しゃしょり座なのじゃ!✧‧˚

桜林路こぴ

黄金の章

第1話

 執印周しゅういん・あまねは、冷たい光差す白月も赤らむ美少年であった頃から、今や大きく成長した。

「来いや!必殺魔球ども!」

「執印のおー!」

 周は空中浮上式の愛機、単車『赤鸞せきらん』の先端を握って棍棒のように振り回す。襲いかかる敵の単車の群れが、続けざまに緩重力高速道路外へと叩き飛ばされてゆく。

「百連続ホームランだ!」

 敵の怒号と悲鳴とが消える頃、合流路で爆発音が起こり、周が進入しかけていたトンネルの照明が全消灯する。

(なんだ?こいつ飛ばされてきたのか?)

 闇の中で静止しているかの様な周と赤鸞が、ゆっくりと空中を下降する少年と並走している。

 大きく『敦』の字が光る黒髪を注視しながら、花が見る夢の中から現れたような少年の側頭部に向けて、数度指を鳴らす。

「生きてんのか?起きろ」

「ああっ!」

 少年が目を開いて呟く。

「勝った」

(こいつの目!吹雪のさなかに光る凶獣の瞳の様な獰猛さがある!育ちが良さそうな顔立ちだが何者だ?だが)

「勝ち馬ってか。縁起物だな」

 トンネルの出口に差し掛かった周が、再び目を閉じた少年の細い肩丘を、屈強な腕で抱き寄せた時、照明が点灯し、敵の増援が追撃のために押し寄せる様をも映し出す。

「執印んー!」

「おっとこれもか?」

 周が少年の傍に浮かんでいた横笛を掴み取った刹那、高速道路が異常な形へ分裂し始める。

「なんだこらあ!?」

「ぐわあーーー!」

 天地が消え、高速道路が歪んだ空間に沿って幾筋にもほどけ、立体的にねじ曲がってゆく。

(走り屋どもの姿も四散して消えた!この空間で今、生きているのは俺達だけだ!)

「わっほー立っち乗りいー!」

「それえー!人は呼ぶ。ボクらは大樹たいじゅの切り札!」

「「ロイヤルストレートフラッシュ!」」

「どけワンペア!」

「ぎゃー!何すんだ!」

 車線内へと後方から滑り込んで来た、2台の中型の単車を蹴り退けた周に、小学生らしき児童が叫ぶ。

「失せろ!」

「いきなり蹴る!?普通」

「それよりさ」

「そ、そ。その子ちょうだい」

「こいつは俺のもんだ!」

「はあー。あれ?このナンバープレ-ト普通のだ」

「お前らのは御当地ナンバーってか」

「うひひ」

「それっ」

 二人の児童が見交わして笑う。

「見たい見たい?」

「行っけー!」

 急加速した2台の単車が光に包まれ、二人がマントをなびかせながら、周の単車を両側から追い抜く。

(法興ナンバーと延喜ナンバー?元号か)

「御当時ナンバーってか?走り屋グッズかよ。すごいすごい高かったろ」

(こいつら男子だな。太腿の筋で分るぜ。ぶん殴って良さそうだな)

「どうでしょう~」

「消えろ!」

 児童の単車を蹴り飛ばした周の進路に透明な物体が現れ、衝撃で赤鸞ごと弾き飛ばされそうになる。

「ぐああああ!」

「ていうかさ、ただの単車でこの空間にいられる方が変なんだよ」

「教えといてあげる」

「ボクらは時代の風とともに走る!」

「「天驤てんじょう衆!」」

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