第3話 アナタの居ないハジマリ その2
ドアを開けて外に出ると、見慣れた2人の顔が見える。
「遥ちゃん、理人くん、おはよぉ」
「「おはよ〜 (おはよう!)」」
いつものように挨拶を交わして歩き出す。
間延びしたようなポワッとした挨拶を返してくれた女の子は
元気な声の男の子は
この2人とは物心ついた頃からずっと仲良しだ。
それに2人の両親と私のお父さんとお母さんも昔から仲良くしているらしく、家族みんなで遊びに行くことも少なくないくらいだ。
小学校1、2年生のときは同じクラスになれたんだけど、残念ながら3年生の間は私だけ別のクラスになっちゃったから、学校についたら離れ離れになっちゃうんだけど、それでも登校するのはいつも通り3人一緒。
登校中にはいつも何でもないお話をする。
理人くんがいろいろと話題を出して、それに遥ちゃんがたくさんツッコんだりお返事をしたりしている。
私は基本的にニコニコしながら、この楽しい2人の会話に相槌を打つか、ほんの時々話を振るくらい。
昨日の夜見たテレビの話とか、晩御飯に食べたハンバーグが美味しかったとか、いつもの夢を見たとか、他愛もないお話をするだけ。
それが本当に楽しい時間に感じる。
だけど一瞬、夢の話をだしたときだけは、言葉にできない空虚感というか、なんとも言えない物足りなさを感じる。
この2人には私がこの夢を何度も見たことがあると話したことがある。
とは言っても、その正体が何なのか、物足りなさの原因が何なのかは、一切の心当たりが思いつかないので、この話題が深まったことは今日もこれまでもないんだけど。
そうこうしている内に学校についてしまった。
今日は終業式だからお昼ごろには帰れるし、放課後にはすぐにまた2人と遊びに行ける。
それに今日さえ乗り越えたら、明日は遥ちゃんと理人くんのお家の家族と一緒にホームパーティーをすることになっている。
靴箱で上靴に履き替えながら、後に控える楽しみを思い浮かべて2人と一旦お別れする。
「それじゃあ、また後でな、夕愛!」
「あとでね〜夕愛ちゃーん」
教室の前で理人くんと遥ちゃんが元気よく手を振って伝えてくれる。
それに合わせるように私も挨拶する。
「うん、2人とも、また後でねぇ〜」
2人が隣の教室に入っていくのを見送ったあと、私も自分のクラスに入る。
その瞬間、クラスの男の子たちと数名の女の子たちの視線が一斉にこちらを刺す。
直後にみんなが一斉に私のところに寄ってきて、「おはよう」と言いながら、私のことをわやくちゃにするのだ。
これも毎朝のこと。こういう小さなところでも、私に嫌がらせをしてくるのだから、朝から憂鬱になってしまうのも仕方ないよね?
私みたいな暗くて大人しい子のことなんて、放っておいてほしいのになぁ。
皆に囲まれすぎて、しばらく入り口で動けずにいると、「おーい、お前らー。皇のことが気に入ってるのはわかるけど、あんまり困らせるなよー」と言いながら担任の先生が教室に入ってくる。
鶴の一声とばかりにみんなが自分の席に戻っていく。
みんな私のこと気に入ってるわけじゃないでしょ。
嫌がらせして喜んでるんだ。もっと強く言って欲しいのに......。
でも、先生に直接お願いするなんてできないし、今日も我慢しよう......。
いつも通り諦めて自分の席に戻り、今学期、今年度最後のホームルームを受けた。
*****
ようやく体感時間の長かった体育館での終業式が終わって、荷物を持って帰宅するだけになった。
終業式では、校長先生の長くて要領を得ないお話とか、体育の先生からの「春休み中あんまりはしゃぎすぎるなよー」というお説教、今期いろんなことで頑張って表彰されたりした子たちの紹介なんかがあったけど、後で持ち帰る荷物を確認する作業を想うと憂鬱で、どの話もほとんど頭に入ってはこなかった。
そして今、その憂鬱は最高潮に達している。
机の中と教室の後ろにあるロッカーに置いてある荷物の中を確認してから持ち帰らないと......。
お願いっ!今回は何も入っていませんように!
この3年間で荷物の持ち帰りがある学期末ごとに、毎回何か嫌な思い出があった。
だからどうせまた何かあるんだろうけど、神様に祈らずにはいられない。
私はいっしき祈りを捧げた後、まずは道具箱を確認する。
覚悟を決めて、えいっと箱を開けると、その中の様子はいつもと少し違っていた。
落書きなんかが施された形跡はなく、中にも怪しいものはほとんど入っていない。
何かが盗られた形跡も、ぱっと見た感じでは見当たらない。
ただ、1つだけとてもわかりやすい異物が入れられていた。
無地の白い封筒。
警戒していた気持ちに対して、案外拍子抜けな内容物に若干安堵しつつも、それが不幸の手紙だったり、果たし状であったり、怖い内容が書かれたものである可能性は十分にある。
覚悟を決めて中身を開けると、そこには無骨で、お世辞にも綺麗とは言えない字で短いメッセージと、送り主の名前が書かれていた。
『終業式のあと13時に
私は「求道ないと」、正式な名前は「
私たちの2つ年上、小学校5年生の幼馴染だ。
騎飛くんか......理人くんや遥ちゃんと違って、特別仲の良い人というわけではないんだよなぁ。
むしろ昔から何かとちょっかいをかけてくるし、何故か
手紙でお呼び出しなんて初めてだし、何の用なんだろう?
正直理由はよくわからなくて怖い気持ちが強い。
だから私は、最も信頼する幼馴染の2人、遥と理人に頼ることにしたの。
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