【chapter7】王子の香り

「バスルームお使いになる?」


私がそう聞くと、


「その前に少しだけ…。」


王子がそう言って私を抱きしめる。


お互いの体温を感じながらの抱擁ほうようは心を溶かす。


王子は私をベッドに座らせると自分は床に腰をおろした。


ウエストに回された腕と太ももに頬ずりする王子の仕草が面映おもはゆい。


私は王子の頰にキスをし耳たぶを軽く噛んだ。


「あゝ…。」


王子の口元から声が漏れる。


私は王子の耳の輪郭に沿って舐め上げ甘噛みを繰り返した。


うっとりとした王子の表情と漏れ出る声がセクシーだ。


私は彼の首に腕を回すと髪の毛の中に顔を埋めた。


王子の香りに少し砂埃の匂いがする。


「今日はご公務でしたの?」


そう聞くと、彼は少し視線を上げ


「方々を馬で走り回って、とても忙しかった。」


と、答えた。


「それでしたらお疲れね。バスルームどうぞ。」


王子が立ち上がりバスルームに向かう。


塔の上にあるこの部屋にはバスルームと寝室がある。


家具は文をしたためるテーブルとイス、そしてフロアランプとベッドがあるのみだ。


この部屋には、王子と決められた使用人しか立ち入ることを許可していない。


許された使用人も私が下がれと命じた時には、誰も石段を上がってくるものはいない。


今は王子と2人きりだった。


真っ白なタオルで髪を拭きながらこちらに歩いてくる王子の肢体は実に美しい。


締まったウエスト、程よくついた胸と腕の筋肉が魅力的である。


私は、王子と入れ違いにバスルームへ向かうと、手早く身を清め再びベッドルームに戻った。


王子は、ベッドに横たわり何やら業務の文を見ている。


身支度を整えて王子に身を寄せると王子が文を脇に置き私のことを抱き寄せた。


二言三言交わした時だった。


王子の言葉がゆっくりと寝息に変わった。


(日中の業務で相当お疲れになったのね…。)


私は、王子の美しい寝顔を見ると彼の胸にそっと顔を埋める。


やがて王子の寝息に誘われるように深い眠りの海を漂い始めた。

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