色のない足音

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色のない足音


 いつからか、人がとつぜん消えてしまうようになった。それはわたしが生まれる少し前に始まったらしい。外にいる時でも家にいる時でも、学校にいる時でも働いている時でも、列車に乗っている時でも散歩をしている時でも。若い人も老いた人も、男でも女でも、幸せな人でも不幸な人でも。世界中のあらゆるところで、何の前触れもなく、何の法則もなく人が消えるようになった。それでもみんな生活を変えないようにしている。どこにいても、何をしていても、誰の身にも振りかかる可能性があるから。その現象が起き始めたころ人々はパニックになったらしいけれど、今ではみんな諦めている。

 ああ、そういう世界になったんだ、それだけ。

 それが起きた時に近くにいた人はみんな音を聴いていた。わたしも聴いたことがある。でも本当に音がするわけじゃなかった。 それは“舌のディー・グロッケない・オーネ・クレッペル”たいていは省略して“ディー・グロッケ(die Glocke)”と呼ばれていて、誰かが消えると「あの人エアは鳴って・ハット・しまったゲグロックト(Er hat geglockt)」という言い方をする。

 わたしは“ディー・のないファルプローゼ・足音シュリッテン”と呼んでいる。きっとあれは誰かが立ち去る音なんだとわたしは思っている。




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