十三 静止軌道上の戦い 二

 4D探査映像の〈ユウロビア〉が消えた時空間に、茫漠とした平面空間が現れた。その中央が波打って、波紋とともに巨大な立体アステロイド型戦艦が現れた。位相反転シールドでステルス状態を維持しているが、PDの4D探査にとって位相反転シールドは無いに等しい。


〈フォークナ〉級突撃攻撃艦だ!

 Jは緊急指示した。

「PD!他の戦艦を探査してくれ!」


「了解しました・・・。

 フェルミ艦隊です。

 この突撃攻撃艦〈フォークナ〉が新たな旗艦〈フェルミナ〉として就航したようです。

 旗艦〈フェルミナ〉の他に、

 突撃攻撃艦〈フォークナ〉三隻、

 攻撃艦〈ニフト〉一隻、

 回収攻撃艦〈スゥープナ〉一隻の、計五隻の副艦と、

 搬送艦一六〇隻、

 円盤型小型偵察艦二十隻、

 これらが位相反転シールドを張ってステルス状態で静止軌道上にいます」


「なぜ、現れた?」

「旗艦〈ユウロビア〉が消滅したので探査に現れたのです。

 消滅した〈ユウロビア〉の艦体は存在しません」


「フェルミ艦隊の各艦の大きさはどれくらいだ?」


「旗艦〈フェルミナ〉を含めた四隻の突撃攻撃艦〈フォークナ〉は、3キロメートル。大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉と同型の、巨大な蝙蝠が翼を拡げたような、八個の曲面を持つアステロイド型幾何学立体型です。


 消滅した旗艦〈ユウロビア〉も、八個の曲面を持つアステロイド型幾何学立体でした。大きさは約2キロメートル。大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉の十分の一だったのは、フェルミ艦隊の指揮を重視したためです。とは言え、攻撃能力は〈フォークナ〉と同じでした。


 回収攻撃艦〈スゥープナ〉は、プロミドンを二つ合わせたような形状(ピラミッド形の底面を合わせた形状)の八個の曲面を持つ幾何学立体で、回収機能のため、20キロメートルの大きさがあります。

 攻撃艦〈ニフト〉は5キロメートル。

 一六〇隻の搬送艦は直径10キロメートルの円盤状です。

 小型偵察艦は50メートルの円盤状です。

 攻撃艦には、小型アステロイド型攻撃艇が、各艦の大きさに応じた隻数、最大長キロメートル数の百倍が搭載しています・・・」


「フェルミ艦隊は我々に気づいたか?」

 吉永に精神共棲しているCがPDに訊いた。


 吉永には、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐の部下のカール・ヘクター中佐の精神と意識を持つ、カムト・ヘクトスター(C)の精神と意識が精神共棲している。Jが精神共棲する京香にとって、吉永と呼ぶよりC(カムト・ヘクトスター)やカールと呼ぶ方が気楽だ。その事は京香にも言える。Jや、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐の、マリー、と呼ばれる方がしっくりする。


 PDが答えた。

「ISS-BS1もISS-ST2も、存在空間を0次元に保ったままフェルミ艦隊のAIを騙したままです。

 ジャイロ型の国際宇宙ステーション・ISS-ST2のように、ここに留まっていても、電子兵器と電磁兵器の攻撃を回避できますが、レールガンや物理的誘爆装置のミサイル攻撃の回避は困難ですが、我々には方法はあります」

 PDは意識記憶管理システムを通じて、Jたちの意識にレールガンやミサイル攻撃の回避策の精神思考が送った。

 PeJは回避策を知って小躍りしている。


「我々が気づかれる可能性はないか?」

 特捜班長前田銀次に精神共棲したG(ガル(ゲイル)・ヘクトスター)がフェルミ艦隊にこのISS-BS1が探査されぬか気になった。

 GはCの異母弟で、ともにJの甥だ。Jがグリーズ星系主惑星グリーゼにスキップ(時空間移動)し、その後、CとGがスキップしたため、時空間の流れに相異が現れた結果だ。

 特捜班員山本浩一にはM(マックス(マクシム)・オオスミ)が、特捜班員倉科肇にはZ(ザック(ザクレブ)・オオスミ)が現れている。



「皆無です。ご安心ください。精神思考をお伝えしたように、私たちがスキップ(時空間移動)するか、レールガンの高速運動量弾やミサイルをスキップすればいいだけです」

 とPD。


「だったら、最初からメテオライトを〈ユウロビア〉にスキップすれば、戦闘はかんたんに終ってたよ」

 PeJはふしぎそうに執事姿のPDを見ている。

 PeJはPDのサブユニットだ。PDの考えを知っているはずだ。Cたち(吉永たち)が理解するように、あえて訊いている。


「メテオライトで〈ユウロビア〉を壊滅したら、フェルミ艦隊はここに出現しません。

 フェルミ艦隊をおびき寄せるために〈ユウロビア〉をレールガンで壊滅したのです。

 発射から着弾までの一秒で、〈ユウロビア〉は攻撃されている、とフェルミ艦隊に連絡を取りました。

 さあ、艦隊壊滅のチャンスです」


「精神生命体ニオブの末裔の一族・フェルミもニューロイドだろう。

 壊滅していいのか?」

 とC(吉永)。


「先ほど説明したようにフェルミ艦隊は独裁国家の支配者を操っています。

 壊滅しなければ、地球上のヒューマ(人類)が独裁政権に支配されたままになります。

 実質はフェルミを支配しているレプティリアの意のままです」

「レプティリアを壊滅できればいいのに・・・」

 PeJが残念そうに言った。


「レプティリアは何処にいるか不明です。

 Jが襲われた映像と軽部の病室の映像から、レプティリアを探査中です」

 PDが精神波(心の思考である精神思考による意志疎通)で4D探査状況を説明した。

 JとCたちが精神共棲して以来、クルーにも、ニオブのニューロイドであるトムソたちが精神共棲したテレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバットの精神と意識が精神共棲している。意識記憶管理システムは不用になっているのをようやく皆が気づきはじめた。


 PeJの4D探査映像で、軽部平太の病室に現れたレプティリアらしき四人の波動残渣と、サイボーグ開発局CDB四階サイボーグ特務コマンドCSC専用宿泊施設のエレベーターホールで鮫島京香を襲った女と警官と後始末に現れた人影の波動残渣はデータ化されて、現在、新たに4D探査中だがまだ結果は出ていない。



『フェルミ艦隊を壊滅するよ!いいね!』

 Jが皆に精神波(心の思考である精神思考による意志疎通)で伝えた。

『私は精神波で指示する!皆、今後は精神思考して精神波応答してくれ!」

『了解!J!』

 とCたちとクルーが応答した。

『了解したよ。J!』

 PeJはうれしそうにそう言った。PeJの記憶に、フローラ星系惑星ユングでアシュロン商会のレプリカンとの戦闘が蘇っている。


『PD!

 全レールガンを艦隊旗艦〈フェルミナ〉のレールガンにロックしろ!

 他の全兵器を、旗艦〈フェルミナ〉のスキップドライブにロックしろ!』


『了解!』

 PDの精神思考がクリアになった。PDの精神波は、ISS-BS1の全クルーにも伝わっている。

『全兵器、ロックオン完了!

 フェルミ艦隊がステルス解除してシールドを強化した!

 警戒ランクは7!

 戦闘態勢だ!』



 ISS-BS1艦内各兵器担当と各部署のコントロールポッドの4D探査映像にフェルミ艦隊の全貌が現れた。フェルミ艦隊中央の旗艦〈フェルミナ〉にマーカーが現れて4D探査映像がロックオン4D映像に変った。


『PD!

 フェルミ艦隊は我々に気づいたか?』

 JはコントロールデッキにいるPDのアバターに訊いた。

『まだ気づいていません。

 本艦は多重位相反転シールドでステルス状態を維持中です!』


『ISS-ST2から離れたい。戦闘に巻きこみたくない。

 スキップ移動とドライブ移動のどっちがいいか?』

 国際宇宙ステーションISS-ST2(solid torus2)はジャイロ型だ。そして、ISS-BS1は戦艦型だ。互いにスキップドライブとPDドライブが可能になったが、静止軌道に留まっているジャイロ型ISS-ST2は国際的に知られているがISS-BS1は知られていない。現在はステルス状態になっていても、国際宇宙ステーション、ジャイロ型ISS-ST2(solid torus2)の移動は避けたい。


『ドライブ移動です。

 移動後のステルス解除で、フェルミ艦隊の注意が本艦に向きます

 ステルス解除後の移動は、ISS-ST2を戦闘に巻きこむ可能性があります』

 PDはJの思考を読んでいる。Jはフェルミ艦隊の注意をISS-BS1に引きつけて国際宇宙ステーションISS-ST2(ジャイロ型solid torus2)から遠ざかろうと考えていた。


『PD!ボーマン艦長!

 本艦をフェルミ艦隊の静止軌道外1000キロメートルへ全速移動しろ!

 戦闘態勢を維持したまま、ISS-ST2から離れろ!』

〈ユウロビア〉を壊滅させた後も、ISS-BS1とISS-ST2は多重位相反転シールドを張ってステルス状態のまま、警戒ランク7を維持している。


『PD、了解!』

『艦長、了解

 本艦を、静止軌道上のフェルミ艦隊から1000キロメートル外方へ全速移動!』

 コントロールデッキとコントロールポッドの艦内4D映像でボーマン艦長が応答した。

 Jの指示でコントロールデッキの4D探査映像のフェルミ艦隊が時計回りに回転した。ISS-BS1は艦首をフェルミ艦隊に向けたまま、静止軌道上のフェルミ艦隊から1000キロメートル外方へ全速移動した。


『艦隊がさらにシールド強化しました』

 PDがコントロールデッキとコントロールポッドに現れているロックオン4D映像を旗艦〈フェルミナ〉にフォーカスして拡大した。


『PeJ。艦隊の戦闘態勢を再分析しろ!』

 とC(吉永)。


『フェルミ艦隊警戒ランク7。

 本艦警戒ランク7」

 PeJは穏やかにCに報告してJを見て告げた。

『J。ほんとうに、ステルス解除して攻撃するの?』


 PeJは、本当にステルス解除で戦闘開始するのか疑問視している。

 ISS-BS1もISS-ST2も多重位相反転シールドを張ってステルス状態を維持している。ISS-BS1からフェルミ艦隊は丸見えだが、フェルミ艦隊からISS-BS1は見えていないはずだ。このまま攻撃すればフェルミ艦隊を一挙に壊滅できる。PeJはそう考えている。


『できるだけ、国際宇宙ステーションISS-ST2が被害を受けないようにするんだ。

 ISS-ST2も多重位相反転シールドしてステルス状態だが、レールガンの高速運動量弾連射やミサイル連射を一ヶ所に食らったら、多重位相反転シールドは持たない』


『スキップドライブ(時空間移動)で逃げればどうなの?』

『国際宇宙ステーションISS-ST2は静止衛星型だ。

 ステルスは知られているが、スキップ可能なのは知られたくない』


『わかったよ。時期をみて時空間スキップするんだね?』

『ああ、そうだ。納得したか』

『納得したよ。Cたちも認めたよ』

 PeJはコントロールポッドのCたちを見ている。


『PD。ボーマン艦長。警戒ランク8に移行前の再確認だ。

 本艦警戒ランク7を確認しろ!』

 Jはコントロールポッドとコントロールデッキの艦内4D映像を再確認した。


『ブリッジ隔壁閉鎖完了!隔壁シールド完了!』とボーマン艦長。

『マスターAIと兵器管理AI起動完了!

 攻撃対象旗艦〈フェルミナ〉にオートロックオン完了。

 各兵器と担当の意識思考シンクロ完了。

 全兵器が司令官と艦長の指揮下です』

 PDは、全クルーが警戒ランク7の戦闘態勢を維持している事を告げた。


 コントロールデッキとコントロールポッドに3D映像で現れている各兵器担当の、ターゲットスコープ4D映像に、全クルーが配置完了して兵器管理AIとのシンクロを示す黄色表示と、フェルミ艦隊の警戒ランク7を示す黄色表示が出ている。


 ボーマン艦長とPDに報告させなくても、精神波と艦内4D映像で状況は把握できるが、あえて報告させることでクルーの戦闘意識を高めようとJは考えていた。



『本艦警戒ランク7を了解した!』

 Jはコントロールデッキとコントロールポッドの4D映像に向ってそう告げて指示した。


『こちらコントロールデッキ、指揮官Jだ。

 これより警戒ランク8へ移る!

 緊急指令とともにPDが随時状況を伝える。

 フェルミ艦隊がステルス解除してシールドを強化した。

 フェルミ艦隊の戦闘態勢はランク7。

 フェルミ艦隊は本艦とISS-ST2に気づいていない。

 気をつけねばならぬのは、旗艦〈フェルミナ〉のレールガンだ!

 弾頭ロドニュウム総質量は1トン。

 よって、本艦のレールガン主砲は、50キログラムチタン合金弾連続速射で旗艦〈フェルミナ〉のレールガンを叩く!

 同時に他の全兵器で旗艦〈フェルミナ〉の亜空間スキップドライブを攻撃する!』

 全員がコントロールポッドのシートから「了解」のグリーンシグナルを送っている。


『本艦とフェルミ艦隊の距離1000キロメートル!

 戦闘は一秒以内に決着する!

 本艦の防御シールドを十分の一秒解除する!

 レールガン主砲は連続速射で旗艦〈フェルミナ〉の主砲を攻撃しろ!

 この間に、ビームパルスとミサイルを放て!

 以上だ!』


『PD!ステルス解除後、ただちに攻撃だ!』

『了解!

 ステルス解除!

 撃てっ!』


 ISS-BS1の全貌が、フェルミ艦隊の静止軌道外1000キロメートルに現れた。同時にISS-BS1はフェルミ艦隊に攻撃の間を与えず、旗艦〈フェルミナ〉を総攻撃した。

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