『ふぉん・しほるとの娘』

北風 嵐

第1話 はじめに


 高校時代、歴史は世界史を選択したしとこともあって、ここでも勉強ノート代わりに、『戦争と革命の時代』という大そうな題の連載を、フランス革命から、冷戦の終結までを9編で書いた。日本の歴史は学校の教科書程度以上のことは知らない。それでは日本人ではあるまいと、明治維新から勉強し出した。そこで通史本以外に、司馬遼太郎の『飛ぶが如し』と、『一外交官の見た明治維新』アーネスト・サトー著(イギリス公使館の通訳兼外交官)の本を図書館で借りて来た。

 サトーの著書の中で、英国公使館に通訳見習としてシーボルトの息子(長男)アレクサンダー・シーボルトがいたことを知る。維新がなって、西郷、大久保、木戸に次ぐ功労者とされた民部卿・大村益次郎が暴漢に襲われて京都の病院に入院し、サトーが見舞いに行く。治療するオランダ医師ボードインの助手として看護に携わる女性がいた。その女性がシーボルトの娘であることをサトーは聞かされる場面があった。


 シーボルトに娘がいたのかと、早速検索をした。名前を楠本イネいい、日本で最初の西洋医学を学んだ女性と書かれていた。イネには一人、高(タカ)という娘があった。高を検索。その高がなんとも美人。美人に魅かれてこの本を読んでみようと思った。以前、吉村昭の代表作『戦艦武蔵』を薦める人があって読んだのだが、武蔵を建造する過程が丹念な事実の積み重ねで描写される。あまり軍艦が好きでないのか、冗長に感じられて面白くなかった。しかも、『シーボルトの娘』は上下2巻である。躊躇した。しかし、あれは軍艦の話、こんどは女性の話と納得させ、図書館で借りて読むことにした。

 久しぶりに読み応えのある本に出逢った。また母滝、イネ、そして娘高、動乱の時代を生きた女三代、特にイネの生き方に感動した。維新といえばどうしても西郷や大久保、竜馬、海舟らの志士、男たちで語られる。司馬遼太郎の『飛ぶが如し』は、まさにこの世界である。両方を対比させていい勉強になった。


 上下2巻まで読んでみようとは思わないが、日本最初の女医、その後のシーボルトを知りたいと云う人もあるだろう。余韻が冷めぬうちに、ダイジェストを書いてみようと思った。このダイジェスト、なかなか難しいのである。ダイジェストが本編より長くなったという笑えぬ話があるぐらいなのだ。


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