揺り籠椅子〈ゆられゆりver.〉




足のつかない君は、僕にとって手の届かない存在だと感じていた。



椅子に深く腰掛け、揺れる君。月の光と影が振り子と手をとり踊っている。



「こんばんは」



そう発した彼女の声は僕の体を透き通っていくかの程、繊細でとても無機質なものだった。


彼女は僕の胸へと目を落とし、こう告げる。



「どこに置いてきたんだい?」



儚しげにこちらを見つめるその瞳は、まるで僕を写す鏡のように潤美やかで雲一つ無かった。


黙り込むしかできずにいた僕を彼女は優しく和める。




まるで水の中。赤裸々な僕の体を纏い包まれるような感覚。


それはとても心地良く、肌穴から体内の汚れを全て浮き出し水中へと溶けていくよう。


ただし、1つだけ文句を言えるのならば


その水は...とても冷たい。


体は徐々に冷えていくが、心はとても軽くなっていく。



「ゆっくり、休んでいきな?」



口と鼻穴を通って深く沈んで満たしていく彼女の声は、



僕の瞼をゆっくりと、落としていった。






「ちなみに......君は『大切な人』、いるかい?」






その声を最後に、僕の意識は揺り籠椅子へと戻ってきた。



「こんばんは」



椅子に腰掛け、揺れる1人の女性。


何処かで1度会った事のあるような悲しげなその女性に僕は、



微笑みこう告げる——



「こんばんは」






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揺り籠椅子 Yumemi @6yuMemi9

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