第5話 ザコキャラ転生 ④



 翌朝、あまりの部屋の臭さに目が覚める。


ゴミだけじゃない、山賊達の体臭も相まって劣悪な環境だ。


堪らず部屋を出て、外の空気を吸いにポエム砦を出る。


砦の周りは森に囲まれていて、新鮮な空気が早朝の朝靄あさもやの中で、幻想的な演出をかもし出している。


「う~~ん、空気が美味い。外に出たついでに顔を洗うか。」


深呼吸し、天然の自然な空気を堪能して砦の直ぐ側にある井戸へ足を運ぶ。


早朝という事で他の山賊達はまだ起きて来ない。


日本人として風呂に入れないのはいただけない。


井戸で顔を洗うついでに体も洗うかと服を脱ぎ、井戸水を汲み上げ頭から水を被る。


「冷たっ、井戸水ってこんなに冷たいのか、こりゃあ後でしっかり体を拭かなきゃ風邪を引くな。」


石鹸などは無いので両手を使い、体の隅々までゴシゴシと垢を落とし、また頭から水を被る。


お湯が無いのは辛い、この世界にはお風呂って無いのかな?


二、三度水を被り、垢を洗い落として服の上着をタオル代わりに、体に付いた水滴を拭き取る。


身体にはさぶいぼが出ていた。体を冷やす訳にはいかない、朝日を浴びて自然乾燥する。


「へっくしっ、」


そりゃあくしゃみも出るってもんだ。


しばらく日光を浴びて体を暖め、服を着る。


服も水に濡れているので、自然乾燥をしてみる。


そのついでに喉が渇いたので、井戸水で喉を潤す。


砦の中には入りたくないので入り口の辺りで日向ぼっこをして時間を過ごす。


すると、誰かが入り口から外へ出て来た。ポエムだ、山賊の頭目だ。


「おう、ジャズ、見張りご苦労。」


「これはお頭(かしら)、おはようございます。」


そうか、砦の入り口に陣取っているから見張りをしていると勘違いされたか。


まあいいけど、ポエムは今も眠そうに目を擦っている。


「お頭、寝てないんですか?」


こちらの問いにポエムは嫌らしい笑みを浮かべ、「へっへっへ」と笑いながら答えた。


「あんな上玉な女がベットの隣に居て何もしねー訳ねーだろうが、一晩中やってたに決まってんだろ。」


こいつ、あのを寝かせてないのか、可哀想だろうが。


何考えてやがる、自分の事しか考えていない証拠だな。


勇者は何やってんの、早いとここいつを倒してくれよ。


まあ、その場合自分も討伐される事になるだろうから、複雑な気持ちではあるし勘弁して欲しいが。


ポエムは話しを続けた。


「それでなジャズ、今日はオメーに雑用をやって貰う、まず奴隷の女に飯を食わせろ、確か倉庫にパンがまだあった筈だ、ちなみにジャズ、オメーは仕事に失敗したから飯抜きな。」


「………わかりました。」


「それとな、最近このポエム砦の周りにワイルドウルフを見かける様になってきた。目障りだ、オメーちょっと一人で倒して来い。いいな。」


「ワイルドウルフ………ですか? 確かモンスターでしたよね、俺一人でですか?」


こっちの心配を余所に、ポエムは俺を指差し、欠伸あくびをしながら面倒臭そうに命令した。


「オメーの後ろ腰に提げてるナイフは飾りか? オメーもポエム山賊団の一員だろうが、それ位の仕事なら何も言わずやりやがれ! いいな!」


ポエムはそれだけ命令すると、踵を返し砦内に入って行った。


言われて腰に手を伸ばし、そこにナイフが鞘に収まっている事を確認する。


(そうか、ジャズはナイフを使うのか。という事は俺の戦闘スタイルは斥候スカウト盗賊シーフみたいなコマンド兵という事か。)


まあ、こんなに太ったコマンド兵もいないと思うが。


参ったなあ、こっちはレベル1なんだよなあ。


ワイルドウルフの相手をするには、最低三人の仲間が必要なんだが。


前衛が一人くらいは欲しい。仕方が無い、取り敢えず言われた事をこなすか。


 砦内へと入り、倉庫らしき所まで来て食料を探す。あったあった、パンが一つだ。


これをあの女の子に持っていこう。


パンを手に取り、奴隷の女の子が入れられている牢部屋へと向かった。


 牢部屋へ到着したら、女の子がこちらを恐る恐るといった表情で注視していた。


牢には鍵が掛かっていて扉を開ける事は叶わない。


鉄格子の隙間からパンを差し入れ、女の子を怖がらせない様に優しく声を掛ける。


「はいこれ、パンだよ。ゆっくり食べてね。」


女の子の瞳に光は無く、絶望した顔をしていた。


それでもお腹は空くのか、パンをガシッと掴み、ハグハグと勢いよく食べ始めた。


可哀想に、よっぽどお腹が空いていたんだな。


碌な食事も与えられず身体を酷使され、見るに耐えない。


ホント、勇者は何やってんの。


女の子を励ます為、声を掛ける。


「君、名前は何て言うのかな?」


「………………」


「いや、言いたくないならそれでいいんだ。俺なんかに言っても始まらないだろうからね。」


女の子は俯いたままモグモグとパンを食べている。その瞳には涙が浮かんでいた。


「もうじきさ、もうじき勇者がやって来て山賊団を壊滅させるから、そうなったら君は自由の身だよ、だからさ、だから諦めないで、希望を捨てちゃダメだよ。いいね。」


「…………勇者なんて……いない………」


「いるさ! 勇者はいるよ、だからさ、絶対に諦めちゃダメだよ。」


「…………」


女の子はパンを食べ終わると、そのまま膝を抱えて大人しくしていた。


少し震えている、怖さの為か、自分がここに居るのが辛いのか、黙って牢部屋を後にした。


そうだよな、今の自分は山賊団の一味なんだよな、早いとこ抜け出して足を洗おう。


勇者にやられるのも嫌だし。


 さて、お次はワイルドウルフの相手か、一人で対処せにゃならんとは。


まあ、無理なら逃げればいいか、そう思いながら砦から外へ出て、そのまま森の方へと足を運ぶ。


確か森の中で見かけたとポエムは言っていたな。


よーし、自分がどの位戦えるのかも確かめる為にも、一丁やってみますか。


腰に手を回し、ナイフを鞘から引き抜き、手に持ったまま森の中を散策する。


一人きりだから慎重に行動しよう。無理せず事に対処していけばいいや。


危なくなれば逃げればいい。


森の中は鬱葱うっそうと木々や草花が生い茂っていて、茸なんかも生えている。


まだ朝方だというのに少々薄暗い、油断無く慎重に移動し、辺りを警戒しながら進んでいく。


(どこからモンスターが出てくるかわからん、木の後ろからいきなり出てこられても困る。)


怖いなあ、と思いながら進んでいると、居た! モンスターだ。


確かにワイルドウルフだ、ゲーム「ラングサーガ」と見た目は同じだ。


大型犬ぐらいの大きさがある。


ワイルドウルフは鼻が利くのか、こちらに既に気付いている様子で少しづつこっちに近づいてくる。


(さあ、初戦闘だ、ゲーム知識としてはあるのだが、俺自身は戦った事が無い。うまく体が動いてくれればいいのだが。ジャズは運動が苦手なんだよなあ。)


ナイフを構え、モンスターが襲い掛かってくるのをビクビクしながら待ち構える。


狙いはカウンター、まず接近されないとナイフの攻撃範囲に届かない。


こちらから接近できる程、戦い慣れちゃいない。


ワイルドウルフはゼーゼーと息を荒くし、鋭い牙を口から覗かせ、今にも襲い掛かってきそうな気配を漂わせていた。


先の尖った鋭い牙を見るだけで足が竦みそうになる。


これで自分は確信した、自分には戦いは向いてない。


そう思った時だった、突然ワイルドウルフが勢いよく飛び掛ってきて、鋭い牙を開けて襲い掛かってきた。


咄嗟にナイフを前に構えたが、足が震えて思うように動けない。


(まずいぞ! ゲームとは違う! これが現実の戦いか、このままじゃ。)


体が思うように動かず、もう駄目だと思い、目を瞑って歯を食いしばった。


ところが………。


「ギャワンッ………」


という鳴き声が聞こえて、何時まで経っても攻撃されない事に疑問を覚え、恐る恐るゆっくりと目を開けた。


するとそこには。


「あんた、大丈夫か?」


声が聞こえてゆっくりと顔を上げると、そこに居たのは三人の武装した男だった。


目の前にはワイルドウルフの亡骸が一つ、地面に転がっていた。


やれやれ、助かったかと思ったが、事はそううまく運ばないものだった。


「俺達は冒険者だ、あんた、見たところ山賊だよな。あんたを拘束して情報を聞き出す、だから助けた。大人しくお縄に付けよ。」


(一難去ってまた一難。どうやら俺はどこまでいっても雑魚キャラらしい。)































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