第23話 休日の過ごし方は人それぞれ ②
ガーネットに連れられ、クラッチの町の冒険者ギルドへと向かい、冒険者登録をする事になった。
さて、取り敢えず行ってみますか。
噴水広場から歩いて直ぐ、幅の広い道から伸びている街道沿いにあるみたいだ。
二階建ての大きな建物が見える。
多分あれだな、先にガーネットが扉を開けて「着いたわ、ここよ」と言いながら建物の中へと入っていく。
その後に続いて入る。
冒険者ギルドの中は中々広い空間だった。
天井が高いからそう見えるのかな?
柱の至る所にランプが掛けられて、室内を明るく照らしている。
入り口から左側に受付カウンターらしきものがあり、右側は酒場になっている様だ。
酒場と併設されているんだな。
そこには厳つい顔をした冒険者達が、酒のような物を飲んでいた。
人数は疎らだ、まだ仕事から帰ってきていない冒険者がいるという事かな?
ガーネットがこちらに向け、笑顔で説明しだした。
「ようこそクラッチ冒険者ギルドへ、登録は受付カウンターでできるのよ。それと、登録には銀貨三枚が必要なの、これは登録後に貰えるギルドカードという物があるんだけど、そのカードが魔道具で出来ているからなのよ。ジャズ、お金ある?」
ポケットの中を漁り、銀貨を確認する。
手持ちの銀貨は七枚だ、ここで三枚使う事になるのか。中々高いな。
「お金はあるけど、銀貨三枚かぁ、ちょっと高いな。」
「言ったでしょ、カードは魔道具なんだって、色々と不正が出来ない様になっているからなのよ。」
「なるほど、そういう事か。」
魔道具という事ならば、まあそれ位の価値はあるかな。
不正ができない様になっているらしいし、ここは一つ行ってみますか。
「さあ、登録するならあっちよ、受付でやって貰えるわ。」
「そうか、じゃあちょっと行ってくる。」
早速受付カウンターへと向かい、ギルド職員らしき受付のおねえさんに声を掛ける。
「すみません、ちょっと宜しいですか?」
声を掛けると、受付嬢は笑顔で対応してくれた。
「はい、何かご用ですか?」
「冒険者登録がしたいのですが………。」
「はい、冒険者登録ですね。」
受付嬢は何かの書類を出し、カウンターの上に置いてペンを添えて、俺の方に向けた。
「こちらに必要事項を記入していただきますが、失礼ですが貴方は文字が書けますか? よろしければ代筆いたしますよ。字が書けない方は大勢いますので、恥ずかしい事ではありません。どうされますか?」
ふーむ、この世界の識字率は低いのか。
ジャズは文字が書けるんだよな、きっと何処かで学んだんだろう。
「あ、はい、一応書けます。」
書類には、名前、職業、年齢を書く欄があり、ジャズ、忍者、十九歳と書いて受付嬢に提出した。
「はい、確かに必要事項は記入されていますね、必要経費として登録料に銀貨三枚頂きますが、よろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
銀貨三枚をカウンターの上に置き、「お願いします」と言う。
それを受け取ると、受付嬢は何やら水晶玉のような道具を取り出して、カウンターの上に置いた。
「少々お待ち下さい。」
受付嬢はその水晶玉みたいな道具に何やら打ち込んでいる。
おそらく先程書いた書類の内容を、打ち込んでいるかもしれない。
しばらくして、チーンとまるで電子レンジみたいな音がして、水晶玉が光だした。
「申し訳ありませんが、この水晶玉に貴方の手を添えて下さい。登録に必要な事なので。」
「あ、はい、わかりました。」
光っている水晶玉の部分に両手の平を添える。
すると、水晶玉が一気に輝き出した。と思ったら、また直ぐに光が収(おさ)まった。
しばらく様子を見ていると、チーンと電子レンジみたいな音がして、一枚のカードが出て来た。
「お待たせしました、ああ、もう手を離してもいいですよ。こちらが貴方のギルドカードになります。一応魔道具ですので、身分証にもなりますし、失くさない様にして下さい。いいですね。」
「あ、はい、わかりました。」
へ~~、これが自分のギルドカードか。
鉄か何かで出来た、テレホンカードぐらいの大きさのカードだ。
それを受け取り確認する。カードには自分の名前と職業、年齢と、あとFと書かれていた。
受付嬢がこほん、と咳払いを一つして、こちらに説明しだした。
「いいですか、貴方はたった今からFランク冒険者になりました。それに
「は、はい、わかりました。あ、それと、自分は今、この町のクラッチ駐屯地で兵士をやっているのですが、冒険者も兼ねてこれからやっていっても大丈夫なのでしょうか?」
「え? そうなのですか? それは構いませんが、兵士としての活躍度は冒険者ギルドの活躍度に影響されませんが、それでもよろしいですか?」
ふむ、兵士は兵士、冒険者は冒険者としてやっていってくれという事かな?
まあ、別に名声が欲しい訳じゃないし、一向に構わんが。
冒険者をやるのも自分が暇な時だけになりそうだし、これでいいかな。
「はい、問題ありません。これからよろしくお願い致します。」
「はい、こちらこそ、よろしくお願い致します。ジャズさんの今後の活躍に期待しております。それでは登録は以上になります。お疲れ様でした。」
そう言って、受付嬢は会釈をし、にこりと笑顔を見せた。
よーし、これで自分も今から冒険者か。
まあ、気楽にやっていこう。あまり疲れない程度に。
ギルドカードを手に入れるのを見ていたガーネットは、うんうんと頷き、俺の所に来て声を掛けてきた。
「登録は済んだ? あっちにいきましょう、あそこに依頼票が沢山張ってあるのよ。あそこから自分に合う依頼を探して、剥がして受付まで持っていって、それで依頼を受けるの。簡単でしょ? 折角冒険者登録したんだから、今から何か依頼を受けましょうよ。ね。」
「それはいいけど、もう昼過ぎだよ。今から引き受ける依頼となると、短時間でこなせる依頼の方がいいんじゃないかな、例えば町の中だけで済む依頼とかさ。」
「勿論、そのつもりよ。ほら、早速行きましょう。」
何だか知らんが、ガーネットはうきうきしているな。
ああ、そうか。自分よりも後輩が出来た事が嬉しいのかな?
ガーネットも、まだ駆け出し冒険者ではある訳だし。
「ねえ、ガーネット。君ってさ、今日は休日なんじゃなかったのかい? いいのかい、俺に付き合って。」
「大丈夫よ、確かに今日はお休みにしようと思ってたけど、折角ジャズが冒険者になったんだもの。先輩としてちゃんと面倒を見るわよ。さあ、こっちよ。」
こうして、冒険者になった自分は、早速依頼票が張られているクエストボードへと行く。
何かお手軽に出来る依頼は無いものかと、探すのであった。
「へえ~~、こうして見ると色んな依頼があるんだね。人探しに護衛依頼、モンスターの討伐、落し物探し、薬草採取、あ! お皿洗いや草むしりなんて依頼まであるのか。でもこれはFランクってあるから、ギルドランクがFの冒険者が引き受ける依頼って事かな?」
「ね、色々あるでしょ。この中から自分に合う依頼を探して受けましょう。何がいいかしら?」
ガーネットも自分も、クエストボードの前に陣取って依頼票を色々見ていく。
そんな中で、ある一つの依頼票が目に入った。
「これは? 落し物捜索依頼か。期日は無し、報酬は鉄貨一枚。なあ、ガーネット、この依頼って?」
やけに安い報酬の依頼票を、ガーネットに見てもらう。
「どれどれ、ああ、これね。昨日から張り出されているけど、うーん、報酬がねえ。鉄貨一枚ってのがねえ。一応期日は無し。期限無しだけど、落し物って日にちが経つとその分捜し辛くなるのよね。何ジャズ、この依頼を受けるの?」
「うーん、そうだね。この依頼を受けようかな。まだ駆け出しの初心者だし。冒険者登録したばかりだし、まずはこういう仕事からやっていった方がいいのかなと思ってさ。」
「じゃあこの依頼を受けましょうか。私もジャズのパーティーに入るからね。二人で依頼を受けましょう。」
「え? パーティーを組むの? それはいいけど、報酬は鉄貨一枚だよ。いいの?」
「ふふん、先輩冒険者としてちゃーんと面倒見てあげるわよ。さあ、受付にこの依頼票を持っていきましょう。」
「あ、ああ。」
こうして、冒険者としての初仕事が決まった。
落し物の捜索か。何とかやってみるか。
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