Episode112 裏エースくんの告白事情
こうして授業もつつがなく、時折土門少年がナルシーを発揮して注目を集める以外は順調に進んで、お昼休憩突入。
クラスで給食を食べ終わって、まったりとたっくんとドクドクロー最新五十二巻についての話をしていると。
「邪魔するなー」
賑やかなクラスの声に混ざって、朝に聞いたきりだった声がガラリと扉を開けて入ってくる。
「新くん。いつもより遅かったね」
「おう。いつものアレ」
「あぁアレ」
男子二人の会話を耳にして、私の隣の子の椅子を断って借りる裏エースくんをジト目で見遣る。
「また女の子泣かせて来たんですか、スケコマシ」
「人聞きの悪いこと言うな。向こうだって結果分かってるから、スッキリした顔してたぞ。で、なに話してたんだよ」
「ドクドクローの最新刊。やっと父親の墓場の在りかが分かって、今後の展開についての考察してたんだ」
「あー。にしても長いよな。あれ―……」
普通に何事もなくそんな会話を始めているが、いつものアレ。
相変わらずラブレターを貰いまくるラブレター長者だが歳を重ねた現在、女子の想いはラブレターに留まらず、直接本人に言葉で伝えるに至っている。
そう。俗に言う好きな人を呼び出しての、告白である。何て素敵イベント。
しかしそんな素敵イベント、ラブレターを読んだ上で呼び出しに応じている裏エースくんは、今までその呼び出しすべてにお断りの返事をしている。
裏エースくんのクラスにも可愛い子がいるし、好きになったりしないのかなと思ったりもするが、一緒にいて見ている分には全くそういう気配はなかった。
というか彼は、週の半分くらいの昼休みは私達のクラスに来て過ごしている。あとの半分は自分のクラスの男子たち。
ファンレターしか貰うことのない私にとっては、素敵イベント羨ましい!と日々羨んでいるが、お断り一方通行の裏エースくんの恋バナを冷やかしたりできず、残念しきりである。
「花蓮。花蓮? おいまた話聞いてないぞコイツ」
「え? えっ? 何ですか、何のお話ですか!?」
しまった。裏エースくん告白事情に思考飛ばしてたら、何か話し掛けられてた!
慌てる私にたっくんが、「いつものことだよね」と言って説明してくれる。たっくん……!
「来月のゴールデンウィークに、相田さん達と遊びに行こうって話をしてたんだよ。発案者は西川くんで、元Bクラスの仲良しメンバーで行こうって話で。まだ場所とかは決まってないんだけど」
「えっ。何それすごく行きたいです!」
「で、場所はどこがいいか案はあるかって、聞いてたんだけど」
半眼になって言う裏エースくんには微笑んで誤魔化し、場所の考察をする。
「そうですね。あんまり遠いのは無しですよね?」
「移動でお金かけたくないしね。テーマパークは隣の隣町だけど、そこまではアリかな?」
「十分アリだと思うぞ。んー、あそこは? スクライプール……あっ悪い」
「なぜそこで私を見て謝るんですか。水泳に関しては私、急成長を遂げているんですよ!」
「あ、確かに。去年も水泳だけは土門くんの助け、いらなかったよね」
そう! この私、春日井スイミングスクールの甲斐あって、誰からのお守も必要としないまでに成長したのである!! 水泳のみ!!
「ええ! 太刀川くんにも見せたかったです。この私の勇姿を……!」
「俺の記憶では三年生でもビート板すべらせてたと思うけど、変わったのか?」
「ビート板使わなかったら泳げてたよ。ゆっくりだけど」
「普通ビート板使わない方が泳げないだろ。本当お前の運動神経、特殊だな」
「汗と涙と努力の賜物です」
思い出すのも忌まわしい、あの
「あ! あそこはどうですか?
「うん、そこなら遠くないし良いと思う!」
たっくんからは笑顔で賛同を得られた。
そして裏エースくんも一つ頷いて。
「じゃあ取りあえずは、そこな。他のヤツらの意見も聞いて、直接じゃなくて待ち合わせるか?」
「細かいことはまた近くなったらで、いいんじゃないかな」
「でも日付だけは決めとこうぜ。二日とかは?」
「最初の方が皆元気ですし、いいと思います」
「僕も」
「じゃあこれも一応二日、と」
うわぁ、うわぁ!
今までもその中の二人とか三人の組み合わせで出掛けたりもしたけど、皆でっていうのは初めて! 楽しみだなぁ。
早々にゴールデンウィークの予定が一つ埋まってニコニコホクホクしていたら、クラスメートの男子数人がこちらを見ていることに気づく。
彼等も私が見られていることに気づいたことに気づいて、パッと顔を逸らしていた。
え、なに?
何かちょっと顔赤いけど、どうしたんだろ?
「……ハッ! 拓也くん! 給食の食べカスが私の顔に付いていたりしていませんか!?」
「え? なに急に。付いてないよ」
「そうですか? いえ、何か見られてたので。ネギでも付いているのかと」
「「あー……」」
あーて何。
何で二人とも微妙な顔してるの?
「花蓮俺にスケコマシだのどうだの言うけど、お前だってブーメランだからな」
「僕は花蓮ちゃんそのままでいいと思う。花蓮ちゃんまで呼び出されるようになったら、僕寂しい」
「えっ、どういうことですか? 私は拓也くんを一人にしません!」
ずっと一緒にいるよ!
学校にいる時は片時も離れないからね!
グッと前のめりになって、たっくんにどれだけ一緒にいたいかを熱弁していたら、「太刀川くーん!」と呼ばれる声が。あっ、この声は相田さん!
「どうしたー?」
「
「はぁ? 何でだよ。今日の呼び出し分はもう応じたぞ!」
「いいからこっち! 早く!!」
「……はぁ。悪いな、行ってくる」
用件が呼び出しと聞いた途端に気だるそうにして立ち上がり、余程行きたくないのかゆっくりな足取りで相田さんのところへ向かう裏エースくん。
「何であんなに嫌そうなんですかね?」
「ほぼ毎日呼び出されてたら、そうなるんじゃないかな? 花蓮ちゃんだって、好きでもない人から呼び出されて告白されるの、困るでしょ?」
「……そうですね。嬉しいですけど、確かに困りますね」
扉付近で相田さんと話している後ろ姿を見つめる。
背も伸びて、顔立ちもより爽やかさに拍車がかかってきている。
……成長期には、まだまだモテそうな容姿に成長するんだろうなぁ。
と、話し終わったようではあるが彼はそのまま我が教室から出ていき、代わりに相田さんがやって来た。
「話し途中にごめんねー」
「いえいえ。でも珍しいですね、相田さんがこういう伝言係するの。いつも断ってますよね?」
「そうなんだけどね。あ、席借りるね!」
先程まで裏エースくんが座っていた椅子に彼女も腰掛け、机に頬杖をついて話し始める。
「それがさ、ほら四年生に超可愛いって男子から言われてる子がいるじゃない? 百合宮さんには負けるけど!」
「超可愛い……? うーんごめん。僕はちょっと分からない」
「それは4ーCの
「「「ん?」」」と三人合わせて見れば、土門少年がいつの間にかそこにいた。
そしてたっくんの隣の席の子(男子)の椅子を断りなく引っ張ってきて、勝手に輪の中に入ってくる。
「それで? その姫川嬢に太刀川 新が呼び出されたのかい?」
「え。あ、そうなの。て言っても本人じゃなくてその友達というか、取り巻きというか? 本人から直接呼び出すのが礼儀だって言うのを何回も言ったんだけど、全っ然聞いてくれないのね。男子は可愛い可愛いって言うけど、女子の中では正直あんまり良い話聞かないのよ、その面子。私、一応上の学年よ? それなのに、『同じクラスなんですからさっさと呼んできて下さい』って、なにあの態度!? これはもう、太刀川くん本人からケチョンケチョンにしてもらわないと!って思ったの!」
相当腹立たしかったらしく一気に話されて、あらまぁと思わず口に手を当てた。
「それはまぁ。上級生に対する態度ではありませんね」
「でしょ!? いくら顔が可愛くても、その周りの態度とかがダメダメなら全部マイナスだっての! それに太刀川くんには百合宮さんがいるんだし、本当分かってないよね!」
「え?」
裏エースくんには私?
え、どゆこと?
「相田さん!」
「え、どうし……あっ! なし! 今のなし!!」
たっくんが焦ったように相田さんを呼び、それに首を傾げた彼女もハッとして、急に何事かをなしと言ってくる。
うーん? これはきな臭いぞぉ?
「拓也くん。相田さん。仲良しメンバーである私に隠し事とは、どういう了見でしょう? ……お話しして下さいますよね?」
にっこりと、微笑み深く私は二人に向けてそう言ったのだった。
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