【chapter9】民の来城

公務や剣の稽古、近隣国の王子との交流会などに忙しい王子と会えるのは月に1度か多くても2度だ。


その間、私にも公務がある。


日々忙しく過ごしているのだが、フッと人肌恋しくなることがあるのだ。


そんな時、私は王子をこいねがいながらも、それを口にすることができない。


彼の忙しさをおもんぱか物憂ものうい気持ちを抱えつつ自分の心に蓋をするのだ。


それでも誰かに抱きしめて欲しくなる時がある。


そんな時には、民から届いた文に返信し城に招くのだ。


ただし、決して塔には立ち入らせない。


民と会うのは大広間と同じ階にある客間だ。


今日は、先日文を出した長身の彼がやってくる。


メイドを寝室に呼ぶ。


この部屋も大広間や客間と同じ階にある。


手早く化粧を施し髪を整えた。


今日のドレスはロイヤルブルーのチュールが美しい。


王子に見てもらいたいという気持ちを抑えつつ身に纏う。


ほどなくしてバトラーが来客を知らせに来た。


客間に通すよう指示をすると足早に寝室を後にする。


客間のソファーに座っていると彼が緊張した面持ちで部屋に足を踏み入れた。


「どうぞ。おかけになって。」


向かいのソファーをすすめると彼はおずおずと着席する。


メイドにお茶を運ばせると、しばらく誰も立ち入らないように命じた。


「本日はお招きいただきありがとうございます。」


彼が深々と頭を下げる。


「いいえ、先日は立派な働きをしましたね。感謝申し上げます。」


私が塔の窓から投げ落としたシルクのブランケットを乳幼児を抱く母親に譲ったことを褒め称えると彼は面映おもはゆい表情を見せた。


しばし世間話をした後、私はほぞを固めて切り出した。


「あの、私と交わりを持っていただけませんか?」


彼は一瞬驚いた表情を見せて


「なぜ…姫ならお相手がいそうなのに…。」


そう言いかけて思い解いたのか


「私で良いのでしょうか。」


と、長い睫毛まつげが美しい瞳に意思の炎を灯らせた。

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