しゃしょり座なのじゃ!✧‧˚

桜林路こぴ

白銀の章

第9話 ル・リオン・ブラン

「これ旨いわ」

「せやろ」

「しっとり、よく焼けてて」

「そうそう」

「血ぃの味がするわ」

「焼きおにぎりやぞ!」

「ああー!始まるわ!!!香師宮かしみやさんの声帯調律!!!マレト!静かにせえや!」

(元気ちゃん…)

 白い髪に灼熱のステージライトを浴びている香師宮が、会場の熱射と湿度に合わせて、マイクを握って喉の具合を慣らしている。


─── 失われていたリズム


(この段階で既に天使や!香師宮さん!!!)


─── 神秘なる宇宙の法則の回復とともに!


─── 夢の中で開いた宝石箱


─── なんでも出来る知恵の源


みなもと言うた!うちの事や!!!)

(せやな……)


─── 何とかなる様で、今ひとつ。そんな毎日


─── 本当は、なんでも出来ていた


─── たった一粒のきらめきが必要だっただけ


─── そう。それが


(来るわーー!!!)

「シャングリラーー!!!」

 香師宮の歌声とともに、観客が跳び上がって絶叫し、空気を激動させる演奏が開始される。

 香師宮の美しい指示の先に居る観客が、次々に卒倒してゆく。

「♪黒髪の波に仕掛ける金紗鎖きんしゃさを鳴りそよがせてぇーーー!!」

「うちも指したってーーー!!!!」

「♪廃墟のコンクリートに絡みつくなまめかしい妖蛇!」

「香師宮さぁっーーーーんっ!!!」


「何の騒ぎだ?武道館の方が騒がしいな」

「いや、あれは」

「言えっ!!」

 令宗よしむねは、自らの資金で主宰している、国際若人マラソンの中継番組に映し出されている、我こそはと勝利と記録と苦境を求めて走り続ける選手達の表情を眺めて、応接間のソファーで悦に入っていた。

 バンドリーダーの令宗に詰問された『X月キサラギ』のローディーが、日本刀を突き付けられている身体を強張らせて、声を振り絞り出す。

「ル・リオン・ブランのライブです」

「!」


「♪恋する奴には天だけがあるだろう。極情ごくじょうの恋を求めにやって来い!」

(こっからやこっからや!!)

「♪お前とシャングリラ!ここはシャングリラ!お前を…」

(来たってやーー!!!)

「連れてくぜぇーーーっ!!!」

「香師宮さーーーん!!!」

「♪シャングリラぁーーーー」

「香師宮さーーーーん!!!!」

「─── 世界ツアー、そしてジャパングリラ第一弾、ここ新生淡路にゅうあわじのお前ら!!」

 香師宮が拳を突き上げる。

「昇天ショータイムはまだまだここからだぁっ!!!!」

「ぎゃああああああああ!!!!香師宮さあーーーーーーん!!!!!」


 翌日。

「X月の令宗いうたら、なんやら前世がしんどそうなイケメンやんけ」

「その令宗さんが、香師宮さんに挑戦状を叩きつけたんだって!」

「なんやと!耳揃えて持参せんかい!何書いて寄越したんや!」

「それがね」

「何やってんだお前ら?どうせ織田信長が石鹸の香り漂わせてるのが正しい時代考証とか話してるんだろ?」

 綺子が、稀人に差し出された端末に表示されている文面を読む。

「なんやてぇえええええーーー!!!!」


 2メートル蛇行剣と盾型銅鐸が空中に浮かんでいる。

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