第15話 軍靴の足音 ④



 軍への入隊試験の結果を待つ同期達、さて、自分は受かっているのかな? 


キエラ中尉が発表する。


「今回のみなさんの試験の結果は、………全員合格です。おめでとうみなさん。」


この言葉を聞き、皆は歓声だったりほっとしたような声だったりで、少しざわついた。


よかった、合格していたか。


「これで、晴れてみなさんは明日からアリシア王国軍に入隊が決まりました。それと、今日から兵舎の施設を使用しても構いません。リップさんは女性兵舎に、他の三人は男性兵舎のそれぞれ空いているベッドとロッカーを使って頂いても結構です。正式な入隊は明日からとなります、明日の朝、受付ロビーへ集合していて下さい。自分からは以上です。」


キエラ中尉は話し終えると、こちらの四人の顔を見て頷いた。


「明日からみなさんは訓練兵となります、しっかりと訓練に励んで下さいね。」


そう言うと、キエラ中尉はにこりと笑顔を見せ、部屋を退室していった。


ニールが兵舎へ行こうと誘ってきたが、断った。


まず先に報告したい人物が居るとだけ言い残し、第三会議室を後にする。


建物から外へと出て、クラッチ駐屯地を出て更に町中を歩く。


 町中を歩き、飲食店が建ち並ぶ所へとやって来た。目的の店を探す。


あった、あの店だ。今朝方けさがた訪れた料理屋へ向かい、店内に入る。


「いらっしゃいませ~」という女将さんの元気な声が聞こえた。


「女将さん、また来ました。スローターフィッシュの煮付けを下さい。」


「おや? あんたまた来たのかい。本当に来るとはねえ、スローターフィッシュの煮付けだね、銅貨一枚と鉄貨五枚だよ。」


ポケットから銅貨と鉄貨を取り出し、女将さんに渡す。その途中、女将さんに報告する。


「女将さん、実は俺、王国軍に入隊する事が決まってね、明日から軍に入って訓練兵だよ。」


「ええ!? そうなのかい、あんたやるじゃないか。そうかい、軍隊に志願したのかい。頑張るんだよ。ここへは何時でも食べに来ていいからね。」


「うん、ありがとう、女将さん。」


女将さんの後押しがあったから、軍に入る事を決めたみたいな所があったと思う。


なので、取りあえず女将さんにはこの事を報告したかった。


まあ、自分の自己満足でしかないが。


スローターフィッシュの煮付けを食べ、夕食も済ませた。


やっぱりこれいけるよ。米が食いたくなってきた。


女将さんとはその後も色々話したが、結局「あまり無理するんじゃないよ」という女将さんの優しい言葉で締めくくられた。


 店を出て、クラッチ駐屯地へと向かって歩き、敷地内へと入り、兵舎へと到着した。


外はもう暗くなってきていた。


兵舎の扉を開け、中へと入る。兵舎の中はベッドが沢山並んでいて、その近くにロッカーがある。


先輩兵士達が、それぞれベッドで寛いでいる。


部屋に入って来たこっちを一瞥して、何事も無かった様に元に戻り、振舞う。


こっちも空いているベッドを探す、お? ニールとルキノさんがこっちに向かって手を振っている。


ニール達が居るベッドの方へ向かった。近くへ行くとベッドを確保してくれていた様だった。


「ニール、ルキノさん、わざわざ俺のベッドを確保してくれてありがとう。」


「なーに、気にしなさんな。それと、ジャズが居ない間、先に入隊していた先輩訓練兵のオブライさんが俺達に色々教えてくれたんだ。ほら、ロッカーの中にお前の制服もちゃんとあるから、それに着替えろってさ。」


「ああ、わかった。」


服を脱ぎ、ロッカーに掛けてある軍服に着替えようと手を伸ばし、そこで手が止まる。


「なあ、制服と軍服の二種類があるけど、どっち?」


この問いに、ルキノさんが答える。


「制服の方ですよ、明日の朝、略式ではありますが一応入隊式があるそうです。それが終わってから訓練が開始されるので、その時に軍服に着替えるそうです。」


「あ、そうなんですね。」


兎に角、制服に着替える。制服は白と青を基調とした色で、何故だかしっくりくる。


気持ちが引き締まるとはこういう事だな。


軍服も似たような色合いだ。中々格好がいい。


その後はニールとルキノさんと三人で会話した。


これからの軍隊での生活を乗り切っていこう、という事で話が纏まった。


明日からいよいよ訓練開始だ、早いとこ寝よう。


皆は簡素なベッドに横になり、睡眠を取るのだった。


 翌朝、目が覚めて顔を洗い、先輩のオブライさんに食堂まで案内されて、そこで朝食を済ませる。


朝飯は中々旨かった。食事の心配はしなくてもいいな。


服も寝床もあるし、こりゃあユリの言った通り、衣食住の心配はしなくてもいいって感じだな。


 朝飯の後、四人は受付ロビーに集合していた。


「飯は旨かったね」みたいな会話をリップとしていると、廊下の奥から二人の制服を着た人がこちらへと近づいてきて挨拶をされた。おそらくお偉いさんだ。


「君達、おはよう。」


「「「「 おはようございます。 」」」」


間違いない、お偉いさんだ、貫禄がある。


「さて、早速だがここで略式ではあるが、入隊式を執り行う。整列したまえ。」


「「「「 は! 」」」」


皆は横一列に並び、気を付けの姿勢で話を聞く。


「私が当クラッチ駐屯地の司令官、コジマだ。」


コジマ司令官が名乗ると同時に、右手を握り、腕を上げ右胸のあたりに拳をもっていき、姿勢を正した。


敬礼だよな、自分達もそれを真似して敬礼をしてみる。


「まあ楽にして、この式典は君達が主役なのだよ。」


司令の言葉を聞き、敬礼を戻す。なんだか温厚そうな人柄だな。優しそうだ。


しかし、目に光が宿っている感じだ。まだまだ現役って感じだ。


「さてと、君達は今日、晴れてアリシア王国軍、クラッチ駐屯軍所属となった訳だが、焦ってはいかん。まずは訓練兵から始めて体を鍛える事、それから後の事は訓練期間が終了してから考えれば決して遅くは無いよ。まずは入隊おめでとう。これからの君達に期待している。以上だ。」


コジマ司令はこちらに敬礼し、通路の奥へと去っていった。


残る一人の兵士が、こちらに厳しそうな表情で声を掛けた。


「気をーつけー!」


言われて姿勢を正す。


「俺がお前等の訓練を担当する事になった、訓練教官のリカルド軍曹だ。これから訓練期間の四週間、ビシビシいくから覚悟するように。まずは兵舎に行き、軍服に着替えろ。その後グラウンドに集合! 急げ! ダッシュ!」


いきなり命令され、気持ちが焦ってしまうが、今日からは訓練兵。


今日これから早速訓練開始だ。急ぎ兵舎へ行き、軍服に着替え、急いでグラウンドに集合した。


既にリカルド軍曹は待っていた。


「遅いぞ! 何やってた! グラウンドを大回りに走れ!」


ニールが恐る恐る軍曹に聞いた。


「な、何周走ればいいですか?」


「………何周だと? 倒れるまで走るに決まっているだろうが! 急げ! ダッシュ! ダッシュ! ダッシュ!」


「ひええ~~~。」


こうして、まるで地獄の様な訓練が開始された。


グラウンドをただ只管ひたすら走り続けた。


リップは流石に軽く流している感じで走っていたようだが。


自分とニール、ルキノさんはスローペースで走っていた。運動は苦手なんだよな。


ついこの前までこっちは太っていたのに、四ヶ月で体重は一般人並にまで痩せたばかりだ。


いきなり走り込みは正直キツイ。


「そこ! 何ちんたら走ってやがる! ペースを上げろ!」


「「「 は、はいぃぃ! 」」」


(冗談じゃない! こんなキツイとは思って無かった。倒れるまで走るってなんだよ!)


しかし、それだけではなかった。


「も、………もう、駄目だ。」


自分がまず先に倒れた。もう一歩も動けない。


そう思っていたら、何やらグラウンドの隅で待機していた人が居た。


こちらの元まで近づき、手をかざしながら「癒しの光よ」と言っていた。


「おいジャズ、もうへばったか。だが心配するな。今、回復術士の方に回復魔法を掛けて貰っているからな、疲れていてもこれで体力が回復して、また走れるようになる。どんどん走っていいぞ。」


(………………鬼だ。鬼軍曹だ。)


地獄の訓練初日、その日、気を失いそうになりながらも、何とか生きている。




 















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る