一話⑤


「これでだいぶ良くなったかな。あとは街に戻ってからにしよう」


「オーケー。じゃあ俺がこいつ連れて先に戻るわ」


 担がれだと思ったら乗ったこともない馬に乗せられ戸惑う。


「わかった。私はもう少し先の方を確認してから戻る。ロンとマリーは私と、他のメンバーはガットと一緒に街へ戻ってて」


「はい!」


「かしこまりましたぁ!」


「りょーかい!」


「オーケー。ほな、出発するぞ。ちゃんと着いてこいよ」


「あ、あの!」


 まるは、カイトとカシパンはどうなったのか。どうなったのかなんて聞かなくても分かってた。分かっていてももしかしたら、と期待してしまう。


「今は帰るぞ」


 彼らが馬に乗って走り出すと私を乗せた馬も走り出す。振り落とされないようにしっかりとしがみつく。


「ちょ、ちょっとま」


 さらに加速する馬に目がぐるぐると回る。街へ着く頃にはヘロヘロだった。馬は住宅地の奥、大きなハウスの前に止まる。


「よしよし、ようやった。いいこやで」


 ガットが近づくと馬は嬉しそうに尾った。私は降り方がわからずもがいているうちに地面に転げ落ちる。


「いたた……」


「あほやなぁ」


 ガットはガッハッハっと笑って見せるがそんなこと、どうでもよかった。



「あ、あの」


「ん?」


「ま、まるや……他の、他のみんなは……私だけ……どうしてっ、どうして」


 口に出したら止まらない。


「私がよそ見をしてたから? だ、からみんなが、み、んなが死んじゃっ、た」


 嗚咽が止まらない。溢れ出した涙が地面を濡らして行く。そんな私を囲むように彼らは静かに立ち尽くしていた。


「私は、私はど、どっしたらよ、かったんですか。私も、私もあそこで死んだら」


「それ以上言うなよ」


 ガッドが私を睨む。


「でも」


「でもじゃない」


「だって」


「だってでもない! 死んでどうするんよ! 助けた俺たちはなんなん!」


「そんな、の! 頼んで、なんか」


「バカいうな! 俺たちだけじゃない。お前を必死に庇ったタンクは? 仲間は!」


「みんな私のせいで死んじゃった、死んじゃったんだよ!」


「お前のせいだって仲間が言ったのか!」


「そ、うじゃ、ないけど」


 顔が涙と汗と鼻水でぐしゃぐしゃだ。


「お前のせいだって責める仲間ならあんな風に護ったりしない。……あと少し、あと少し早ければ一緒に助けられたのに」


 手を固く握りしめ震えるガットの姿に辛いのは私だけじゃないんだ、と当たり前のことに気がつく。

 そうだ。皆んな、皆んな辛いんだ。


 空が明るくなってきた。また一日がはじまる。


「飯にするか。お前、名前は?」


「あ、アミです」


「オーケー、アミ。飯の前にとりあえず」


 ガサゴソとポーチを漁るガット。


「?」


「その汚い顔を洗ってきんしゃい」


 タオルを投げられガットの指さす方には井戸が見えた。


「中で待ってるから。ちゃんと来いよ」


「は、はい」


 井戸水を汲み上げ顔を洗う。

 こうして街へ帰ってくるとさっきまでの出来事は夢だったのではないか、とさえ錯覚してしまうほどにいつもと同じ、朝が来る。


「アミ」


「まる?」


 後ろを振り返るが誰もいない。幻聴か。また目尻が熱くなってきた。


 私は、私は強くなりたい。

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