#16 双子とメスガキを連れ帰る童貞



「ここがご主人様(童貞)の家なんだぁ〜? ふぅーん、趣味は悪くないけど、どことなく成金っぽいねぇ〜?」


「うるせぇメスガキ! (童貞)は付けるんじゃねぇ! あと建てたのも俺じゃねぇ!」


「ガキって言う方がガキなんだなぁ〜♪ それにウチご主人様(笑)と同い年だしぃ〜」



 てめぇそれがたとえ童貞でもご主人様に対する態度かコノヤロウ!? このメスガキ犯すぞマジで畜生!! ……できねぇけど!!



「ご主人様、あの……ココアが怯えてるのであまり大きな声は……」


「…………ッ!? ……っ!」


「あ、ああ、すまん……。別にココアに怒ったワケじゃないからな……?」


「……ひぅっ!?」



 ああもうっ!! どーしてこーなった!!??


 俺は現在、奴隷商で購入したを連れて家に帰ってきたところだ。


 いや、ホントは一人買えば良かったんだが、色々と事情が重なってなんとも買ってしまったんだ。


 一人は家に着いて早々に(童貞)だの成金だのと奴隷にあるまじき暴言を吐いてきたメスガキ……モカだ。

 18歳と俺と同い年で、銀髪のショートヘアは絹糸のように細く艶やか。緑がかった青い瞳は挑発的に、そして好奇心旺盛にキョロキョロ動き、軽く日焼けした肌は瑞々しく、健康的だ。

 体型は……まあ、絶壁とも無乳とも言わないが、ちっぱいと言える程もない……敢えて言うなら〝ちみパイ〟?



「あぁー!? ご主人様(変態)ってばウチのどこを見てるんですかぁー? イヤらしいんだからまったくぅ。そういうのはウチを惚れさせてからって言ったでしょ?」


「うるせぇ、黙れメスガキ。そういうセリフは並程度の胸を生やしてから言え。あとお前に変態って言われるのはそこはかとなく納得いかねぇ」



 身長は低くもないが高くもなく、全体的にスラッと細いいわゆるスレンダー美人とも言えるのだが、いかんせん性格がコレだ。

 今更ながら挑発に乗ってコイツを買った、過去の俺を殴り飛ばしてぇ。



『うわぁーお兄さん童貞っぽいねぇ! 奴隷にナニするつもりなのかなぁー? ウチが色々教えてあげようか、なぁーんてねぇ〜♪』


『てめぇ……!?』



 うるせぇ、笑わば笑え! 確かに『このメスガキ……! 分からせてやるっ!!』って思ってコロッと引っ掛かったよ畜生! この世界にはクーリングオフ制度は無かったんだよ!!

 まあ、こんなんでも元は有名な冒険者パーティーの凄腕の斥候レンジャーだったらしいからな。一応警備員としての腕も奴隷商に推されたから、そのまま購入したわけだ。胸と性格はともかく顔は可愛いし。



「あ、ひどーい! 聞いたショコラちゃん!? やっぱりご主人様(スケベ)もフローラやココアちゃんみたいな豊満なオッパイが好きなんだよぉ!」


「……ご主人様? フローラ様はともかく、わたしもココアもまだ13歳ですからね? そういうのはやめてくださいね……?」


「いやシねーよ!? フローラはともかくとして、俺にだっていくらオッパイがデカくても少女ロリに手を出さねぇ程度の分別はあるわッ!?」


「おい、私はともかくとはどういう意味だ? それとまたココアが怯えてるぞ」


「……ッ!」



 ああ!? ごめんてココア! そんな怖がらないで!?


 冷静に、見事なツッコミを披露したのがショコラだ。歳は今コイツが言ったように13で、ビクビクしっぱなしで俺を慌てさせているココアとは双子の姉妹だ。


 二人とも先天的な褐色肌で髪は黒。姉のショコラは黒髪を長く伸ばしており、対して妹のココアはボブカットのフワリとした髪型だ。

 性格はお察しの通りココアが非常に人見知りが強く、姉のショコラの背中に隠れて怯えて俺を窺っている。姉であるショコラは、そんなココアを守るためか丁寧かつ社交的で、言うべきことは言うというような芯の強さを感じさせるな。


 ただ残念なことに……二人とも小柄な体型なんだが、妹かつ引っ込み思案のココアが歳に見合わないご立派な果実をぶら下げているのに対して、ショコラの方はなんとも慎ましいちっぱいをしている。



「ご主人様……? 胸を見て優しい顔をされるのはすごく屈辱を感じるんですけど」


「大丈夫だショコラ。お前はまだ13歳なんだし、現時点でモカよりも育ってるんだからな。18でお察しなモカと違ってお前にはまだ可能性が充分にある!」


「ちょっ、ご主人様(残念)酷くなーい!? 女の子はオッパイが全てじゃないんですけどぉー!?」


「うるせぇ黙れメスガキ。お前には一度主従って間柄を叩き込んでやる」



 ちなみにだが、この双子には名前が無かった。奴隷商の舎房の片隅で身を寄せあって居たので、気になって会長さんに訊ねたところ、何処ぞの村だか街だかから放逐された忌み子だったんだと。

 そこでは黒い肌の子は忌み嫌われていて、しかも双子だったってんで余計に気味悪がられ、名前も付けられずに隔離されて育ったらしい。しかし11歳の頃に飢饉に見舞われ、二人は災いをもたらしたとして人買いに売り飛ばされたんだと。


 同郷の人間に酷い事をされたらしくてココアはこんな極度の人見知りとなり、以来ショコラに依存するようになっていた。

 そんな状態で買い手が付くはずもなく、気付けば奴隷商会で隅へ隅へと追いやられ、法律がある以上無碍にもできず、無駄飯喰らいとして同じ奴隷達にすら蔑まれ過ごしてきたようだった。


 俺はきっと、モカにイラついておかしくなってたんだろうな。そうだアイツが悪いんだ。気付いた時には俺は、二人に声を掛けてたんだ。



『そのまま一生そうやって隅っこで生きるつもりか?』



 意地の悪い、最低な問い。男に怯える妹を差し出すか、それとも庇い自らを捧げるか。いずれにせよ助かるのはどちらか一方で、残った方はここに独りぼっちになる。



『どっちが助かりたい?』



 お涙頂戴の安いメロドラマが観たかったワケじゃないが、姉の妹さえ居ればいいという諦観の目も、妹の全てに絶望し怯えた目もどちらも気に入らなかったんだ。

 だからきっと、俺はおかしくなってたんだろう。メスガキに煽られて、イライラが最高潮だっただけだ。



『助かりたきゃ声を上げろ。叫べ。どうして欲しいのか言ってみろ!!』


『『……ッ!?』』


『片方しか助からないなんて最初から諦めてんじゃねえ! 二人一緒が良いんだろうが!? だったら二人一緒に立ち上がれ!!』



 ほんと、どうかしてた。こんなセッ〇スもできねぇ13のガキ共なんか囲ってどうしようってんだ。青田買いのつもりか? 源氏物語の紫さんかよ?

 俺は安っぽい情に流された自分を心の中でボコボコにしながら、ヨロヨロと立ち上がった二人の褐色の少女を眺めていたんだ。


 そうしてなんだかんだ三人と奴隷契約を結び、名無しだった双子には、褐色の肌と奴隷仲間のモカから連想してショコラ、ココアと名を与えた。モカじゃ不安だがせっかくの縁だしな、姉妹みたいに仲良く暮らせりゃいいと思ってのことだ。



「さーて、予定とはだいぶ違っちまったが、まあ買っちまったモンはしょうがねぇやな」


「何がしょうがないだ。計画性が無いにも程があるだろう……。モカはともかく、双子はどうするのだ」


「まあ、最初の内は家事見習いで良いだろ。レイラには悪いが賃金を増やして、色々教えてやってもらうか」


「不憫な……」


「ねぇねぇご主人様(笑)! レイラさんって誰です!? もしかして童貞なのにまだ女の子囲ってるんですかぁ!? 宝の持ち腐れとはこのことですねぇ!?」


「うるせぇうるせぇうるせぇ! 童貞って言うんじゃねぇ!! 時期が来たら俺のハーレム計画が発動すんだよ! 見てやがれちくしょう!!」


「ひッ……!?」


「ご主人様、ですから怒鳴るのはやめてください!」


「なんで俺ばっかり!!??」



 ああ……! ホントにどうかしてる!!

 フローラの負担を減らすつもりが、どうしてもっと大変そうになっちゃってるんだぁ!? 俺の快適なオ〇ニーライフは大ピンチだよどちくしょぉおおおおーーーー!!!


 そんな俺の嘆きは、ココアが怖がってしまうので心の中に留めるしかなかったのであった。



「おかえりなさい、ハクヤさん。今朝言っていた仕事着などは買えましたか?」


「…………あっ」



 庭先で騒いでいたのが気になったんだろう。玄関からレイラが出てきて迎えてくれた……のだが。


 わ、忘れてたぁーーーーーッ!!??

 メスガキの煽りにイラついて騒ぎ、双子の様子に困惑してる内にレイラのメイド服とか下着を選ぶのをすっかり失念しちまったじゃねぇかよぉおおお!?



「……楽しみにしてたんですけど、残念です」



 やめて!? そんな失望した目で見ないでぇえええええっ!!?



「前途多難だな、ハクヤ?」



 フローラたん、ひどいッ!?




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