第6話 ザコキャラ転生 ⑤
自分は今、両手足をロープで拘束されて地面に座らされている。
目の前にいる三人の武装した冒険者達の手によって、まあ、仕方が無い。
こっちは見た目山賊だし、実際ポエム山賊団の一味だし、足を洗う予定なのだが。
「先程はありがとうございました、モンスターから助けて頂いて。」
「両手足を拘束されてお礼を言われるとは思わなかったが、感謝の気持ちってのは大事だぜ。」
冒険者の一人がずいっと一歩前に出て、質問する様に更に言葉を続けた。
「あんたさあ、山賊にしては
「ええ~と、一応そういう事になっていますが、俺はもう足を洗う予定になっているんですよ。」
この答えに、冒険者の男は「なるほどね」と一つ頷いて頭をポリポリと掻きだした。
見たところ三人共二十歳そこそこって感じだ、駆け出しの新米冒険者ではなさそうだが。
かと言ってベテランと言うほどの貫禄は無い。レベルは2から3といったところか。
「足を洗うってんなら、この近くに巣食っている筈のポエム山賊ってのを裏切る訳だよな、だったら裏切りついでに山賊の情報を喋っても一向に構わんという事だよな。」
冒険者の男は座っているこっちに目線を合わせ、情報を聞き出そうと問い掛けてきた。
「あんたに聞きたい事は三つ、まず山賊の人数、頭目の強さ、人質の有無、この三つだ。答えて貰うぜ、どうせ足を洗うんだろ、だったら俺達の役に立ってくれてもいいだろ?」
ふーむ、確かにポエム山賊団に未練も恩義も無い。喋っても問題無いだろう。
精々この冒険者達の役に立つ位しか、今の自分に出来る事はないな。
「まず、山賊の人数ですが、俺は抜けるので全員で六人、山賊の頭目のポエムの強さはレベル4から5といったところ。それと女の子が一人捕まっています。早く助け出してあげて下さい。」
「………れべる? 何だそれ?」
何? レベルの概念を知らないだと?
この世界の冒険者みたいな人達には、レベルが日常的ではないのかな。
それとも自分だけにしか知りえないゲーム知識だからなのか?
よくわからん。攻略本が欲しい。
「えーと、大の男が二人掛りでも倒せるかどうかって強さです。」
この答えに、冒険者の男は指折り数えながら深刻そうに呟く。
「山賊が六人に人質有り、おまけにそこそこの強さの頭目か。大体わかった、すまんが俺達はまだあんたを信じちゃいない、俺達は山賊のアジトへと向かうが、あんたはここに転がしておく。全て片が付いたらあんたを自由にする、あんたを連れて行動する程こっちは余裕が無い。このまま大人しくここに居てくれよ。」
「は、はい。」
ふむ、自分はここで待機か。まあ付いて行っても足手まといになるだけだしな。
それにしてもグッドタイミングで現れるじゃないか、もしかしてこいつ等が勇者か?
ちょっと聞いてみよう。
「あのう、つかぬ事をお聞きしますが、あなた方は勇者パーティーご一行様でしょうか?」
この問いに三人は顔を見合わせ、愉快そうに笑いながら山賊のアジトへと歩いて行った。
「あっはっはっ、俺達が勇者だって? 俺が勇者ならあんたは貴族様だな。はっはっはっ!」
なんだ、違うのか。まあ勇者だったらこっちが殺される運命になっているんだろうがな。
それにしても、ここにほったらかしか。
こんなモンスターが
しばらく様子を見ていたが、どうやら本当にここに置き去りらしい。
こうなってくるとやる事が無い。
あ! そうだ! いい機会だからユニークスキルにどんなのがあるのかちょっと確かめてみよう。
頭の中で「ユニークスキル表示」と思い浮かべた。
ユニークスキル
・メニューコマンド
・精神コマンド
よしよし、ちゃんと表示された。
まずは精神コマンドにどんなものがあるのか調べてみよう。「精神コマンド」と思い浮かべる。
精神コマンド 2/2
・必中 (暫くの間攻撃の命中率が100%になる)
・不屈 (一度だけどんな被ダメージを1ポイントにする、ダメージ0にはならない)
おお! 必中に不屈があるぞ。
こりゃあいざって時に使いどころが良ければ、間違いなく切り札になるだろう。
2/2と表示されているという事は、一日二回、いずれかの精神コマンドが使えるという事か。
こいつはいい。
よーし、お次はメニューコマンドだ。どんな感じなのかな。
頭の中で「メニューコマンド」と思い浮かべる。
メニューコマンド
・アイテムボックス
・スキル
・ショップ
・クラスチェンジ
・ステータス
うむ、よしよし、ゲーム「ラングサーガ」とほぼ同じだ。
アイテムボックスは物が沢山入る道具袋的なものの筈だ。
今自分のアイテムボックスの中には何も入っていない、空っぽだ。
スキルはスキルポイントを消費してなんらかのスキルを習得する為のコマンドだな。
レベル1なので初級スキルしか習得できない、早いとこレベルアップしたいところだ。
ショップコマンドは現実の世界でお店に行って買い物をしなくていい。
ショップメニューから好きな物をショップポイントと引き換えに購入できる様になる便利なコマンドだ。
買った物はすぐさまアイテムボックスに送られてくる事だろう。
ちなみに今売られているアイテムはナイフとローブだけだ。
これもレベルが上がると購入できるアイテムの種類が増える。
クラスチェンジは今の職業を変更したい時に使用するコマンドだ。
今の自分の職業は山賊、はっきり言って直ぐにでも変えたい。
だが、他の職業に転職するにはその職業に見合った能力値が必要で、足りなければクラスチェンジ出来ない。
今のところは保留だな。自分の能力値低いし。
ステータスは今の自分の状態をチェックする為のコマンドだな。
メニューから見なくても頭の中で直接ステータス表示と思い浮かべれば表示される。
まあ、同じ機能だな。
大体こんなところか、ユニークスキルも確認したし。
あとはこのまま時が経つのを待つだけか。何だか退屈だなあ。
などと思っていたからいけなかったのか、草むらの影からガサガサと何かの物音が聞こえた。
(な? なんだ?)
草むらの葉っぱが揺れていて、何かが出てくる様子がひしひしと伝わってくる。
なんだ? 何が出てくる?
警戒しながら事態が動き出している事に不安を感じた。
身じろぎしようとしたが、両手足を縛られている為、思う様に動けない。
しかし、そんな事はお構いなしに何かが草むらの中から現れた。そいつは………。
「グルルルル………」
モンスターだった。モンスターのワイルドウルフが一匹だった。
(マジか! 俺は今動けないんだぞ!)
「シッシッ、あっち行けって」
口で向こうへ行けと言ったが、ワイルドウルフは無視してこちらに近づいて来た。
マジでか、身動き取れないってのに、周りを見渡しても誰もいない、完全に孤立している。
誰も助けに来ない様子だ。
参ったなあ。ホント。このままじゃモンスターの餌になってしまう。
どうしよう。
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