アンラッキー・ガール

@Takasugie

第1話 真夜中の

寒い。いくら服を数枚着込んでいるとはいえ、流石に12時を回ると外は氷のように冷たい。早く目的のものを買わなければ。寒さを紛らわせるように自転車のハンドルを強く握りしめ、家の近くのコンビニへと急いだ。


今日は自称進学校から面倒な課題が出ており、徹夜で作業をすると決め込んでいる。そうとなれば、やはり徹夜のお供、おでんが必要である...必要なんだ。俺は。あの黄金の出汁が冷えた体を癒してくれるのを想像するとパブロフの犬が如く唾液が口内を濡らした。


店内に入り店員に一瞥し、コーヒーを店の後ろから一本抜き取ったのちにレジに向かった。予定通り卵とこんにゃくを頼みおでんを購入し、自動ドアをくぐった。


「あなたが志賀匠ね。」


不意に声がした。振り向くとそこには女性がいた。真夜中の淡い街灯に照らされた長い黒髪は妖しく艶やかで、ほんのり白い肌は月のように綺麗だった。暗闇でもわかる、美少女。年は同じくらいだろうか。しかし自分の知り合いにこんな人はいない。


「そうですけど...あなたは誰ですか?」


恐る恐る、できるだけ丁寧に聞く。


「そう...あなたが...私の父と...母を...」


「...?なんの話を...」


その時だった。突然その女は目の前まで距離を詰め、何かを自分の体に突き立てた。鋭い痛みが走る。


「...!?」


腹部を見ると、自分の寝巻きが鮮やかな真紅に染まっていくのが見えた。体が外よりも冷たくなっていく。一体どういうことだ...


「あなたが...あなたがいなければ...きっと」


薄れゆく意識の中で彼女の今にも崩れそうな横顔だけが月に照らされて見えた。


あぁ、俺は本当に最期まで運がない。


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