第63話 ソニアちゃんの場合!? (上)
嵐は突然にやってきた。
「せんぱーい!」
【痛っ!】
廊下を歩いていたら突然腰に抱きつかれた。
【ソニアちゃん、びっくりして腰抜かしちゃうよ】
「さすが先輩、よくすぐに私だってわかりましたね」
見れば案の定というべきか、いたずらっぽく笑いながら僕の腰にしがみつくソニアちゃんの姿があった。
【そりゃ、この学院内で私にこんなことする人ひとりしか思い浮かばないからね】
「だって、遠慮せずに話しかけて良いって先輩が言うから」
たしかにこの間図書館でそんなこと言った記憶はあるけど…、
【『話しかけて』ね! 突然タックルはやめてね】
「はーい」
そう言いながら渋々といった感じで腰から離れるソニアちゃん。
ただ本音を言えば、未だ廊下を歩いているだけで多くの女生徒たちから奇異な目で見られる僕としてはこうしてしっかりと接してくれるソニアちゃんに有難さも感じてはいる。
【それでソニアちゃん、私に何か用かな?】
「えーと…」
【まさかほんとに話しかけてきただけ⁉】
「冗談ですよ。ちゃんと用があって話しかけました!」
すると、ソニアちゃんは大きく息を吸い込んだかと思ったら、吸い込んだ分の息とともに、
「先輩、私とデートしてください!!」
え、えええええええーーー!!!
頬をかすかに染めながらも『言ってやったぜ』と言わんばかりに照れ笑う彼女の表情はとても輝いているように見えた。
で、話はとんとん拍子で進んでいき、僕らは本当にデート(おでかけ)をすることになった。
迎えた休日
僕らはファビーリャ女学院の正門で待ち合わせをした。
「遅いですよ、先輩!」
【えぇ⁉ でもまだ待ち合わせ時間前だよ?】
「えへへ、冗談です。ただ言ってみたかっただけですのでお気になさらず」
そもそもなぜ僕らがデートをしているかというとライサさんを授業に出席してもらうことに成功した僕の『手柄』を独り占めしたことに対する『罪滅ぼし』という名目だ。
どうしてデートすることが罪滅ぼしになるのかはわからないがソニアちゃんの熱量に負けて僕は渋々デート(おでかけ)に付き合うことにした。
「ところで先輩、なんで休日なのに制服で着ているんですか?」
それはね、僕の私服と呼べるものが学ランかジャージしかないからだよ、とは言えず、
【私、
「…そ、そうなんですね。ま、服装の趣味嗜好は人それぞれってことですね」
そう言うソニアちゃんの格好はいつもの大人びた制服姿と違って、ショートパンツにシャツみたいな服を身に纏った、シンプルかつスタイリッシュな格好をしていた。
「じゃぁさっそく行きましょう!」
【張り切ってるねソニアちゃん】
「当たり前です! 今日はかなりハードスケジュールなので一瞬たりとも無駄に出来ませんよ」
【そんなに予定詰め込んだの⁉】
「なので、はいはい、行きますよ先輩」
僕はソニアちゃんに背中を押され、アビシュリの中心街へと誘われた。
まず僕らが訪れたのは何度かエスティさんと訪れたことのあるアビシュリでも1,2を争う高級喫茶店だった。
「えーと、とりあえず、紅茶を2つください。それからこの『
【私はお紅茶を】
「それだけですか? もう遠慮しないでくださいよ。今日は私のおごりなんですから好きなもの注文してください」
【私さっき食べてきちゃったばっかりだから】
遠慮したくもなる。だってここのメニュー、どれも高いんだもん。
例えばソニアちゃんの言っていた『
「そうなんですか…先輩がそう言うんならいいですけど…。なら注文は以上で」
「かしこまりました」
そう言ってウェイターさんは店舗の奥へと消えていった。
【ねぇ、ソニアちゃん家ってけっこう裕福な感じの家柄なの?】
「う~ん、裕福かもしれませんね。王都でも結構名の知れた一族ですから」
ってことはやっぱり良家のお嬢様ってことなのかな?
「先輩はどんな感じなんですか? 確か先輩って異世界からこの世界に来たんですよね? 前の世界では先輩どんな家庭環境だったんですか?」
【一言でいうとビンボーだったよ。母親しかいないのに
「先輩、ご兄弟がいらっしゃるんですか?」
【うん、いるよ。弟2人に妹3人の6人兄弟】
「あー、先輩面倒見いいですもんね。納得です」
【そういうソニアちゃんは? ご兄弟は?】
すると今まで普通に話していたソニアちゃんの口調が少しトーンダウンしたかのように表情に少し影が生じたような気がした。
「えぇ、姉が一人いました。でも今は遠いところに行っちゃって…」
やってしまった…。でも話しの流れ的にはやむを得ない話題だったと思うので、そこのところはきっとソニアちゃんもわかってくれるはず。
【ごめんなさい。興味本位で聞いちゃったばっかりに嫌なこと思い出させてしまって…】
「ま! そうは言ってまだちゃんと生きているんですけどね!」
【ちょ…! ソニアちゃん、ご健在ならその言い方は紛らわしすぎ!】
「ハハハ、ごめんなさい先輩」
そんな話をしていたら注文した品がテーブルに届き、僕は驚愕した。
「お待たせいたしました」
なにこれ…カロリーお化けじゃん。
「うわー、おいしそうー」
持ってこられた『
【ソニアちゃん…これ全部食べるの?】
「当たり前です! あ、もちろん先輩も食べてくださいね。お取り皿もありますので」
いや、そんな満面の笑み浮かべられても、これ…どう見ても二人だけじゃ食べきれないよね…。 なんて思っていたけど、このソニアという少女、マジですごかった。
確かに僕も何口かいただいたけど、一体この小さい体のどこにそんなに入るスペースがあるのと思うくらいに『
「ふー、おいしかった!」
【フードファイターだ…】
「違います。健啖家なだけです」
満足そうにフキンで口を拭うソニアちゃんを見て、僕は【じゃぁそろそろ…】と言おうと思ったのだが、ソニアちゃんから更なる衝撃のひと言が浴びせられた。
「さーてと、シメは何にしようかな~」
【!!!】
結局このあとソニアちゃんは『至福の沼』というティラミスのような巨大ケーキを一人で食べていた。
けれど、ソニアちゃん驚くべき行動はこのお店だけに留まることを知らず、
たとえば雑貨屋で
「せんぱーい、これ見てくださいよ! 色んな目つきの『
【本当だ。かわいいね】
「う~ん、買っちゃおうかな」
【いいんじゃない】
「でも、どの子もかわいくて選べないから全部買っちゃおうかなー」
【えぇ⁉ 10体以上あるよ⁉】
たとえば服屋で
「先輩先輩!」
【ん? どうしたのソニアちゃん?】
「これ! すごく可愛い柄のミニスカートですからお揃いで買いましょうよ! あっちに更衣室ありますから一緒に試着しましょう!」
【無理ー!!】
こんな感じで僕はこの日ソニアちゃんに翻弄され続けた。
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