プロローグ④
店内はランタンで照らされ、昼とはまた雰囲気が違って見える。見回すと店内の奥の方にまるを見つけた。同じテーブルに何人か座っていて、楽しそう。そこに割って入って良いのか考えていると私に気づいたまるが手を振った。
「アミ! こっちだよ!」
「う、うん」
テーブルにはまるの他に男性が二人。一人はよく日焼けした、言い方は悪いがチャラそうな男の子。もう一人はチャラ男とは対照的に痩せ型で眼鏡、いかにもオタクっぽいオーラを漂わせている。
どちらも苦手なタイプだ。私は遠慮がちに会釈をしまるの隣に腰掛けた。
「来てくれてありがとう」
にっこり微笑むまるにぎこちなく頷く。
「この二人は僕のパーティーメンバー。大剣持ちのカイトと魔法使いのカシパンだよ」
カイトと呼ばれた男は大きくため息をついた。
「お前が俺らのヒーラー候補かよ」
その態度は苛ついてるようにも、がっかりしているようにも見える。
「ヒーラー候補? わ、私、そんなの聞いてないけど」
慌てて否定する私にまるが口を開く。
「もし、良かったらの話だったんだ。あみがヒーラーをやってくれたら僕たちは外の世界に行けるから」
「外の世界?」
「うん。街は外壁に囲まれてるし、門は大手ギルドが交代で護ってるから安全なんだけど。僕らが外に出るにはパーティを構成して、そのうち一人が聖職者じゃなきゃいけないって決まりが出来たんだ」
「それって、つまり」
「もし、アミが良ければの話だから。嫌なら断ってくれて大丈夫だよ」
まるはそう言っていつもの穏やかな笑顔を見せる。しかしその瞳はどこか哀しげだ。
「まるは」
これを聞いてしまったら断る理由を失ってしまいそうだったが私にはその覚悟ができていた。
「まるはどうして外の世界に出たいと思うの? 街にいたら安全なのに、どうして?」
「好きだから……」
「え?」
「この世界が好きだから、です!」
まるは恥ずかしそうに、でもしっかりとそう打ち明けてくれた。
「仕方ないじゃないですか! 気がついたらまるで外国の庭園画の中を散歩してるみたいで楽しくて。外がどうなってるのかって気になっちゃって仕方ないんですよ!」
顔を真っ赤にしながら興奮気味に話すまる。
「あ、あとギルドも作っていつか住宅地でギルメンと楽しく暮らせたら……家族みたいでいいなって思ってて」
「いいよ」
「え」
「私、パーティーに入るよ」
「本当?」
「うん」
「ありがとう、アミ!」
ガタン、と音がして突然抱きしめられた。
「そんじゃ俺は先に部屋戻るわ」
カイトが去り際にカシパンにコソコソと何かを伝える。それを聞いたカシパンはなにやら慌てた様子で立ち上がった。
「じ、自分も今日はもうお、遅いのでこえで、こここれでしつれいしまず」
噛みすぎだ。
それから私とまるはたわいない話を少ししてお互い部屋へ戻った。
リリアンの夜は少し冷える。かと言って暖をとるものもないので気休めにスーツのジャケットを羽織眠りにつく。
そうして私の転生初日は幕を閉じた。
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