#23 お持ち帰りする童貞
「貴様ふざけるなァッッ!!! 散々勝手をして戦場の指揮を混乱させた挙句、敵軍の総大将を連れて帰るだとッ!? 冗談も大概にしろッ!!」
「いや、真面目な話だし。テメェなんぞに冗談言うほど俺もヒマじゃねぇし」
「なんだと貴様ァッ!!??」
「冗談っていうのは気心知れた話の通じるヤツに言って初めて面白いんだ。〝うるさい〟〝デブ〟〝頭でっかち〟の三拍子揃ったテメェなんぞに誰がそんな価値見出すかっての」
「きき、きしゃまああああああッ!? わ、私を誰だと思っているのだッ!!」
「国の存亡や兵達の命より自分の安っすいプライドを優先する下らねぇ名前ばっかの指揮官殿かな。あと自分は司令室でふんぞり返ってるだけの騎士のなり損ないか。名前は……悪りい、忘れたわ」
マジめんどくせぇ。コイツぶっ飛ばしていいかな? ダメかなフローラたん? あ、ダメですかそーですか。はぁ……しょんぼり。
俺は今、再びあのクソ騎士団長の居る砦に来ている。
魔王軍の総大将である
顔を真っ赤にして怒鳴ってるんだか唾を飛ばしてるんだか、どっちがしたいのか分からんデブ騎士団長をシラケた目で見据えつつ、俺は戦場で受けた衝撃を脳裏に思い浮かべた――――
◆
「ふぇえええええんッ!! ひどいよぉ〜っ!! パパにもこんなにされたことないのにぃ〜っ!! もういぢめないでぇ〜〜っ!!」
ドラゴンブレスを殴って跳ね返し、大爆発を起こした魔王軍の本陣。しかしバモスは未だ倒れていないと魔力によって察した俺はトドメを刺すべく、アイツに殴り掛かった。
意外と空気が読める話も通じるドラゴン。
今が戦争中でなかったら。人類と敵対していなければ。そんな〝たられば〟を振り切って、その命運を断つべく振り抜こうとしたその拳。
それを、俺は止めざるを得なかった。
だってそこには、あの厳しくも雄々しく逞しい巨龍ではなく、服をボロボロにして自身もボロボロ泣いている女の子が居たから。
「え、は? ちょ、ええ……?? 何コレ、どゆこと? っつか誰お前???」
「バモスだもんんんんッ!! もう降参するからイタイのやめてぇええ!!
はァッ!? バモスぅううううッ!!??
え、マジでッ!?
ブレスの爆発によって戦場にできた巨大なクレーターの真ん中でギャン泣きしている女の子……というか超絶美少女は、まるで青空の様なキレイな蒼い髪をボサボサにして、同じく蒼い切れ長の瞳から涙をボロボロ流して、大声で泣き叫ぶ。
俺はやり場を失った拳を下ろして、マジマジとそのバモスと名乗った美少女を観察した。
天を衝く捻れた角は、確かにバモスの頭に生えていた物に似ている。しかし他はどうにも、あの堂々たる威容の地龍の姿と繋がらない。
うん、とりあえずスタイルはフローラたんバリに抜群だな! ボロボロのゴスロリ風ドレスの破け目から見える、あ〜んなトコやこ〜んなトコの白い柔らかそうなお肌が大変エッチですね!!
しかしクソ……っ、どうすりゃいいんだコレ!?
俺は内心完全に混乱していた。
こうなったらぁ……!!
「フローラたぁーーーんッ!! たぁすけてぇえええーーーーーッ!!!」
困った時の異世界ガイドもとい俺の相棒! フローラ先生の出番だぜい!!
頼むフローラたん! 俺にこの子にセクハラする許可を……じゃなくてどういう事なのか説明してくれぇ!!
「どうしたハクヤ!? バモスの魔力は消えていないし、まさか討ち損じたのかって何をしとるんだこのド変態があああああああッッ!!??」
「うぶほぉえッ!!??」
全速力で慌てて走ってきたであろう速度をそのまま力に変えて、ツッコミと共に全力全霊で振り抜かれたフローラの拳。
バモスの尻尾より痛いなーと思いながら、俺は地面を何回もバウンドして吹き飛んだのだった。
「ぐすっ……! ヒック……ッ!」
「なるほど。お前は実はアースドラゴンではなく、ドラゴンに変身することができる〝
宥められ落ち着いてきたバモスから聞き出した内容を、復唱し確認するフローラたん。バモスは鼻をすすりながら頷いて、ここに至るまでの経緯を語ってくれた。
「我は幹部達――四天王の方々の子供達の中でも飛び抜けて優秀だったの。魔力も高いし、龍化魔法を使えばみんな敵わなかった。養子のくせにってバカにされてたけど、パパがこの戦いで砦を落とせば幹部にだってなれるって、そうすれば誰も文句を言わなくなるって……」
ほぉ〜。魔王軍でもそういう勢力争いとか、出世競走とかあるんだなぁ。
とか、俺は呑気にそんなことを考えていた。
しかし次にバモスが発した言葉で、俺は凍り付くことになった。
「どうしよう、我負けちゃった……! このままじゃ魔王様に……ううん、
その言葉は俺の脳裏に一人の男を思い浮かばせた。
俺が助けられなかった
「は、ハクヤ……?」
「ふぇ……?」
気が付くと俺はフローラを押し退けて、ヘタリ込みさめざめと泣くバモスの正面に立っていた。
「俺と来い、バモス。俺が守ってやる」
「ハクヤッ!!??」
「ふぇえッ!!??」
二人の上げた素っ頓狂な声が重なる。
いや、お前らそうしてると、まるで姉妹みたいだな? 種族は違うけど。
そんなことを頭の片隅で考えつつも、俺の口は止まらなかった。
「俺と一緒に暮らそうバモス。同胞である魔王軍との戦いが嫌なら戦わなくてもいい。俺の家を護ってくれるのでも、なんなら家事を手伝うだけでもいい。逃げ帰れば魔王軍に殺される。このままだと王国軍に殺される。だったら……生きたいんだったら俺と来い、バモス!」
そうして、俺は未だに涙を流す彼女に、手を差し出したんだ。
◆
「聞いておるのか貴様ァッ!!??」
おっと! 未だに名前も思い出せないデブ騎士団長の飛ばした唾が目前に迫っていたので、慌てて首を捻って回避する。
いやぁ、コイツもよくもまあ飽きもせずに喚き続けられるモンだな? ノド傷めるよ?
「いい加減にしないかレイモンド殿ッ!! 元より王女殿下のご下命を無碍に突き返したのは貴殿であろう!? 我らはその後、殿下の権限により自由な行動を許されている! 貴殿に文句を言われる筋合いなど有りはしないのだぞ!?」
おおう、フローラたんが遂にお怒りになったぞ。そうそう、レイモンドねレイモンド。俺は思い出した!
レイモンドの剣幕にビクビク怯えている、話題の敵軍総大将のバモスたんを背に庇い、椅子にふんぞり返ってテーブルに手を置く俺の横で反論するフローラ。いいぞ、もっとやれ!
「黙れ恥知らずな負け犬がッ!! そして『王女殿下のご下命』ィ? 何がご下命だ! あんな戦さも知らぬ乳臭い小娘に一体何の権限があると言うのだッ!! そもそも女如きが出しゃばって良い問題ではないわッ!! 余計な口は出さずに大人しく城で王に甘やかされていれば良いのだァ!!」
あーらら、本音ダダ漏れだなーレイモンドさんよぉ。
呆れた顔でフローラが口を噤んだ。しかしそれを論破したとでも勘違いし気を良くしたのか、レイモンドはさらにヒートアップして捲し立てる。
「分かったらその魔物を私に明け渡せ! 存分に締め上げて魔王軍の情報を吐き出させ、散々に辱めた後に首を
うーわ。なんかもう、タガが外れて欲望丸出しって感じ? しかも何シレッと魔王軍撃退の手柄までかっ攫おうとしてるんだこのデブは?
ひとしきり怒鳴って満足したのか、鼻息荒くドヤ顔をキメて(見たくもねぇけど)、血走った目で睨んでくる
俺はヤレヤレと溜息を吐きながら、
「だってさアンリ。そして国王さんよ、ちっとばかし監督不行届が過ぎるんじゃねぇか? 王族の権威ってのはたかが騎士団長が笑い飛ばせるほど軽いモンなのかよ?」
手の下に隠し持っていたモノに魔力を注いで操作する。すると俺とレイモンドの間にホログラムのようなウィンドウが浮かび上がり、複数の人物を映し出した。
「な……ッ!!??」
さすがの厚顔無恥なレイモンドさんもコレは予想していなかったのか、目を見開いて口をあんぐり開けて、ウィンドウに見入っている。
『話は全て聞かせていただきましたわ、レイモンド卿。いえ、レイモンド。大変身に染みるお言葉に、わたくしは自省の念に絶えませんわ』
随分と扱き下ろされて大変オコな微笑を浮かべる話題の人物アンリ……アンリエッタ王女。
『レイモンドよ。王女に魔王軍に対する全権を移譲する旨は、
『国王陛下。ただ今クロイツ砦の通信兵より、魔王軍撃退の速報が入りました。敵軍総大将を打ち伏せしは〝勇者〟ハクヤ殿。各所の部隊の将より、援軍に感謝する旨を伝えて頂きたいとの請願も添えられております』
『そうか、ご苦労じゃった宰相よ。砦の兵達には慰労の言葉と共に、必ず伝えると返答せよ。今まさに伝わっておるでのう。して、第五騎士団団長レイモンドよ。お主は戦さの最中、一体そこで
そして国王が、宰相が。それだけでなく大臣級の重鎮達が揃い踏みで、映像越しにレイモンドに冷たい視線を投げ掛けている。
いやぁ、通信の魔導具ってマジ便利だよなー。
哀れデブ騎士団長レイモンドはこの場で国王直々に騎士団長の身分を剥奪され、不敬罪と国家反逆罪を言い渡され、自らの部下だった兵士達に連行されていった。
バモスたんはどうなったって?
そんなモン俺が今回の不手際を散々に国王に文句言って、俺の従者として認めさせたに決まってんだろうが。
ついでに今回の戦さのご褒美は、報奨金とバモスたんのグリフィオーネ王国での身分をお願いした。
アンリの顔がちょっと引き攣って見えたのだけど、ちょっとクロイツの街でお土産でも買って話しに行った方が良いかもなぁ。あ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます