエナちゃんは友達と遊んでいて、ぬいぐるみを落としたという事らしい。


犬がやって来たので怖くなって逃げ出したという事らしい。


まだこの近くにあるかもしれない。隅々まで探してみよう。


「ねえジャズ、貴方はここから右半分を探して頂戴。私は左半分を探すから。」


「わかった。探してみる。」


おままごとをしていたって言っていたな。


という事は、この空き地の真ん中辺りが怪しいが、さて、見つかるかな?


あちこち探し回っていると、何やら「う~~」という唸り声が聞こえた。


何だろうと思い、唸り声の方を見ると、そこには。


「何だ、犬か。………ん? 何か咥えているな? 何だ?」


そこにいた犬は、あろう事かぬいぐるみの様な物を口に咥えていた。


おそらくあれが対象のぬいぐるみだろう。


ココであったが百年目。


少しずつ近づき、軍で支給されている干し肉をポケットから取り出し、犬の前に置いた。


「よーしよし、いい子だ。その肉やるから、そっちのぬいぐるみを放してそこに置いてくれよ。」


犬はゆっくりと近づき、干し肉を咥える為にぬいぐるみを口から放した。


犬は干し肉を咥えて一目散に逃げ出していった。よーし! 第一段階突破。


ぬいぐるみを拾い上げ、埃を払い確認する。


そのぬいぐるみは犬がガシガシと噛んでいたのか、所々穴が空いていた。


至る箇所が解(ほつ)れて、中の綿がはみ出ていた。


「ガーネット! ぬいぐるみを見つけた! だがこれじゃああの女の子はきっと悲しむかもしれない。どうすりゃいい?」


「え!? ぬいぐるみを見つけたの? やるじゃないジャズ!」


うーむ、しかし困ったぞ。


このままこのぬいぐるみを女の子に渡したら、間違いなく泣かれる。


どうしたもんかな?






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