Episode114 素敵イベント乱入
目的地に着いて、まずはどうするか。
「と、取りあえず、中がどうなっているのか見ましょう」
小声で言い、そろりと扉窓から三人揃って様子を窺うと、飄々とする土門少年と、彼にいきり立つ女子生徒数名。
女子達の後ろに一人の小柄な女子がいて、その対極の位置、土門少年の後ろ側に裏エースくんがいる。
裏エースくんの表情といえば、土門少年の話を聞いて、いつもの半眼を彼に向けている――と。
「「「あ」」」
気配も察知できるのか、出来過ぎ大魔王がピンポイントでこっそり覗いている私達へと、その視線を向けて止めた。
そしてそんな彼の様子を見ていた、後ろの女子までがこちらを向いてしまい、目を見開く。流れるように紡がれたその口の動きで、私の名が呼ばれてしまったことが分かった。オウノォー……。
前列の女子までがバッと扉を見て、一人が偵察任務失敗の私達のところへと向かってきて、ガラッと扉を開けた。
「人の告白現場を覗き見なんて、良い趣味されていますね!」
開口一番に言われたそれに、再び唖然とする私とたっくん。
しかし相田さんはカチンときたようで、ムッとした表情で言い返す。
「移動教室で歩いてる子の耳にまで届くような声で話してるからでしょ!? その子から太刀川くんがずっと断ってんのにしつこいって、わ・ざ・わ・ざ私達のところに助けを求めに来たのよ! ずっと断られてるんだから、いい加減諦めなさいよ!!」
ちょっと前にバトッたことをかなり引きずっているようで、彼女にしてはかなりキツめの言い方である。木下さんはしつこいまでは言ってなかった。
言われた女子達はカッと顔を赤くしながら相田さんを睨みつけ、後ろの子は……おや?
男子達が超可愛いと言っているのも頷けるほど、私の目から見ても超可愛らしい子であった。
地毛なのか、栗色の髪はフワフワしていそうで、瞳も大きくパッチリ。唇も瑞々しくてプルンとしていて、私を見つめて瞳を潤ませるその姿は、思わず守ってあげたくなるほどの庇護欲を掻き立てる。
あまりの可愛らしさに思わずその子を見つめていると、パッと隠されてしまった。
「
えっ!? 睨んでないよ!?
ただちょっとゲヘゲヘ……んんっ、見惚れていただけだよ!?
「百合宮さんが睨むわけないじゃない! 百合宮さんの方が絶対的な美少女なのに!」
「こっ、心愛だって負けてません!」
相田さんやめて! 居たたまれないから!
「あの、皆さん一旦落ち着きましょう? 太刀川く……あれ? 太刀川くん??」
取りあえず場を一旦鎮めようと発言して、事の中心人物を呼ぼうとしたものの、さっきまでの位置にいない。
視線を巡らせて探すと。
「あいつら本当引かなくてマジでどうしようって思ってたところで、更に何か土門来て訳分かんねーこと言い始めるしさぁ。本当参ってた」
「アハハー」
たっくんの隣に来てコソッと弱音を吐き、彼に乾いた笑い声を上げさせていた。
ほらぁすぐたっくんのところに行く! 良く見て! これが実態! 私と裏エースくんの間はたっくん在りきです!!
「なに拓也くんにひっついてるんですか。そこは私の定位置です。あと告白長者なんですからこれくらいの騒ぎ、そのスケコマ経験値にものを言わせて一人で何とかして下さい。拓也くんを困らせないで下さい」
「さりげなく俺に変な肩書増やすのやめろ。てか別に拓也の隣は花蓮だけのものじゃないだろ。お前だってよく拓也を恥ずか死にそうな目に遭わせてるくせに、よく困らせるななんて言えるな。俺が止めなきゃもうとっくに拓也、壁にめり込んでるからな!?」
「何ですって!?」
「二人ともやめて本当お願い。僕今すぐ地面にめり込みそう」
真顔たっくんの早口なその声に、ハッとして私達は口を閉じた。その瞬間、女子の一人が。
「これのどこが付き合ってないって言うんですか!? 私達、ちゃんと元Bクラスの先輩に付き合ってないって聞いたから、心愛の後押ししてたのに!」
「はい!?」
プルプルしながら言われたそれに目を剥く。
合ってるよ!? 付き合ってないよ!?
なに言ってるの!??
「ほらね! このようにこの二人の間は、誰も入り込めないラブラブランデブーなのさ!」
「土門くんは少しお口を閉じていてもらえますか!?」
「太刀川先輩!」
余計なことを言う土門少年へとお口チャック命令を下そうとしたところで、プルプルしてた子がキッと裏エースくんを見た。
「今はそういうの考えてないって、ちゃんと百合宮先輩がいるじゃないですか! それならちゃんとそう言ってもらわないと、こっちだって引けないんですから!」
「あーもうさっきから土門もお前らも、何言ってんのか訳分かんねーよ! 俺のことと花蓮が何か関係あんのかよ!?」
「太刀川くん太刀川くん、こっち」
ちょいちょい手招きして呼べば訝しげな顔をするものの、私の後に付いて教室の隅まで来た彼に顔を寄せる。
「あのですね。私もさっき聞かされて初めて知ったんですけど、何か私達、付き合ってるそうですよ」
「は? 誰と誰が」
「私と貴方」
「……はっあぁ!!?」
だよね。
そういう反応になるよね。
「何だよそれ!? え、おかしいだろ!?」
「ですよね! 何かね、ずっと一緒にいるのとか笑い合っているのとか、体育でずっとペアだったとか、太刀川くんがクラス離れても私達の教室まで来て過ごすのとか。それが他の子達には付き合っているように見えているそうです。拓也くんも一緒にいるのに、納得いきません!」
「マジかよそれ。俺と花蓮なんて、いつも拓也中心にしてんのに?」
「そうなんです。あ、でも元Bクラスの子達はそうじゃないって、ちゃんと思ってくれてるそうです。誤解しているの、それ以外の全生徒だそうです」
「全生徒!? 俺とお前そんな目で見られてんのか!?」
「そうですよ! 私がラブレター貰えないの、貴方のせいですよ!」
「それは俺関係ないだろ。花蓮のポテンシャルの問題だろ」
「何ですって!? これはもう、本格的に誤解行脚しなければなりません。校内放送はダメって、拓也くんに注意されましたので!」
「それは俺も嫌だぞ。お前本当羞恥心どこに忘れてきたんだ」
「百合宮さん、太刀川くん」
コソコソコソコソ言い合っていたら、何やら晴れやかな顔をしている相田さんが声を掛けてきて。
「もういいよ。これで諦めたみたいだから」
「「え?」」
二人して指差された方に顔を向けると、そこには項垂れた様子の前列女子たちが。え、何でそんなことに?
「……よく、よく分かりました。確かにあれじゃ、誰も間になんて入れません。ごめんね心愛。太刀川先輩、諦めよ?」
肩を落とした女子達がその中心人物・姫川少女へとそう言ったら、彼女はその超可愛らしい顔を困り顔にさせて、こう言った。
「私、太刀川先輩と付き合いたいって、一言も言ってないよ?」
――空き教室の時間が止まった。
誰も彼も動けず、時間を止めるに至った姫川少女を見つめる。
……どゆこと?
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