#05 童貞は女騎士を救出した



 細く白い両の手首が、屈強なオークっぽい豚頭に掴まれ押さえ付けられている。



「くっ……! このっ! 放せッ!!」



 地面に引き倒されたその胴体をスライムっぽい粘体生物が包み込み拘束し、徐々に徐々に、羞恥心を煽るようにゆっくりと鎧や衣服を溶かしていく。



「よせっ!? 服を溶かすなぁッ!?」



 ドレスアーマーの裾からスラリと伸びる瑞々しいおみ足を左右で抱え、コボルトっぽい犬頭が吐息を荒くする。



「くっ!? やめろ開くな――ひぅッ!? 舐めるんじゃないッ!?」


「ブモモモモ……! 無様な格好だなァ人間の女よ」



 拘束され徐々にあられもない姿になっていく美しい女騎士を眺めながら、下卑た笑い声を上げるミノタウロスっぽい牛頭。

 長く艶やかな赤い髪をした女騎士は、髪と同じく美しい紅い瞳で鋭く牛頭を睨み付ける。



「ブモモモ! お前は他の奴らと違って甚振いたぶり甲斐がありそうだァ! 今からオレサマの〝魔剣〟で気が狂うまで犯してやるからなァ……!」



 そう宣言して牛頭は手に持っていた大斧を地面に突き立て、腰鎧に手を掛ける。そしてそれをおもむろに引き下ろすと、ボロンッと醜悪な自称〝魔剣〟を露にする。


 そろそろマズイか……? いや、だが俺は……!


 それを見て一瞬息を飲んだ美しき女騎士は、しかし顔を恐怖に歪めることもなく、逆に怒りに染める。そして凛とした美しい声で気丈にも気勢を吐いた。



「くっ……! いっそ殺せッ!!」



 よっしゃああああああキタァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!



「ごちそうさまでーーーーーーーーーっす!!!」

「ブモアアアッ!!??」



 喰らえい! 必殺のラ〇ダーキックじゃあッ!!


 今か今かと〝ナマくっ殺〟を待ちわび、興奮して鑑賞……もとい状況を観察していた俺は、拝観……もとい監視にもってこいな近くの建物の屋上から、牛頭に飛び蹴りをカマしてやった。


 憐れ牛頭は俺の華麗な登場と共に退場だ。俺の持つチートな祝福ギフト全開で叩き込んでやったら、地面を抉りながら五十メートルは吹っ飛んでいったぜ。


 ふん! 俺の〝聖剣〟が未使用なのに、それを差し置いてテメェの〝魔剣〟が快楽を得ようなんざ百億年早いわッ!!



「なッ!? 何者だ!?」


「援軍だよ! 今助けるからじっとしてな!!」



 耳に心地好い綺麗な声で誰何する赤髪の女騎士に短く答えると、突然の乱入者に騒ぎ出す魔物共に突貫する。



「オラァこの犬っころがぁ! キレイな脚ペロペロしてて羨ましいぞコンチクショウがァ!!」


「キャイィイイイイインッッ!!??」



 女騎士のおみ足にしがみついてハァハァしていた犬頭を、サッカーボールよろしく蹴り飛ばす。



「この豚野郎がぁ! 俺なんか最後に可愛い女の子の手を握ったの推しアイドルの握手会(二年前)だぞゴラァッ!!」


「ブヒィイイイイイイイイッッ!!??」



 女騎士の細腕を拘束してエロい目でヨダレを垂らしていた豚頭を、マンガのワンシーンよろしくアッパーカットで殴り飛ばす。



「そしてそこのネバネバぁ!! ……お前はもうちょい頑張れ!!」


「なんでだぁッ!!??」

「キュイイイッ!!??」



 じれってぇなぁ! もっとこう、気合い入れて溶かせよ!! 大丈夫だっ、お前ならやれる!! もっと熱くなれよっ!!


 と、心の中で盛大に粘体生物を応援していたら、女騎士の手がズブリとその身体に突き刺さった。そして丸っこい玉のような物をむんずと掴んだと思ったら、そのまま握り潰した。

 途端ネバネバくん(今命名した)はドロリと溶け落ちて、異世界初心者の俺でも死んだのだと理解できてしまった。



「ね、ネバネバくぅうううううううんんっっ!!??」


「やかましいわっ!? 貴様援軍ではなかったのか!? なんでスライムを応援しとるんだッ!!??」



 スライム緊縛――やっぱスライムなのね、アレ――から解き放たれた赤髪の美人女騎士が、ガバリと身体を起こしてツッコミを入れてくる。

 そのツッコミも素晴らしいものだった。だがそれよりも俺の視線を釘付けにしていたのは、ネバネバくんが最後の力を振り絞って遺してくれた置き土産だった。



「良くやったネバネバくんっ!!」



 思わず良い笑顔でサムズアップを繰り出す俺。

 そんな俺の視線を追う女騎士は当然それを目にしたのだ。そう……! たわわに揺れる二つの夢ヶ丘をな!!



「き、きゃああああああああああああッッ!!??」



 戦場に、女騎士の上げる生還を喜ぶ嬉しい悲鳴が響き渡ったのだった――――





 ◇





「なるほどッ、王女殿下が……ッ!」


「そうそう。だからそろそろ殴るのやめてくれない?」



 あれから俺は、救出した女騎士に事の経緯を説明していた。胸を見られあまりの羞恥にキレて、俺に馬乗りになったコイツに殴られ続けながらだけど。



「クソッ!? 何故効かないんだっ!? それどころかこっちの拳の方が痛いじゃないか!!」


「もういいだろ? ま、俺は美女に馬乗りに乗られて、目の前で揺れるオッパイを眺めていられるから眼福だけど」


「〜〜〜〜〜っ!? 見るなバカ者ッ!!!」

「うぶぉ!?」



 くそぉ、今のは結構痛かったぞ……! 鼻っ柱は殴っちゃダメだろ……!


 女騎士が慌てて上からどいたので、若干痛む鼻を押さえながら身体を起こす。女騎士は胸を抱くようにして隠しながら、真っ赤な顔で俺を睨み付けている。



「やれやれ。俺のシャツを貸してやるから、コレで勘弁してくれ。貰ったばかりの新品だから、そんなに汚くないはずだ」



 俺はそう言ってから自分が着ていた白いシャツを脱いで半裸になり、女騎士に差し出す。彼女は一瞬躊躇ためらったようだが、赤い顔で不承不承といった様子で受け取り、いそいそと着込んだ。



「俺は黒桐白哉こくとうはくや。ハクヤでいい。お前は?」


「……フローラだ。それで、私以外の生存者は?」


「残念ながら。お前を探す道すがら様子を見てきたが、他に生存者の声や姿は確認できていない。隠れてるんじゃなけりゃな」


「っ……! そうか、私の軍は全滅か……ッ!」


「ところでフローラ」


「む、なんだハクヤ?」



 俺はそこらに溢れ返っている野球ボールほどの大きさの石ころを拾い上げ、振りかぶって思い切り投げる。


 ギフトで極限まで上昇した筋力で投げられた石ころは衝撃波を生み出しながら砲弾の如く飛翔し、フローラの後方から集まってきた新たな豚頭の土手っ腹に大穴を開けた。そしてそれだけでなく後方に続く群れの奴らも巻き込んで、十匹? 十体? ほどに断末魔を上げさせた。



「守ってやるから、俺から離れるなよ?」


「ふんっ、冗談ではない。部下達の仇討ちの機会は譲らんぞっ」



 いいねぇ、最高にイカス姉ちゃんじゃねぇか。

 〝くっ殺〟も見せてくれたし、今だってさっきの牛頭(多分ミノタウロス)が持ってた大斧を構えて殺る気マンマンだし。



「無理はすんなよ? 助けが欲しかったら遠慮なく言え」


「貴様こそだハクヤ。泣いて呼べば助けてやる」



 言うねぇ……! イイね、コイツも最高の女だ。美人だし、女騎士だし、〝くっ殺〟だし! こんな女とセッ〇スしてぇなぁ、ちくしょうっ!!



「とりあえず、今晩のオカズ・・・は決まりだ!!」



 俺は確固たる決意を込めて、オカズ……もといフローラと共に、魔物共の群れに突撃したのだった。




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