第三章 童貞の修行

#27 童貞と魔法訓練



「俺も魔法を使いたい!」



 毎日の日課となっている朝のセクハラ……ゲフン。鍛練の前に、俺の同居人達三人に宣言する。

 その三人とはもちろん、女騎士のフローラ、メスガキのモカ、そして新たな同居人となった龍人族ドラゴノイドのバモスだ。



「いや、確かにハクヤにも魔力は内在しているようだが……今更魔法なんて要るのか?」


「同感〜。ていうかご主人様(笑)が魔法なんて覚えたら、絶対悪用しそうだよねぇ。覗きとかぁ、覗きとかぁ、覗きとかぁ」


「我のブレスを殴って跳ね返せるのに、わざわざ魔力を消費する魔法を使う意味あるのかな?」



 うぐっ……!? い、いいじゃないか!

 遠距離攻撃が可能になれば戦闘の幅が広がるし、何よりカッコイイじゃんか! うるせえ俺にだって憧れとかそういう気持ちはあるんだよ!!


 ……あとは風魔法でスカートチラリとか、水魔法で服がスケスケとか、回復魔法掛けるよーって合法お触りとか……魔法って最高ッ!!



「絶対如何わしいことを考えているな」


「ご主人様(変態)やらしぃ〜。エロガキみた〜い」


「我もだんだんハクヤのことが分かってきたよ……」



 う、ううううるさいな!? いいじゃんいいじゃん! せっかく剣と魔法の世界に来たんだから憧れたっていいじゃんかっ!!

 教えてくれるの!? くれないの!? どっちなのさ!?



「まあ、ハクヤが己を高めたいと言うのなら私に否やは無いがな」


「しょうがないなぁ。ププッ♪ こぉんなカワイイ女の子達にセンセイになってもらってぇ、ご主人様(童貞)はガマンできるのかなぁ〜?」


「モカ……あんまり煽るとまたエッチなことされちゃうよ……?」



 よっしゃあッ! 頼むぞフローラたん! バモスたん! あとモカ、テメェは後でマジで分からせるからな。


 こうして俺は、我が家の戦闘員三人娘から魔法を教えてもらえることになったのだった。待ってろよパンチr……ゲフンゲフン!





 ◇





「――――つまり魔力とは、この世界に住む全ての者が持つ力であり、魔法とはそれを意のままに操り、変質させてり昇華する技術の総称ということだ」


「それなりに研究されてきてるんだな。詠唱文なんて定型テンプレができるくらいには」


「魔族なんかは生まれつきの素養で感覚で使ってるかなー」


「マジかよ。魔族共めエリートじゃねぇか。天才ばっかかよ」



 目の前で手の平に光の玉を生み出して浮かべているフローラ。モニョモニョと詠唱をしたと思ったら、彼女の身体の魔力がウゾウゾと動いて、手の平に集まってポンと出たのだ。

 その隣りではバモスが同様に、こちらは詠唱も無く光の玉を生み出している。


 ん? モカ?

 モカだったら……



「んやあああんッ……!! 無理! もうムリぃいいい!!」



 俺の下で〝まんじ固め〟の餌食になって悶えてるぞ。もちろん本気で固めたら大変なことになるので、あくまで身動きが取れなくなる程度の力加減でだ。

 ちなみに時々無防備に晒されてる脇腹をつついてやると……



「んあんッ!? 待っ……うやんッ!? ごめ、ごめんなさいぃやはあんッ!!??」


「あー、ハクヤ? そろそろ放してやったらどうだ? 正直見るに耐えん」


「モカも謝ってるし、許してあげたら?」



 ぬ? 仕方ない。二人に免じて解放してやるか。んっとにこのメスガキは暇さえあればご主人様を煽りよってからに……!



「はぁーっ、はぁーっ……! し、死ぬかと思った……!」


「モカもモカだ。いい加減懲りたらどうだ?」


「らってぇ……んッ! はぁ、ご主人サマ(笑)の反応が面白くてぇ……っ」


「ご主人様をオモチャにするんじゃねぇ! ったく、その辺で休んでろ」



 ジャマというか茶々を入れてくるモカが脇にどいたので、授業再開だ。



「基本的には、自分の内在魔力を任意の場所に集めて、詠唱でイメージを固定、放出するといった流れだ。魔力を動かす事自体はハクヤもできているはずだが……」


「なんでか放出ができないみたいだねぇ?」



 そう。何度かお手本を見せてもらい、真似してやってはいるものの……その魔力の放出とやらがどうやってもイメージが湧かずできないのだ。

 アレだろ? ドラゴン〇ールとかみたいに『はぁっ!』って飛ばすのをイメージすればいいんだろ?



「うぬぬぬ……! ほっ!」


「それじゃ手に溜まってるだけだねー。触れてれば注入はできるけど、放出はできてないよ」


「何故だろうな……? まるでが枷になっているかのように……いや、魔力自体が体内から出るのを拒んでいるようだ。魔力のコントロールはできているというのに……」



 その後も色々試してみるものの、体内で完結する魔法――【身体強化】とか【視力強化】とかだな――はできるけど、いわゆる放出系の【火球ファイアボール】とか、それどころか基本中の基本の【光球ライトボール】でさえも、発動する素振りすら見せやしねぇ。



「これは……放出系は諦めた方がいいかもしれんな」


「だねぇ。これだけやってもできないとなると、そっちの分野は無理なんじゃないかな……」


「ぐぬぬ……!」


「まあまあご主人サマ(雑魚)♪ 向き不向きってやつだよぉ〜♪」


「テメェはなんで嬉しそうなんだよ!? またケツ揉むぞコラ!?」


「いやぁん♡ それよりぃ、放出系以外ならイケるんじゃないのぉ? 【強化魔法】はできてたしぃ、接触系の【回復魔法】とかさぁ」


「「「むぅ……」」」



 悔しいがモカの言う通りかもしれない。この際魅惑の攻撃魔法は諦めて、自身のチートな身体能力を活かした方法や、体内での〝循環系〟の魔法や〝注入・抽出系〟の魔法を学ぶべきか……。



「しかしな……。循環系は既に一通りはできているし、となると【回復】や【吸収】の魔法になるのだが……」


「だねぇ。フローラ、使える? 我は攻撃魔法しか使えないよ」


「私も使えんな。モカは?」


「ウチも無理ぃ〜。そのスジのセンセイを雇った方がいいんじゃない?」



 肝心のソレ系統の使い手が家に居らず、教えることができないという。

 聞けば【回復系】は白魔導士や僧侶、【吸収系】は黒魔導士や死霊使いなどが得意としているらしい。



「今度王女アンリに相談してみるかな……。それかバモスみたいに戦場から攫ってくるか……」


「やめんかハクヤ。バモスはやむにやまれぬ事情があったが、そうホイホイと魔族を懐に招き入れていては王国軍の……ひいては民からの心証が悪過ぎる。バモスはあれが初陣で、まだ誰も殺していなかったから受け入れられた部分も大きいのだぞ?」


「そうだよハクヤ。あんまり無茶ばかりしてたら、王女様だってその内ハクヤを庇いきれなくなっちゃうよ……?」



 俺が何気なくサラッと言った言葉に、フローラと当の本人であるバモスが異を唱える。

 言われてみればその通りで、あの時バモスを助けてやれたのは、あの砦の指揮官――名前何だっけなぁ――の傲慢さと理不尽さ……いわゆる不祥事に付け込んだ部分が大きいしな。



「……それもそうだな。あんまアンリにばっかり苦労させんのも良くねぇか。まあ、追々ってことにしとくわ」


「それが良いだろう。それにハクヤは今のままでも充分に強いしな。無理のしどころを誤らないことだ」


「だな。〝急いては事を仕損じる〟って言うしな」


「んえ? 何それハクヤ? ハクヤの故郷の言葉?」


「ああ、これはな――――」



 とまあ、そんなこんなで。

 華麗に攻撃魔法を操り、敵軍をボコボコにするといった俺の野望はその第一歩目から頓挫することになった。

 その日はそれなりにショックだったので、普段通りの戦闘訓練は各々の自主性に任せ、部屋で不貞寝してたのは内緒だ。


 しかし、その日の夕食の際に――――



「そんでねそんでねぇ? ご主人サマ(純粋)ったら、あれから部屋で不貞腐れて悔しがってたんだよぉ〜♪ いやぁカワイイカワイイ♡ 魔法が使えないからって駄々捏ねる子供みたぁ〜い♪」


「て、てめぇ……!!」


「堪えろハクヤ……! ココアの前だから……っふ!」


「怒っちゃダメだよハクヤ……!? 〝訓練以外では暴力禁止〟だよ……くふっ!」



 訓練をサボって木の上で俺の部屋を覗いていたらしいモカによって、盛りに盛られて俺の醜態が家族達に暴露された。


 フローラにバモス! その必死に笑うのを我慢しながら宥めるのをやめて!? 余計いたたまれないから!?

 ココアは何のことか分かってないみたいだ。うん、お前はそのまま純粋に育ってくれ……! 間違ってもモカみたいな大人にはなるんじゃないぞ!?

 レイナとショコラは困ったように微笑んでいる……が、肩が微妙に震えてるの気付いてるからね!? ちくしょうモカぁ!! テメェ明日の訓練の時覚えてろよ!?



「ねぇねぇ魔法の使えないご主人サマぁ? うふふ♪ 何かあったらウチが助けてあげるからねぇ〜? 攻撃魔法で! ご主人サマの使えない攻撃魔法でぇ〜♪」



 こんのメスガキがああああああああッッ!! 分からせる! 明日絶対分からせてやるからなド畜生がああああッ!!!


 俺はその夜はメガパンを使わずに、妄想オンリーでモカをあんなコトやこんなコトにして怒りを発散させたのだった。





 数日後の鍛練でのこと。



「俺は天啓を得た!! 刮目せよ! 風魔法!!」


「うむ、拳圧による衝撃波だな」


「まだまだ!! どりゃ! 土魔法!!」


「投石だね、威力はエゲツないけど」


「もごもごごぉー!!(水魔法!!)」


「口から水を噴き出して……って、それでなんでこんな威力になるんだ……?」


「うおおおおお!! そして火魔法だああああ!!」


「いやいやおかしいって。摩擦で火まで起こすってその手間要る?」



 俺は閃いたアイディアを自分なりに昇華し、俺独自の魔法(物理)を仲間達に披露した。なんかフローラたんとバモスたんが遠い目をしてる気がするけど!



「どうだモカぁ!? 俺だって工夫次第では攻撃魔法が使えるんだぞコラァ!!」



 だが俺が雪辱を晴らす相手は二人ではない。

 俺は庭木の枝に座って俺の実演を観ていた三人目に向かって指を突き付け、胸を張ってドヤ顔を決めてやったぜ。


 モカはなんだか若干引いたような引き攣った顔をしていたが、ややあって口を開いた――――



「筋肉魔法……(ぼそっ)」


「「ぶはッ……!!」」



 て、てめぇらああああああああああッッ!!??


 俺の必死の向上心がポキリと折れた瞬間だった。




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