二 バイオロイド
二〇三四年三月二十二日、水曜、一九〇〇時。
ステルス状態でISS-BS1の攻撃から逃れたオリジナルのフェルミ艦隊は、静止軌道速度の秒速3.07キロメートルで、月を周回する楕円星軌道上を航行していた。
艦長のセリウス・フェルミは球状の防御エネルギーフィールドに包まれて旗艦〈ユウロビア〉(全長二キロメートルの立体アステロイド型戦艦)の上部ブリッジにいた。
ブリッジの透明なドーム越しに月が見える。
ニオブのへリオス艦隊とプロミドンを手に入れ、ニオブ全艦隊の指令艦でへリオス艦隊の旗艦だった〈ガヴィオン〉からテクノロジーを得ねばならない・・・。
さすれば、我らの力はこの渦巻銀河ガリアナで最強になり、惑星ガイアを支配している、ニオブのアーマー階級ジェネラル位の、ヨーナの末裔のニューロイドのテクノロジーを凌駕する・・・・。
レプティリアは他の有機体に気づかれずに精神と意識に浸入して支配するレプティカ(レプティリア特有の意識内進入の思念波)を持っている。
セリウス・フェルミは、レプリカの〈ザルド〉にいるレプリカンのレプティリアの女帝リズと、レプリカンのマコンダのアーサー・ブリット大佐に思考と記憶と意識を読まれているのに気づかずにそう考えていた。
惑星ガイアのヒューマ(人類)を攻撃する意義は惑星ガイアの支配だけか・・・。惑星ガイアを支配しても、我々には完全有機体の子孫がいない。バイオロイドとして若返っても、脳内の分子記憶から老いの焦燥感と虚しさは残る。有機体の子孫が存在しない限り、直接的に一族として受け継ぐべき精神的時空列は構成されない。受け継がれるべきエネルギー交代も存在しない。個人的満足を得るのみで、子孫へ伝播される精神的満足は得られない・・・。
やはり子孫を残すべきだ。子孫を残そう。まだ生殖器は残っている。生殖能力はゼロではない。配偶者を得て私たちの子供を産もう・・・。ソウチ(レプリカン培養装置)によるバイオロイドではなく、我が生殖器による有機組織のヒューマノイドの育成だ・・・。
セリウスは腕を組むようにして右手で左肘を掴んだ。戦闘気密バトルスーツの上から肘にのヒンジが触れた。
こんな部品の身体なのに、非常事態には戦闘気密バトルスーツが必要とは・・・。
セリウスは自身がバイオロイドであることを忌わしく感じた。
「何を見てる?」
副艦長のコール・リーの声でセリウスは振り返った。
戦闘気密バトルスーツ姿のコールが防御エネルギーフィールドに包まれて、0・6Gの人工重力場に満たされたブリッジを跳ねるように近づいた。
「月を見てる。あそこのどこかにへリオス艦隊があるはずだ・・・」
セリウスはそれまでの思考を停止してブリッジの透明なドーム越しに月面を指さした。
透明なドーム越しに回収攻撃艦〈スゥープナ〉・全長20キロメートルが見えた。艦体は結晶構造を模した八面体だ。その前部隔壁が開いた。
「予定どおり回収される・・・」
旗艦〈ユウロビア〉は全長2キロメートル、八面の曲面隔壁を有する立体アステロイド型戦艦だ。旗艦〈ユウロビア〉は回収攻撃艦〈スゥープナ〉の開いた前部隔壁から、〈スゥープナ〉内部に入って、ドックに係留された。
フェルミ艦隊の迅速移動のため、回収攻撃艦〈スゥープナ〉が旗艦〈フェルミナ〉として新たに指揮を取るのである。
本来の旗艦〈ユウロビア〉は全長20キロメートル、八面の曲面隔壁を有する巨大な蝙蝠が翼を拡げたような立体アステロイド型戦艦だ。フェルミ艦隊全クルーはレプティリアの思念波・レプティカによって支配され、本来の旗艦〈ユウロビア〉をレプティリアに奪われて、十分の一の旗艦〈ユウロビア〉に変えられたのを、艦体クルーは誰も気づいていなかった。
フェルミ艦隊クルーに気づかれぬまま、旗艦〈ユウロビア〉(全長20キロメートル)は〈ザルド〉と名を変えてイングランド南部の地下空間に格納され、さらにそのレプリカ艦の〈ザルド〉が常時ステルスのまま、静止軌道上から月へ向って移動を開始している。
レプリカ艦〈ザルド〉を指揮しているのは、搭乗しているレプティリアの女帝リズに意識内進入されて隷属しているマコンダの艦長アーサー・ブリット大佐だ。二人はいずれもレプリカンだ。オリジナルはイングランドの地下の〈ザルド〉内にいる。
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