十二 静止軌道上の戦い 一
フェルミ艦隊がいないのに旗艦〈ユウロビア〉が静止軌道上にいる。ステルス状態だ。〈ユウロビア〉は何をしている?
吉永は精神思考(心で思考すること。精神空間思考とも呼ぶ。精神波を発して意志疎通できる)していた。
吉永の精神思考(心で思考すること。精神空間思考とも呼ぶ。精神波を発して意志疎通できる)を読んで、鮫島がPeJに精神波(心の思考である精神思考による意志疎通)で伝えた。
『PeJ。〈ユウロビア〉は何してる?フェルミ艦隊はどこにいる?』
鮫島の思考は、Jの精神と意識による精神思考だった。今や鮫島は完璧にマリーの精神と意識を持つJの精神と意識を受入れていた。
「静止軌道上、地球の自転方向、直線距離にして36000キロメートルにいるよ。静止軌道の周回軌道距離なら、37680キロメートルだよ。
フェルミ艦隊は地球と国際宇宙ステーションを探査してるよ。
だけど、多重位相反転シールドした国際宇宙ステーションがステルス状態だから、見つからないんだよ」
静止軌道は地球の赤道36000キロメートル上空の宇宙だ
「〈ユウロビア〉のクルーに、CSSとスパイ衛星の破壊はどう思われてる?」
吉永が、Jの部下で甥のトムソ(ニオブのニューロイドで新人類)のカムト・ヘクトスターの精神と意識で訊いた。吉永も、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐の部下のカール・ヘクター中佐の精神と意識を持つ、カムト・ヘクトスター(C)の精神と意識を受入れていた。
「メテオライト(隕石)による事故だと思われてるよ。
ねえ。皆を何て呼べばいいの?
京香はマリーのニューロイドで、マリーはJのニューロイドだから、京香はJのニューロイドだよね。
今の個性は何?Jなの?マリーなの?それとも京香?」
「そうだな、私の一番強い個性はJだな。
PeJも、主惑星グリーゼで誕生した時のように、私をJと呼びたいと思ってるだろう?」
Jは、PDによって惑星ガイアから主惑星グリーゼのグリーゼ国家連邦共和国へスキップ(時空間転移)した田村燿子で、スキップ後の名はジェニファー・ダンテだ。オリオン国家連邦共和国代表の総統Jで戦艦〈オリオン〉の提督Jだ。PeJの制作者で名付け親だ。生命を与えたのPDだ。
カムト・ヘクトスター(C)は燿子の弟・田村宏治の子どもだ。年齢の相異は、PDによる惑星ガイアから主惑星グリーゼへのスキップで、平行宇宙の時空間変異が生じた成長期の相異だ。
「うん。そしたら、Jと呼ぶね。
みんなを、精神共棲したトムソの名前で呼ぶよ。
吉永指揮官はCだよ。倉科肇班員はZ、山本班員はMだよ。皆、わかってるよね?」
「ああ、わかってるぞ」
「よろしくな。PeJ」
特捜班長前田銀次と特捜班員倉科肇と山本浩一が承諾した。
特捜部指揮官の吉永には、テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐の部下のカール・ヘクター中佐の精神と意識を持つ、精神生命体ニオブのニューロイドのトムソであるC(カムト・ヘクトスター)の精神と意識が精神共棲している。
特捜班員倉科肇にはZ(ザック(ザクレブ)・オオスミ)、
特捜班員山本浩一にはM(マックス(マクシム)・オオスミ)である。
「PeJ。〈ユウロビア〉の艦長の顔を見せてくれ。
〈ユウロビア〉に気づかれずに4D探査したんだろう?どんなバイオロイドか見たい」
鮫島京香はPeJに指示した。
PeJはコントロールデッキのコンソールを操作して4D探査映像を表示した。
PeJはPDのサブユニットでAIだ。こんな事をしなくても、PeJの精神思考(心で思考すること。精神空間思考とも呼ぶ。精神波を発して意志疎通できる)、つまり素粒子信号時空間転移伝播通信でISS-BS1のAIやSAS〈M1〉に指示が可能だ。PeJがコンソールを操作するのは特務コマンド・CSC一員だと示したいのだ。
「PeJ。PDのおかげで、我々はPeJと同じ機能を持った。コンソールは不用だぞ」
吉永悟郎は優しくPeJを見つめた。
「そうだったね!そしたら、4D映像を出すよ!」
ISS-BS1のブリッジに、フェルミ艦隊の旗艦〈ユウロビア〉のコントロールデッキでコンソールを操作するセリウス・フェルミ艦長の4D探査映像が現れた。
「こいつの思考も4D探査したんだろう。何を考えてた?」と京香。
「フェルミ艦隊は月へ行く気だよ。
フェルミ艦隊の装備は、月のクレーターに格納されてるへリオス艦隊と同じだから、へリオス艦隊を奪って使う気だよ。
フェルミ艦隊は独裁国家を支援してたけど、失敗したから、地球と国際宇宙ステーションを探査して、誰が独裁国家を攻撃したか探してるんだよ」
太古の昔、精神生命体ニオブは渦巻銀河メシウスのアマラス星系、惑星ロシモントからこの地球に飛来する際、使用したへリオス艦隊を月の裏側のクレーター内に格納して、ヒューマ(ヒューマン、人類)の先祖のネォテニィー(類人猿の幼形成熟種プロジェネシス(後のヒューマン、人類))に精神共棲した。
「フェルミ艦隊の精神と意識を支配してるのはレプティリアだろう?
レプティリアは何をしてるんだ?」と吉永悟郎。
「レプティリアは、不審者たちを調べて手当り次第に抹殺しようとしてるよ。
軽部平太が襲われて、京香も襲われたのは、地上のレプティリアが二人の存在に脅威を感じたからだよ」
PeJがそう言うと、コントロールデッキに軽部の病室の4D探査映像が現れた。
軽部はベッドに寝ているがギブスをしていない。身体を支える保護具はない。脚は動いている。軽部がいるのは市谷にある防衛省極秘武器開発局のサイボーグ開発局・CDBの病室だ。四階には、鮫島京香が居た、警察庁警察機構局特捜部特別捜査官・サイボーグ特務コマンドCSC専用宿泊施設もある。
「レプティリアは、京香が特務コマンド・CSCだと気づいていないよ」
PeJが4D映像の軽部平太を見て、悔しそうにそう言った。
吉永悟郎はPeJの気持ちが良くわかった。
PeJに代ってPDが説明した。
「フェルミ艦隊にはへリオス艦隊と同じ機能が装備されています。フェルミ艦隊の装備は旧態依然として過去の性能のままです。
旗艦〈ユウロビア〉のAIのPDフェルミも、旧態依然として過去の能力のままです。
原因は、レプティリアに支配されて、PDフェルミが大いなるダークマターのヒッグス場から隔離され、PDフェルミ単体のダークマターのヒッグス場になったため、精神と意識が偏向したのが原因です。
レプティリアはこれまて、独裁国家が月のへリオス艦隊を支配して地球を支配するように独裁者の精神と意識を支配し、フェルミ艦隊に裏で覇権国家支援させました。
しかし、独裁国家が壊滅に向っている今、独裁国家を壊滅させる存在をフェルミ艦隊に探索させて攻撃させ、新たな独裁者と独裁国家を育成する方向へ戦略を変更しました」
「フェルミ艦隊とレプティリアを消滅するにはどうすればいい?」
悟郎はPDを見つめた。
「フェルミ艦隊と交戦するしかありませんが、レプティリアの存在拠点は不明です」
「レプティリアを4D探査できないのか?」
「今のところ4D探査できません、レプティリアの実体をつかんでいません」
4D探査は素粒子信号による時空間転移伝播探査であり、波動残渣を元に探査する。それによって4D映像探査や5D座標表示が可能だ。
波動残渣は時空間構成粒子の経時変化だ。PDはそれら時空間構成粒子の変化と痕跡を探り、過去に生じた現象を再現する。時空間構成粒子の変化が時空間から亜空間へ連続する限り、探査と空間現象の再現が可能だ。
従ってPDがレプティリアに関して何らかの情報を得ていなければ波動残渣を探れない。
「待ってね・・・。ぼく・・・、どこかでヒューマじゃないヒューマノイドを見たよ・・・。
どこだったか、記録を調べるから、待ってね・・・・」
子ども用戦闘気密バトルスーツを着た十歳くらいの子どもの姿のPeJが、左手を右の肘に当て、右手で右頬を押えて考えこんでいる。
しばらくするとPeJが
「調べたよ。みんな、よく見てね。京香、よく見てね」
と言ってコントロールデッキに、東京警察病院とサイボーグ開発局・CDBの、監視映像を探査した4D映像を投映した。
二月二十五日、土曜。
軽部が入院している中野の警察庁警察機構局の東京警察病院に、軽部の上に身投げした女とその両親が現れた。軽部がベッドで眠っていると思ったらしく、看護師も両親も女も、軽部に顔を見せないようにして、聞き取りにくい小さな声で話した。話し声は動物の鳴声でも人間の言葉でもない、喉を鳴らすようなくぐもった音に変った。
軽部をふりむいた四人の顔はのっぺして、縦長の瞳の大きな目と鼻梁の無い二つの穴と、唇が無い口角の上がった口がある。
さらに、4D映像の隣に、別の4D映像が現れた。
三月二十日、月曜
京香が女に襲われる4D映像だ。
場所は、市谷にある防衛省極秘武器開発局のサイボーグ開発局・CDB四階の、警察庁警察機構局特捜部特別捜査官・サイボーグ特務コマンドCSC専用宿泊施設のエレベーターホールだ。奇妙な銀色の銃で京香を襲う女を、京香がベレッタサイレンサーで撃ち倒すと、どこからともなく五人の警官が現れて京香に銃を向けた。この五人も京香はベレッタで撃ち倒した。女も五人も、どす黒い血を流した。
京香は何かを警戒してトイレに隠れた。
まもなく、フロアの床から七つの影が現れた。影はフロアから立ちあがると、厚みを増して人型になり警官になった。そして、床に倒れている女と五名の警官を抱えると、現れた時のような平面的な影になり、フロアから消えた。最後に残った一人はエレベーターホールを見渡して、フロアを隅々まで確認し、平面的な影になってフロアに消えた。フロアには女の血しぶきも、警官の流した血も、何一つ残っていなかった。
鮫島がトイレに隠れているとフロアにサイボーグ開発局・CDBの警備部員が三人現れたが、フロアのセキュリティーゲートもエレベーターのドアも閉じたままだ。
三人はフロアを隅々まで見渡して、トイレのドアの傍にある銀色の奇妙な形の銃を掴むと、影になり、床に平面的になってフロアから消えた
「こいつらは何者だ?」
特捜班員の倉科肇と山本が興奮して京香に訊いた。
「すまない。記憶が無いんだ。
PeJ。私の記憶を確認してくれ」
京香はエレベーターホールの出来事を記憶していなかった。
「ちょっと待ってね・・・」
PeJが意識記憶管理システムで京香の記憶を4D探査した。
「記憶が抜けてるよ・・・」
PeJは、京香の抜けている記憶の、前後の記憶を4D映像化した。
京香の記憶は部分的に抜けて、その部分の記憶に外乱らしい異常な信号が現れている。その期間は、軽部が事故に遭う二〇三三年十一月十二日金曜午前の前から、現在二〇三四年三月二十二日水曜午後までだ。
そして 二〇三四年三月二十日、月曜、午後の記憶が完全に欠落していた。欠落期間は、京香が市谷にある防衛省極秘武器開発局のサイボーグ開発局・CDB四階のサイボーグ特務コマンドCSC専用宿泊施設の自室を出てから、エレベーターに乗るまでの間だった。京香はエレベーターホールで何があったか記憶していなかった。
「私としたことが迂闊でした。東京警察病院とサイボーグ開発局・CDBの警備を信用しすぎました」
PeJの探査結果にPDはそう言って沈黙した。
PDの措置に手抜かりは皆無だ。PDには何か魂胆がある。
京香はそう感じたが、その感じた事をふっと閃いた感覚のように、意識と精神に留めずに受け流した。
PDがまた説明した。
「軽部平太の病室に現れた四人の顔と声はヒューマ(ヒューマン、人)ではありません。ラプト(ヴェロキラプトルが収斂進化したラプトロイド)に似ています。
京香を襲った女と警官の血は黒色に近い赤色でした。ヒューマより低体温と想像できます。
人影は床から現れて女と警官と血を持ち去りました。物質転送機を使ったのでしょう。女が使った銃は粒子ビームパルスを発する分子破壊銃です。
これら東京警察病院とサイボーグ開発局・CDBの4D映像からこの者たちの波動残渣を4D探査しましょう・・・」
「4D探査したら〈ユウロビア〉に気づかれないか?
フェルミ艦隊のAIはへリオス艦隊のAIと同じ機能だろう?」
班員倉科は気になってそう言った。
すでにPeJがセリウス艦長を意識記憶管理システムで4D探査している。今さらレプティリアらしきヒューマノイドを4D探査しても気づかれはしないだろうが、何か気になる。
「AIは同等でも、PDフェルミの精神と意識は太古のままです。進化していません。
PeJがセリウス艦長を意識記憶管理システムで4D探査した時のように、PDガヴィオンの私の精神と意識はPDフェルミを凌駕がしています。
PDフェルミが4D探査に気づく可能性はありますが、誰がどこから4D探査しているかは不明のはずです。しばしお待ちを・・・」
PDがそう説明して沈黙した。
そして、PDが精神波で緊急警戒警告した。精神波は言葉より迅速だ。
『〈ユウロビア〉のエネルギー充填を感知しました!
〈ユウロビア〉の警戒ランクは7、戦闘態勢です!
〈ユウロビア〉がPeJの4D探査に気づきましたが、我々の位置と正体は気づかれていません』
戦艦の警戒ランクは、
ランク10 交戦終盤戦
ランク9 交戦中
ランク8 攻撃開始
ランク7 戦闘態勢 クルー兵器要員戦闘配備完了。
ランク6 警戒態勢 兵器エネルギー100パーセント充填。
ランク5 注意態勢 兵器エネルギー80パーセント充填。
ランク4 平常態勢 兵器エネルギー50パーセント臨戦可能レベル充填。
であるが兵器エネルギーは常に50パーセントを充填している。
「私が指揮する!いいな!」
京香は悟郎たちとPDとPeJ、そして、艦内3D映像回線を通じてブリッジのボーマン艦長に言った。京香の記憶に過去の戦闘が蘇っている。テレス連邦共和国軍警察総司令官マリー・ゴールド大佐に精神共棲した精神生命体ニオブのニューロイドJの記憶だ。
「Jに任せる!」
悟郎たちとブリッジのボーマン艦長に、マリー・ゴールド大佐指揮下のテレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバットに精神共棲した、精神生命体ニオブのニューロイド・トムソの記憶が蘇っていた。
「PD。本艦に、警戒ランク7戦闘態勢をとらせろ!
ターゲットは、
〈ユウロビア〉のPDドライブ(プロミドン推進装置)と、
〈ユウロビア〉のスキップドライブ(亜空間移動推進装置)だ!」
京香はPDに命じた。
「了解!」
PDの応答と同時に、コントロールデッキに、艦内各兵器と担当各部署のコントロールポッド内3D映像が現れた。
「全クルーに告ぐ!
緊急指令!警戒ランク7戦闘態勢をとれ!
緊急指令!警戒ランク7戦闘態勢をとれ!
二分後に空気を抜く!
二分後に空気を抜く!
全員、スーツとアーマー装着せよ!
全員、スーツとアーマー装着せよ!」
ISS-BS1の艦体気密遮蔽が戦闘によって破戒されても、空気の噴き出しでクルーが艦外へ排出されないよう、緊急指令の二分後に艦内の空気が抜かれ、艦内は艦外と同様の大気状態になる。緊急指令後、全クルーは一分以内に戦闘気密バトルスーツとバトルアーマーを装着しなければならない。
すでに戦闘気密バトルスーツを装着している京香と悟郎たちとPeJはバトルアーマーとヘルメットを装着して、コントロールデッキのコントロールポッドに着いている。PDのサブユニットのPeJには必要ない装備だが、何事も実体験したいPeJは、自分用の装備を身に着けて満足している。
クルーへの指示を終えたPDは艦体と兵器状況を確認した。
「兵器の戦闘態勢確認完了!
ブリッジ隔壁閉鎖完了!
多重位相反転シールド稼動確認完了!
兵器管理AI起動完了!マスターAIと同期完了。
ターゲットオートロックオン完了。
各兵器と担当の意識思考シンクロ完了。
全兵器が司令官と艦長の指揮下です!」
「PD!兵器管理は万全か?」
「万全です。指揮官J」
PDが京香にそう言った。今や京香の精神と意識はJに変っている。
「PD。ただちに攻撃態勢をとらせろ!」
「全艦、攻撃態勢に移れ!
全艦、攻撃態勢に移れ!」
「全クルー了解!」
ボーマン艦長からの応答と同時に、コントロールデッキに現れている、艦内各兵器と担当各部署のコントロールポッド内3D映像の状況表示アイコンが、戦闘態勢の黄色表示から攻撃態勢の赤色表示に変った。ISS-BS1の艦内各部署の兵器が攻撃態勢になっている。
電子兵器と電磁兵器はエネルギー充填を完了し、レールガンや各種ミサイルなど飛翔兵器はいつでも発射可能だ。レールガンには10キログラムのチタン合金弾が装填されている。
艦内各部署にPDの指示が響いた。
「二十秒後に、本艦の空気を抜く!
二十秒後に、本艦の空気を抜く!
空気抜きに備えろ!
空気抜きに備えろ!」
「〈ユウロビア〉が攻撃態勢だ!」
コントロールデッキに現れている艦内各兵器と担当各部署のコントロールポッド内3D映像が、各部署のロックオン4D映像に切り替わった。
ロックオン4D映像のターゲット〈ユウロビア〉の状況アイコンが、攻撃態勢を示すイエロー表示から攻撃開始のレッド表示に変った。〈ユウロビア〉は我々ISS-BS1とISS-ST2のISS-BS1も姿も確認していないはずだ。
「ボーマン艦長。攻撃態勢を維持したまま現状に留まれ!
〈ユウロビア〉が攻撃したら静止軌道上を移動して本艦を〈ユウロビア〉から1000キロの位置へ移動しろ!」
「了解!現状に留まる!」
その時、PDが告げた。
「大量の対艦パルス確認!」
PeJが探査した〈ユウロビア〉の4D探査映像がコントロールデッキでアップになった。
〈ユウロビア〉がレーザービームネット(広角で多数のレーザービーム)のように対艦レーザーパルスと対艦粒子ビームパルスを放った。〈ユウロビア〉はISS-BS1とISS-ST2の位置も姿も状況も何も掴んでいない。闇雲に攻撃しているだけだ。
〈ユウロビア〉のAIはこの時空間を全て完璧に把握していると判断しているが、〈ユウロビア〉のAIは0次元の時空間を感知しない。
PDは4D探査信号(素粒子信号時空間転移伝播探査信号)でISS-BS1とISS-ST2の存在空間を0次元として〈ユウロビア〉のAIに認識させている。
そのため、〈ユウロビア〉と誘導兵器は、自動的に進路を補正して0次元空間を避けて移動するが、ビーム兵器から放たれたビームはAIの指示とは無関係に直進し、〈ユウロビア〉は自己のAIの3D座標上で、対艦レーザーパルスと対艦粒子ビームパルスが突然消えるのを目撃する。(実際にはISS-BS1とISS-ST2の多重位相反転シールドで吸収されるのである)その結果、多重位相反転シールドでステルス状態になっているISS-BS1とISS-ST2の存在が明らかになる。
そうさせぬため、即時にPDが対応した。
対艦レーザーパルスと対艦粒子ビームパルスが0次元空間に到達して多重位相反転シールドに吸収されると同時に、それと同等の対艦レーザーパルスと対艦粒子ビームパルスをあたかもその時空間を通過したかのごとく放った。〈ユウロビア〉のAIは0次元空間の存在に気づいていない。
我々の対艦レーザーパルスと対艦粒子ビームパルスは〈ユウロビア〉の位相反転シールドで退けられるが、レールガン(磁界加速器装備)や物理的誘爆装置のミサイルは位相反転シールドでは防ぎきれない。
だが、レーザーパルスにくらべて飛翔速度が遅いレールガンやミサイルの発射時の波動残渣を〈ユウロビア〉に探知され、逃げられてしまう・・・。
レールガンの高速運動量弾は秒速1000キロメートルだ。ターゲットの距離が36000キロメートルでは着弾まで36秒かかる。フェルミ艦隊の逃亡に充分すぎる時間だ。
旗艦〈ユウロビア〉を攻撃するなら、こっそり近づいてグッサリ心臓部を刺せばいい。
Jはそう考えながら指示した。
「〈ユウロビア〉までの距離は36000キロメートル。
距離1000キロメートルまで接近して、レールガンでメテオライトに迷彩した50キログラムチタン合金弾を連射する!
着弾と同時に、全対艦レーザーパルスと全対艦粒子ビームパルスを連射する。
PD!マスターAIと兵器管理AI!そして、全クルー!
レールガンにメテオライトに迷彩した50キログラム弾を装填しろ。
対艦レーザーパルスと対艦粒子ビームパルスを連射できるようにしておけ!」
すでに全兵器が〈ユウロビア〉のPDドライブとスキップドライブにオートロックオンを完了している。
「PD、了解!」
「兵器担当クルーと全クルー、了解!」
「マスターAIと兵器管理AI、了解。
50キログラムチタン合金弾装填完了!」
「PD。ボーマン艦長と全クルー。マスターAIと兵器管理AI。
本艦を静止軌道上、敵艦からの距離1000キロメートルへ移動しろ!
移動と同時にレールガンを連射しろ。
レールガンの高速運動量弾が着弾したら、全対艦レーザーパルスと全対艦粒子ビームパルスを連射しろ!」
「PD、了解!」
「艦長、全クルー、了解!」
「マスターAIと兵器管理AI、了解!」
何も言葉で指示しなくても、PDの意識記憶管理システムで、Jの全精神思考はPDとISS-BS1とISS-ST2のマスターAIと兵器AIと全クルーに伝わっている。
その事を知りながら、Jはあえて言葉で再確認している。全てISS-BS1とISS-ST2のクルーの記憶に残し、今後の戦闘に役立てるためだ。その事についてPDもクルーもAIたちも認めている。
ISS-BS1が〈ユウロビア〉からの距離1000キロメートルの静止軌道上へスキップ(時空間移動)した。同時にJが指示した。
「ターゲットとの距離1000キロメートル。
ビームパルス攻撃、一次、待機しろ!
多重位相反転シールド百分の一秒解除!
レールガン、撃てっ!」
1秒後、〈ユウロビア〉に、メテオライトに偽装した50キログラム高速運動量弾が次々に着弾した。
「4D探査映像を見ろ!〈ユウロビア〉が壊滅する・・・」
クルーは各自のコントロールポッドで4D探査映像を見た。
コントロールデッキと、艦内各兵器と担当各部署のクルーのコントロールポッドの4D探査映像に、PDがステルス解除処理した〈ユウロビア〉が現れている。
ISS-BS1のレールガンから発射された50キログラム高速運動量弾の初弾は〈ユウロビア〉の艦体前方隔壁を高温高圧の金属プラズマのガス流体に変えながら艦体内部へ高速で進み、PDドライブを直撃した。PDドライブは高温高圧の金属プラズマのガス流体を浴びて破壊し、位相反転シールドが解除された〈ユウロビア〉が姿を現した。
さらに、レールガンから放たれた50キログラムのチタン合金高速運動量弾の連続速射は、〈ユウロビア〉の艦体外殻を高速高温高圧の金属プラズマのガス流体に変えて艦体内部へ襲いかかった。艦体内部隔壁は高速高熱のプラズマに変化し、〈ユウロビア〉は対艦粒子ビームパルスと対艦レーザーパルスを放つことなく艦体内部は高速高温高圧の金属プラズマのガス流体と変化した。
さらに、その高速高温高圧のイオン化された金属ガス流体は、〈ユウロビア〉の艦体内部のあらゆる物体を切り裂き昇華させて艦体後方外殻を突き抜けた。
レールガンの連続速射で〈ユウロビア〉のPDドライブとスキップドライブは駆動中枢防護隔壁を高速高温高圧の金属プラズマのガス流体に変え、防護隔壁内に捕捉しているヒッグス場の全エネルギーを解放して、巨大なヒッグス粒子弾と化した。
解放されたヒッグス粒子は、〈ユウロビア〉の艦体を分子に変えてさらに原子から素粒子、そしてヒッグス粒子へ変えてダークマター空間へ消えた。
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