推しの元アイドルと幼馴染で最強のユニットをつくろう

七味こう

プロローグ

~小鴨藤丸~天宮香恋がいた日常

~小鴨藤丸~

 小鴨藤丸にとって天宮香恋は世界のすべてだった。


 天宮香恋に出会ったのは中学二年の冬、毎週買っている雑誌に彼女が所属しているアイドルグループ『彩色マーメイド』の特集が取り上げられていた。

 ナチュラルブラウンの長い髪が、赤いリボンでポニーテールに結ばれていて、活発に見えるがその表情はどこか凛とした雰囲気があり、藤丸の目には魅力的に映った。


 同い年でもあるそのアイドルの事が気になった藤丸は、ミュージックビデオを見てみると、天宮香恋は自由にステージを駆けぬけ、彼女のポニーテールがフワフワと重力に逆らっているかのように舞っている姿が目に焼きついて頭から離れなくなってしまう。

 アイドルにこれまで嵌ったことのない藤丸であったが、それからは天宮香恋に暗示をかけられたかのように魅了されていき、推しがいる事によって生活が華やいだ。


 この世の中、様々なアイドルが生まれて消えていく厳しい時代であり、彼女の所属するアイドルグループ『彩色マーメイド』は地上波の番組や雑誌の巻頭に出る売れっ子というわけではない。

 それでも藤丸はCDを買い、天宮香恋が出てくる小さな記事はスクラップに綴じて、彼女が出ている番組をすべて保存している。

 藤丸はそもそも周りから人気があるかなんてことは気にしていない。CDを箱ごと買占めてオリコンチャートの上位に組み込ませる気も、布教する気もなかった。


 ただ、天宮香恋を推している時だけは自分の胸が高鳴り、熱狂することが出来て自分が直面した苦難の嵐も彼女の事を想えばそよ風に思えた程であった。

 彼女に出会ったことでもたらされた幸福な時間と平和は青海波のように無限に、穏やかに続き、そしていつか自然と大波に変わるであろうと藤丸は信じていた。


 しかし、突然にそれは崩壊を遂げた。幸せが崩れる瞬間は突然であることを、藤丸はこの時に思い知った。


 天宮香恋は所属アイドルグループ『彩色マーメイド』を電撃脱退して、そのまま芸能界を引退した。わずか2年の活動であった。

 藤丸はそれから、この世界に絶望した。

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