愉快なHAL社員たちの華麗なるランチ

 HAL社は、悪徳財団の結成時にその表向きの顔として作られた会社だった。最初からHAL社と悪徳財団は表裏一体なのだ。セキュリティアプリ「HAL-tect」のライセンス料を主とした莫大な収益の一部が、悪徳財団の活動資金として利用されている。

そして、表向きはHAL社の社員となっている春羽・夏瀬・秋紗・冬峰こそ、悪徳四天王(Dr.スプリング、Lord.サマー、Cpt.オータム、feat.ウィンター)の正体というわけだ。

だが悪の幹部と社会人を両立する以上、身バレは絶対に避けねばならない。なので悪徳四天王になりきる際は露出ゼロの専用コスチュームを着こみ、変声機をつけ、さらに普段とは極力ちがう性格になりきろうと努力している。また、ジャスティンガーに送りつけるビデオの制作程度なら、ロボットにコスチュームを着せて音声を別録し作ってしまうことも多い。

 ところで悪徳財団の首領は設定上「キングちょべりば」という謎の人物になっているのだが、その正体は? ──それは、春羽が対外的なブラフとして作り上げた架空の人物である。外野に『ラスボスとそれに仕える4人の大幹部』という強烈な構造を擦りこみ、目くらましにしているのだ。

 では、実在している悪徳財団が派遣する怪人や戦闘員たちは? ──それらは全て、春羽が制作した高度な人工知能で駆動するロボットだ。それらは非常に優秀で、春羽から与えられた「適度に人々を困らせ、適度にヒーローと戦い、最後は倒されてこい」という命令を毎回完璧に遂行している。そう、ジャスティンガーは気づいていないが、怪人側は最初から勝つ気などないのだ。

 大金を投じ、お尋ね者になるリスクも負ってまで、利益にならない悪事をしては正義のヒーローにわざと倒される。一見すれば何の意味もないナンセンスな活動に思えるが、実は春羽の【真の野望】はそれと全く別の所にあるのである──。



 § § §



「ナツさん。そのお店ってお子様ランチはあるんです?」

 のどかな山道を走る一台の車の中で、冬峰(19歳)が尋ねる。途端、車内は沈黙に包まれた。

 ──そもそもの始まりは、「隣町に趣味の良いカフェレストランがオープン」という情報が新聞の折り込みチラシで入ってきたことだった。特に夏瀬は、そのチラシを見ただけで大層な興味を持ったらしく、「いつか皆で行きたいですね」と言っていた。

 なので春羽は、つい昨日「悪徳財団大暴れ」&「ジャスティンガー基地に出張」というW大仕事を立派に遂げた皆のため、そこのお店のランチでプチ慰労会を開くことにしたのだ。ただし特撮町は交通の便が悪いので、移動は秋紗の運転する車ということになる。助手席に春羽を、後部座席に夏瀬と冬峰を乗せ、現在絶賛移動中だ。

 しかし、これだけは言わねばなるまい。そこのカフェレストランに、お子様ランチは、ない。

「たぶんないわよ」

 夏瀬がそう答えると、冬峰は目に見えてしょんぼりした。

「そんなぁ」

「フユ。お子様ランチっていうのは、普通は就学前か小学生のくらいまでしか注文できないものだと思うわ」

「それは大丈夫です。私の心はまだ10歳です」

 と冬峰は割と真剣な口調で言った。実際、日頃の彼女のクソ坊主ムーブを見ていると冗談扱いはできない。

「皆さん、絶対に一度はお子様ランチを食べていますよね。でも私はお子様ランチ適齢期のときは山奥の田舎さいたから、生まれてこの方、一度もお子様ランチを食べたことがないんです。もし私がこのまま死んだら、未練が深すぎてきっと化けて出ますよ」

 もう化けて出たような前髪をしている癖に何を言うのか。

「私も食べたことはないけど、今となっては何の興味もないけどね」

 秋紗が呆れながらそう言う。嫌味のつもりだったのだが、それが通じる冬峰ではない。

「おお、アキさんも仲間ですか! じゃあ今度、一緒に食べに行きましょう! 人生、悔いのない生き方が何よりです!」

「絶対にひとりで行け。私はそんなことでは──」

 と、秋紗は冷たく突き放しかけたが、途中でその口をつぐむ。というのも──

「あれ? お客さんの予定なんてあった?」

 春羽が疑問の言葉をこぼした。前方から、車がこちらに走ってきている。

 この山道の先には、元は採石場だったHAL社の私有地以外何もない。なので、この道を走る車があったとすれば、HAL社の客人か、もうそこがHAL社の私有地になったことを知らない採石場ファンまたは廃墟ファンだけだ。

「私が知る限りではそのような連絡は受けておりませんが。アキさんは?」

 営業担当の夏瀬が、社長秘書ということに一応なっている秋紗に確認する。

「私のところにもない。それに、どう見てもビジネスに来ましたって格好じゃないな」

 と秋紗がいう通り、前方からこちらに来るのはマトモな連中ではなさそうだ。紫色のボディに黄色のラインというド派手な車体に、これまた目を引く装飾。しかも、それは先頭の一台に過ぎず、後ろから同じくらい派手なバイクが何台も続いている。

 これだけでも憂鬱になる事態だが、もうひとつ良くない状況だと言えることがある。この山道は、対向車がかろうじてすれ違える程度の幅しかない一車線道路。バイクならともかく、前方から来るゴテゴテボディの車とすれ違うのは少し厳しい。一応、砕石場に出入りするトラックの通行を想定した待避所が所々に設けられてはいるが。(なお、ホバーエンジン車であっても地上からの30センチメートル以上の浮遊は原則禁止されており、メーカー側がセーフティーロックをかけている場合も多い。さらに人および人が乗っていることが明確に分かる車体の上を乗り越える行為は違反点数がグンと上がる)

 したがって、この状況を脱するには一苦労が必要になるかもしれない。特に、間違っても悪徳財団の大幹部という正体を晒すわけにはいかないので、事をあまり大きくもしたくない。

「私が話をつけてくる」

 秋紗はそう言いながら緩やかにブレーキをかけた。

「ハルは絶対ここにいて。話が分かる相手だと期待はできない」

 と秋紗に言われ、春羽は相槌を打った。

春羽が扮するDr.スプリングがヒーローの前に姿を現さないのは、中の人である春羽に戦闘適正がまるでないからだ。身体能力の不足はアーマーで補えても、精神的な部分はいかんともしがたい。優しすぎるのだ。

「ナツ。ないとは思うけど、いざってときは──」

「ええ。こっちのことは心配しないで」

 夏瀬は、秋紗の言いたいことを察してうなずいた。つまり、前方からくる連中が脅威のすべてとは限らない。あれは囮ということもありうる。なのでそういう奇襲があった際は、夏瀬に「いざという時は春羽の盾になれ」ということだ。夏瀬が立ちはだかってくれれば、まず数秒は稼げるし、その数秒の間に秋紗は次の手を打てる。

「アキちゃん、気をつけてね」

 という春羽の言葉を背に受けながら、秋紗は車を降りた。すると

「私も混ぜてくださいよ、アキさん!」

 そう言いながら、冬峰まで車を降りてきて秋紗に親指を立てて見せた。

「私たち、お子様ランチーズの仲じゃないですか」

「一緒にするな。特にそれを人前で言ったら、おまえの前歯をへし折るからな」

「あ、それなら私から見て左上のにしてください。この歯、まだ生え変わってないんですよ」

 明らかに緊張感が欠けている。こういう冬峰の落ち着きのなさと目立ちたがる性分が、秋紗はどうしても好きになれない。それさえなければ非の打ち所のない逸材なのだが。

 そうこうしている間に、珍走団(?)が押し寄せ、ふたりの前で次々と停車した。先頭を走る車の窓から、これまた絵に描いたような金髪頭のチンピラが顔を出す。

「なんだぁ、おめえら。ボサッと立ってんじゃねえよ。邪魔だろうが」

 ガラの悪そうな声だ。しかし、この程度で臆するふたりではない。

「悪いな。ご覧の通り、この道は細いからさ。あんたのデカイ車とうちの車がすれ違うのは無理があるんだよ」

 と秋紗は、普段とは少し異なるニヒルな声を出す。

「そもそも、こっから先は行き止まりで、あるのは立ち入り禁止の私有地くらいなんだが。悪いこと言わないから、Uターンしてもらえないかね」

「ああん? ここは公道だろ? 公道ならどこへ走ろうが俺たちの勝手だろうが」

「確かにな。それは正論だ」

 秋紗は肩をすくめて見せる。一瞬、ゆずったと見せかけて

「だが、この先にある私有地はうちが管理させてもらってるところでね。何もない土地っつっても、トラブルを起こされると困るんだわ。それを踏まえて聞くけど、なんでこんなところ走ってるわけ?」

 と尋ねると、相手のチンピラの長も車を降りてきた。

「俺たちゃデッラン、デッドエンドランナーズ。道路の行き止まりを探して爆走する、猪突猛進の走り屋だ。行き止まりの先にある私有地だなんて関係ねえ。そこにある『行き止まり』が目的なんだよ」

「あー、デッランね。新聞で見たことあるわ、あんたらのこと。あれでしょ? 行き止まりに旗立てて帰る迷惑集団」

 秋紗は(普段冬峰に向けているような)呆れ顔を作った。

 ──デッドエンドランナーズ。道路の終端まで暴走行為を繰り返し、そこに旗を立てるだけのはた迷惑な連中だ。もちろんヒーローが相手をするまでもない程度の組織で、いわゆる悪の組織とはみなされていない。だが、こういうイキがり屋が大悪党に飴とムチで巧みに操られ、本人らも知らないうちに巨悪の手先となってしまうケースもある。

「悪いが、旗を立てるっつう前科がある以上、この先には行ってほしくないんだわ。警察を呼ばれないうちにUターンしてもらえないかね」

「あぁん? なんでまだ何もしてねえうちから、ポリちゃん呼ばれなきゃ行けねえんだよ」

「じゃあ呼ぼっか。なんも困らないっつーなら良いよな」

 と秋紗は総長に向かってリストフォンを見せつける。この総長が乗っている車が不正改造車であることを見抜いての一手だ。どれだけ詭弁を並べようと、素人が遠目に見て分かってしまうほどの改造ぶりでは、警察も見逃してはくれないだろう。

 悪徳四天王のCpt.オータムと言えば三度の飯より喧嘩が好きということになっているが、それは演技だ。中の人である秋紗は「低コストの勝利」を信条としており、戦闘行為は最終手段。詭弁や策謀を駆使し、第三勢力と潰し合わせ、最小限の労力で最大限の戦果を得ようとする計算高い策略家なのだ。戦闘狂という演技すら計算ずくの代物である。

「ざっけんな! ぶっ飛ばすぞ!」

 総長が秋紗に詰め寄ろうとする。もっとも、秋紗の実力ならこんなチンピラに遅れをとることはなかったのだろうが

「ちょーっと待ったぁッ」

 と、冬峰が間に割りこんだ。

「あぁ? なんだ、てめえは」

「見ての通りの美少女です」

 これを強面のチンピラ相手に真顔で言えるのが冬峰だ。五寸釘でも貫けない厚さのツラの皮は今日も絶好調である。

 こんなことを唐突に言われたもんだから、あちらの総長は最初こそ面食らったが、すぐに噴き出しながら後ろの手下らに声をかけた。

「おい、美少女だってよ! そういや川坂ぁ、おまえこないだオンナに逃げられたって言ってたよなぁ。良かったな、自称美少女が立候補してきたぞ」

「無理っす! 俺にも選ぶ権利はあるんで!」

 そうして一同バカ笑い。

冬峰はスンと鼻を鳴らして、総長のもとへツカツカと詰め寄ると

「黙って聞いてれば、何が旗ですか。旗を立てるのなんてお子様ランチの上だけで良いんです」

「おい、自称美少女。その顔を今以上にブサイクにしたくなかったら、俺たちのやり方に因縁つけねえ方が良いぜ」

「ほう? ならば、こういうのはどうでしょう。ルールは簡単、1対1のガチンコ喧嘩バトル。武器は許しますが飛び道具の使用はなし。負けた方が来た道を戻る」

「おーん? 良いのかぁ? そっちから喧嘩を売ってくるんなら、どうなっても俺たちは責任とらねえぜ」

「そういうの、取らぬ狸のナントヤラって言うんですよ。受けるのか、受けないのか、どっちなんです?」

「よーし、そこまで言うならやってやるよ。ブスは遠慮なく殴れるから気楽で良いぜ」

 総長と冬峰はそろって完全に決闘モードに。

 悪徳四天王feat.ウィンターはかなり好戦的なのだが、その割には「悪徳四天王の中でも最弱」を自称しているキャラである。そう自称する理由について冬峰は「だって漫画や特撮だと弱い幹部から出番が来るじゃないですか」と語る。つまり冬峰は一番槍ポジションになりたかったのであって、少なくとも自分のことを本当に弱いとは少しも思ってはいない!

「後悔すんなよ。俺は昔、ボクシングをやってたんだ」

「奇遇ですねえ。私も昔、ホームレスをやってたんですよ」

 これは果たして張り合っているということになるのだろうか。

 そんな阿呆なことを言いながら、冬峰はパーカーの中(!)から折り畳み傘を、さもそこにしまっているのが当然かのような手つきで取り出す。

「いざ尋常に勝負!」

「行くぜ、オラァァァっ!」

 と総長が冬峰へ一気に距離をつめ、その腕を振り上げる。いかにも素人の喧嘩という大ぶりの動きで、これでは格闘技経験者かどうかも怪しいと秋紗が呆れる一方で、

「秘技・アンブレラシールド!」

 冬峰が折り畳み傘を男の前でバッと広げ、総長の視界を遮る。

「邪魔だ!」

 総長の太い腕が傘を薙ぎ払ったその刹那。彼の視界から冬峰の姿ごと消えた。

 突如としたイリュージョンに度肝を抜かれた総長。消えた冬峰は──一瞬の間に片膝立ちのポーズで総長の背後をとっていた! 両手を握り合うようにして胸の前で組み、両人差し指をしっかり伸ばし、

「少子化社会への特効薬! 地獄極楽安産祈願!」

 と、本人は技名だと思っている何かを唱えながら、総長の尻を激烈な勢いでド突く!

「おぉん!」

 情けない声をあげながら、尻を抱えてその場に崩れ落ちる総長。

 冬峰はフンと鼻を鳴らしながら、

「そんなだらしないケツで元気な世継ぎを産めると思うな! 括約筋を鍛えて出直してこい!」

 尻を抱えてうずくまる総長を見下ろす。

「総長!」

「てめえ、やりやがったな!」

 いきり立つデッランの配下たちが、バイクを降りて冬峰へ襲いかかろうとする。だが冬峰は、この状況にも怯まず臆さず、口に指をあてて口笛を吹いた。

 するとその音色が呼んだのか、山肌の上から蚊柱のようなものが現れ、両者の間に割って入る。蚊柱? そんな生易しいものではない! アシナガバチの大群だ!

「ふひひっ、そちらが部下を呼ぶなら私だって!」

 冬峰がニヤリと笑うと同時に、アシナガバチの大群がデッラン構成員に襲いかかった。冬峰がホームレス時代に築いた妙な人徳でもあるのか、あるいは謎の作用でも働いているのか、とにかく、ハチの群れは冬峰や秋紗には目もくれずデッラン構成員へ飛びかかる。

「わあああっ」

 チンピラ連中は、蜘蛛の子を散らすように、何もかも置いて逃げていく。気づけば、ノビきった総長を残してデッラン構成員はいなくなってしまった。HAL社の完全勝利だった。

「ふふーん。どうです? アキさん。私もやるもんでしょう。格好良かったでしょう」

「おまえならもっとスマートにできたと思うんだが」

 秋紗の口調はいくらかの嫌味を含んでいたが、冬峰にそういうのは通じない。

「でも、ただ勝つだけなんてつまらないじゃないですかぁ」

「じゃあ訊くが、この後はどうするつもり?」

「この後と言いますと?」

「このままだと、あれが邪魔で私たちは車を前に進めさせられないんだが」

 と言って秋紗は、チンピラたちが乗り捨てていったバイクに目をやる。

そう、元をただせば今回のいざこざはお互いがお互いの進路を塞ぐ形になってしまったことから始まった。そしてデッラン構成員たちが乗ってきたバイクはまだ道路に放置されている。これが邪魔である以上、まだHAL社の車は前に進めないのだ。

「なんと……。アキさん、アキさん。私たち、お子様ランチーズじゃないですか。少し知恵を貸してくれませんかね」

 そう助けを求める冬峰に、秋紗はゴミを見るような目を向けた。



 § § §



「まったく……」

 いつになく仏頂面をしながら、夏瀬はバイクを担ぎ上げた。そうして、車の通行の邪魔にならないよう道の端に寄せて置く。大型バイクはどれも数百キログラムの重さがあるのだが、夏瀬の手にかかれば大きな発泡スチロール箱みたいな扱われ方だ。

「ごめんね、ナツちゃん。全部やらせちゃって」

「いえ、社長が悪いわけではないし、私も社長を責めたいわけではありません。私は、半分はこの状況に、もう半分はこんな私に嫌気がさしているだけです」

 そう夏瀬は言いながら、春羽と冬峰が見守る中、大型バイクを端に寄せていく。

 秋紗は? ──秋紗は総長が乗っていた車を勝手に運転して、近くの待避所へ移動させている間だ。今時、車のカギはリストフォンと一体化している場合がほとんどであるため、それを一時的に拝借すれば第三者が運転することは可能だ。まあ、ダウンした総長は車の後部座席に放りこんであるが。

「ただ、もし良ければ、この状況を誰かに覗かれていないか、見張っていてもらえると助かります。こんなところ、他人にはとても見せられないので」

 夏瀬はそう言いながら、また新たに重そうなバイクの運搬を始める。

 Lord.サマーの中の人こと夏瀬は、このような特異体質の持ち主である。しかしサマーが必ずしも好戦的ではないように、夏瀬も戦闘行為に対しては乗り気ではない。必要ならば力を行使することも辞さないが、それも「必要ならば」という話だ。夏瀬自身はむしろこの特異体質を持ってしまったことを恥と捉えており、その辺も理解した上で親身になってくれている春羽には上司・部下という関係以上の恩を感じている。

 ──作業は数分ほどで決着がついた。総長のデコ車を待避所に置いてきた秋紗も戻ってきた。

「ありがとう。アキちゃんも終わった?」

「終わったよ。ナツ、もう行ける?」

「ええ。じゃあ、出発しましょうか。アキさん、また運転をお願いしても?」

「もちろん、そうさせてくれると嬉しい」

 として、一同は再びカフェレストランに向かいだす。

 途中、バイクを取りに戻ってきたであろうデッラン構成員がこちらに向かって道路を歩いていたが、一同の車を見た途端「もう関わり合いになるのはゴメンだ」と言わんばかりに、サッと道路の左右に分かれた。あの様子だと今日はもうおとなしく退散するだろう。それに一応HAL社には春羽が作成したいくつものセキュリティシステムがあるので、あの程度の連中なら侵入することはできないだろう。



 その後、何事もなくカフェレストランにたどり着いた一行は、春羽の奢りという形でランチをとることができた。夏瀬や秋紗は遠慮したのだが、「私だけ何もしなかったから、せめてここは出させて」という春羽の要望に押し切られる形で、そうなった。いわゆる感謝の気持ちという奴だ。

 春羽はメニューの中にカレーという文字を見つけた瞬間から、もうその「野菜の旨味・無水カレーライス」を注文することしか頭になかった。

 夏瀬はクールなので態度には出さなかったが、内心ではパエリアとドリアでとてつもなく葛藤し、最後に「夏野菜とエビのパエリア」を選択。

 秋紗は「迷ったときはメニューの1番目」という持論のもと、「煮込みハンバーグセット」を選択。

 冬峰はオムライスを選ぶと、注文を取りにきたウェイトレスにこう尋ねた。

「すんません。このオムライスに旗を立ててもらうことはできますか? お子様ランチみたいな感じに」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る