第16話 軍靴の足音 ⑤



 訓練初日の終わり。


食事が喉を通らず、疲れきってベッドで横になり、泥のように眠る。


 翌日、今日もまた走り込みだ。


只只管ただひたすら走り、走っては倒れ、回復魔法を掛けられ、体力が復活してまた走り込む。


走って走って走り続けた。


今日もリカルド軍曹のげきが飛ぶ。


「おいジャズ! 何へらへら笑ってやがる! 貴様だけ五周追加だ! こらあ、ニール! グラウンドに汚ねえ反吐をぶちまけるんじゃねえ! 貴様も五周追加だ! おいルキノ! 貴様俺より年上だからって容赦せんぞ! 連帯責任だ! 貴様も五周追加!」


「「「 ひえぇぇ~~ 。」」」


(甲子園にいく訳じゃねえんだからよ!)


こうして、一週間。只、只管に走りこんだ。


みんな毎日倒れては回復魔法をくり返しているうちに、段々と倒れる回数が減っていった。


今では倒れる訓練兵はいなくなっていた。


休み? ないよ。


 訓練開始二週目。


今日も走り込みかと思っていたら、リカルド軍曹が顔の表情を変えず、嬉しそうに言った。


「お前等、中々仕上がってきたな。もう走り込みはしなくていいぞ。」


ニールと二人で返事をする。


「ま、マジっすか!?」


「よ、よかった~~。」


しかし、軍曹はこう言った。


「今日から朝は軽くランニングを1時間だけでいい。ただし、その後は筋力トレーニングへと訓練をシフトチェンジしていく。腕立て、腹筋、スクワット、これを10回をワンセットとし、一日50セット、最終的には100セットやってもらう。」


「50!?」


「100!!?」


(鬼軍曹め、俺達を殺す気か!?)


「そんな嬉しそうにするな。」


(嬉しくねーよ!)


ニールが軍曹に意見する。


「教官殿、俺達死んでしまいますよ。」


「大丈夫だ、ちゃんとワンセットの後、10分の休憩をしてもいい。今までの走り込みに比べたら遥かにマシだろう。つべこべ言ってないでさっさとやる!」


「「「「 はい………。 」」」」


こうして、訓練二週目は筋力トレーニングへと移行していった。


腕立て10回、腹筋10回、スクワット10回、よし、ワンセット終了。


10分休憩、中々体に負荷がかかって鍛えられるな。これは。


しかし、うまい話は無く。


セットが増えていく度に体の疲れが溜まってきて、徐々に動けなくなっていく。


ニールが先に根を上げた。


「も、もう駄目だ。体が動けねえ。」


リカルド軍曹がニールに近づく。


「大丈夫か? 今、回復魔法を掛けて貰うからな。心配するな、どんどんトレーニングを続けろ。」


「きょ、教官殿、ちょっと休ませて下さい。」


「だから、大丈夫と言っているじゃないか。直ぐに回復術士の方を呼んでくるからな。待っていろ。」


どうやらこのトレーニングも地獄のトレーニングだったようだ。


疲れて動けなくなったら回復魔法、体力が回復してまたトレーニング開始。


まさに地獄だ。


休み? 無いんだって。


 翌日、走り込みもそこそこに、筋力トレーニングを開始。


ワンセット、休憩、またワンセット、休憩、これをくり返す。


一日50セットなんて無理だと思っていたら、これが意外とやれてしまえる。


普通に考えて腕立て一日500回だよ。無理に決まってんじゃん。


と、思っていたら、一日50セットやれてしまえる様になっていった。


どうなってんだ?


 訓練三週目。


今日も軽くランニングを1時間し、筋力トレーニングかと思っていたら、リカルド軍曹がこんな事を言った。


「お前等、中々頑張っているようだな。身体つきも大分仕上がってきた、ここまでくるのに普通何人かは脱落者が出てくるものだが、昨日も二人、軍を辞めていった。訓練に付いて行けずにな。しかし、お前達はよくやっている方だと感心している。そこで、今日からは朝のランニング1時間、筋力トレーニング1時間の後、木剣を使った模擬戦をしてもらう。今持ってくるから待っているように。」


そう言って、リカルド軍曹は建物の方へと行った。


いよいよ本格的な戦闘訓練を付けて貰えるという事だろうか? 


待っている間、ニールとリップ、ルキノさんと話していた。


「模擬戦だってよジャズ、ようやく「らしい訓練」になってきたな。」


「でもあの鬼軍曹の事だよ、今度は何をやらされるのやら。」


「でもさ、あたし達ちゃんとここまで訓練に耐えてきたじゃない、流石にこれからはまともな訓練になるんじゃない?」


「リップさん、あまり期待しない方がいいですよ。どうせまた碌でもない訓練内容でしょうし。」


「はは、笑えませんよルキノさん。」


本当、どんな模擬戦になるんだろうか?


リカルド教官が四人分の木剣を持って来た。


何故か軍曹の腰にも木剣が装備されていたが、何をするんだろう。


「よーしお前達、この木剣を持て。」


言われてそれぞれが手に木剣を持つ。軍曹も腰にある木剣を引き抜いた。


「さて、お前達、これから俺を倒してみろ。四人掛かりでも一向に構わんぞ。」


(なに!? 軍曹一人で俺達四人を相手にするのか? どういう事だ。)


「教官、四人掛かりでもいいんですか?」


「ああ、構わん。こい!」


この言葉を聞き、四人はお互いに顔を見合わせ、頷き、一斉に軍曹に飛び掛った。


まず最初に仕掛けたのはニールだ。


正面から近づき木剣を一振り、だが、軍曹は下から上へと木剣を跳ね上げ、ニールの木剣を弾き飛ばした。


返す刀でニールの頭に軍曹の木剣が打ち込まれ、あえなくニールは倒れた。


その直後、リップと二人で両サイドに回りこんで左右から軍曹を挟み撃ちする。


しかし、軍曹は即応し、その場でクイックターンを決め、こちらの背後へと回り込んだ。


俺の頭に木剣を打ち込まれ、その場で倒れた。


リップはそのまま軍曹に接近し、木剣を構え、接近した。


やはり軍曹はリップの木剣を自分の木剣で弾き飛ばし、リップの頭に木剣を打ち込む。


リップも倒れた。


ルキノさんは少し遅れて接近し、真正面から近づき、やはり軍曹に返り討ちにされていた。


辺りには静寂な空気が漂っていた。


軍曹が中央に立ち、その周りに皆が倒れているという図式が完成していた。


(何だよこの強さ! 半端無いじゃねえか! 鬼軍曹めっちゃ強いんですけど。)


軍曹はこちらを一瞥し、「ま、こんなもんだな」と軽く溜息を付いて木剣を仕舞っていた。


手も足も出なかった。マジで強いなこの人。レベルいくつだよ。


「まさかとは思うが、ここで終わりの訳無いよな、お前等。もっとこい! どんどん打ち込んでこい!」


皆は先程のダメージを引きずりつつ、それでも立ち上がりまた木剣を拾い、構えた。


軍曹に向かって挑んでいくが、しかし、結果は惨敗。


一本も軍曹に入れる事は叶わなかった。どういう強さをしているんだ? この人。


休み? だから無いってば。


 更に時は過ぎ、一週間が過ぎた。訓練四週目。


ランニングやトレーニングもそこそこに、木剣を使っての模擬戦を毎日くり返していた。


軍曹からは「一度手にした武器は死んでも放すな」と教え込まれた。


対人戦、対モンスター戦、対大型モンスター戦の心得などを教え込まれた。


今までの訓練が楽に感じるぐらいに、厳しい訓練だった。


また、それと並行して上官に対する言葉使いなどを、みっちりと叩き込まれた。


疲れた体に、この教育は本当に厳しく大変だった。


敬礼もいつの間にか出来る様になっていた。


 そして、ついに。


「もらったあああーーー!!」


「むっ!?」


なんと、軍曹に一撃入れられる様になった。攻撃を当てたのはニールだ。


やるなあ、ニール。


「ほう、とうとうこの俺に一撃入る様になってきたか。お前達、中々やる様になってきたじゃないか。」


「ど、どうも。」


やった! ついに軍曹に一撃入れる事ができたぞ。


四人掛かりってのが情けないが、まあ、相手は凄腕の兵士。


自分達も少しづつ強くなってきていると、感じられる瞬間だった。


「お前達、よくここまで付いて来てくれたな、これは俺にとっても意義ある事だ。もう少ししたらお前達も訓練兵を卒業だな、これまで何人かは軍を辞めていったが、お前達はよくここまで残ってくれた。お前達には期待しているぞ。」


「教官殿………、俺達こそ、軍曹殿には鍛えて貰って感謝していますよ。」


「はっはっは、ジャズ、だがお前等はまだまだだ。四人掛かりで俺を倒したからといって調子に乗るなよ。いいな!」


「「「「 は! リカルド軍曹殿! 」」」」


こうして、皆の訓練兵としての期間は過ぎていった。


そして、訓練最終日、あるイベントがあった。
















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