#04 童貞は出撃した



 父親である国王を蹴落としたアンリエッタ姫が、国の体制を刷新し始めてから数日。

 俺は割り当てられた自室で色々と検証を重ね、自分の能力の把握や今後の方針について思案していた。全裸で。


 いや、誤解しないでほしい。俺に露出癖がある訳じゃないんだ。ただ単に、この世界の衣類が肌に合わないというか、支給された明らかに高級そうな衣服を下手に汚さないためというか……。


 ええい、裸族問題そんなことはどうでもいいんだ! とりあえず煮詰まった考えをおさらいだ!



「やっぱ……、レベル上げが最優先だよな」



 俺があの駄女神セレスティアに授かったチート能力――祝福ギフトの性能は破格だ。

 ステータスウィンドウを改めて開き、あの駄女神を呼び出す【神託】以外のギフトの詳細をタップする。




【不屈の肉体※】

常時発動。肉体を何物にも屈しない強靭さに強化する。物理、魔法、更には毒に対しても極大の耐性を得る。レベルアップに比例してさらに強力になる。

※童貞を捨てると消失する。


【古今無双の力※】

常時発動。体力、筋力、魔力など、ありとあらゆる力を極大まで強化する。レベルアップに比例してさらに強力になる。

※童貞を捨てると消失する。




 どちらも常時発動型パッシブで特に意識する必要は無い。そして意識し集中すればするほど、効果は高まるようだった。

 セッ〇スをして童貞を捨てさえしなければ、まさに俺は無敵の超人だな。


 実際召喚されたばかりのレベル1の状態にも関わらず、この〝グリフィオーネ王国〟の近衛騎士団の面々を圧倒できたんだしな。

 つまり俺は、〝セ〇クスしなければ最強〟だということだ。


 そして来たる魔王軍との戦いに備えてより強く、それこそこの〝異世界ミドガルシア最強〟になる必要がある。故に、レベル上げをせにゃならん。


 とまあこのように、全裸で自室をウロウロして考え事をしていたものだから、不意の来客のノックの音に気付き損ねたんだよなぁ〜。



「失礼します、ハクヤ様。まだお休みでしょうか――――ッ!!??」



 そう。俺が魔王を打ち倒しこの世界を救った輝かしき未来で、勇者である俺の〝聖剣〟の筆下ろしをさせると誓った女性……アンリエッタ姫が部屋に入ってきていたのだ。



「なっ、ななななな……ッ!!??」


「おはようアンリエッタ。爽やかな朝で清々しいな!」



 ここで『きゃー!? アンリちゃんのエッチー!!』なんて狼狽えるのは愚策だ。

 むしろ堂々としていないと未来の情事の相手としての沽券に関わる、と秒で判断した俺は、爽やかでニヒルな笑みを浮かべながら出迎えたのだ。


 そして流石の貫禄を見せ付けた俺に対し、アンリエッタ姫は爽やかに、そしてお淑やかに返事を返す――――



「なんでまた全裸なんですのぉおおおーーーーッ!!?? お願いですから服をお召しになってくださいましぃいいいーーーーッッ!!!」



 ――――とはならなかったな。

 アイドルのような可愛い顔を真っ赤に染め、両手でその顔を覆ってこれまた可愛らしい悲鳴を上げたのだった。


 だけどお兄さんは見逃しませんでしたよぉ? おぜうさん、指の隙間からチラチラと覗いてるでしょ!


 んもうっ! エッチなんだからっ☆





 ◇





「ここが、俺の初陣となる戦場か……。俺、この戦争が終わったら……姫とセッ〇スするんだ……」



 と、立て続けにフラグを建築しながら目と耳に意識を集中させ、戦場となっている何処ぞの市街地を見渡す。


 現在俺は、アンリエッタ姫の要請で苦戦している戦線を押し上げるために、この地に馳せ参じている。

 と言うのもあの全裸騒動の後に、朝食の場でレベル上げをしたい旨をお姫さんに伝えたところ、未だ赤面していた(可愛いやつだぜ、ホントによう!)彼女にこの戦場を斡旋されたというわけだ。


 ひとりで来たのかって? そんなバカな。

 あと二、三時間もすれば追い付いてくるんじゃない?


 だって馬で早駆けするよりも俺自身で走った方がよっぽど速かったんだもん。だから方角だけ確認して、一足先に戦場へと、お宅拝見に伺ったってわけ。



「しかし、こりゃあ……!」



 見渡せど見渡せど、廃墟と化した防壁に囲まれた都市の中には、既に事切れた騎士や兵士の亡骸なきがらばかり。中には魔物っぽい死骸もいくつかは転がっているが、対比で言えば人間の方が圧倒的に多く転がっていた。


 ギフトの【不屈の肉体※】のおかげでグロ耐性も上がっているのか、凄惨な死体を観ても嘔吐したりとかはなかった。その代わりに込み上げて来たのはそう……怒りだった。


 俺の目に止まったのは、無惨に嬲られ、弄ばれた挙句に殺されたであろう女性の兵士の遺体。男共と違い一箇所に集められ、魔物共の情欲の捌け口にされたのだろう。



「許せねぇな……ッ!」



 そう、許せねぇ。

 女に乱暴を働く行為そのものも反吐が出るほど腹立たしいが、それ以上に……!



「未来の俺のセ〇クスの相手になったかもしれねぇ女性達を、よくも……ッッ!!」



 未来の可能性は無限大だ。しかもこの世界は剣と魔法のファンタジー世界! ハーレムを夢見たっていいじゃない! 男の子(29+18歳)だもの!!


 そしてそんな時。そんな風に魔物絶許の決意を固めていた俺の耳に、ふとそのが届いたのだ。


 それはアンリエッタ姫の少女らしい可愛いアイドルのような声とは違い、とても凛とした、よく通る涼やかな美声だった。



『くっ……! 殺せ!!』



 その声を聴いた俺の身体に電流が走る!

 俺の両腕は風を切り裂くが如く振られ、両脚は迅雷の如く大地を蹴り、そして俺の身体は、音を置き去りにするが如く疾走したッ!!



「〝ナマくっ殺〟だとおおおおおおおおッッ!!??」



 俺の魂の叫びが、戦場に木霊したのだった――――




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