SCP-020-B ②
「ん~…」
忘れ物にあったブラシを消毒して、解いてた髪の毛を結ぶ。
2日目にもなると、普段入らない場所へも普通に入るようになった。校長室は意外と普通だし、トロフィーも意外と軽かった。
職員室の裏の方にはなぜかキッチンみたいなとこがあったし、教員一人一人の机も場所や学科ごとに個性があって面白かった。
普段はいけないやねの部分も、一目がないから気にせず行くことができた。高くていつも教室から見てた鳥の巣も、近くで見て卵がある事がわかった。
(楽しい…)
そう思えたのは数日だけで、それを過ぎれば何の感情もわかなくなっていった。
校内をただ幽霊のようにふらふらと徘徊し、眠くなったら寝る。気が狂わなかったのは、この空間が快適で記憶がなかったからだろう。
次第に元からこの空間で徘徊してるだけの存在のように感じていき、やがて他の生物の存在すら忘れかけた頃だった。
「…?」
紙の匂いがする図書館は好ましい場所の1つで、ふと手に取った本は内容も全て見知ったものだった。
(あれ、これ…)
―――なんで知ってるんだろう?
(あ…)
そう思った瞬間、ざわざわと騒がしかった教室や、呼んでる最中に話しかけてきた友達、あの感情を鮮明に思い出すことができた。
「…(…そうだ、私…友達に会いたい)」
殆どの記憶を思い出していないが、それでも教室でこの本を読んでいた時の様子を朧気に思い出したため、彼女…ユウは、ひとまず自身の教室へ向かった。
「…」
誰もいない教室。閉まっていた鍵を開けるために一度職員室へ戻ったが、鍵を開けると中ではまだ活気があるように感じた。
机にはそれぞれ名前が書いてあり、友人の名前や自身のロッカーを見て、様々な記憶が思い浮かんだ。
「…(た、楽しい…!!)」
自身の空白だったピースが当てはまっていくような感覚が、なぜかとても楽しく感じた。何の感情もわかなかった通路が、友達と一緒だった時を思い出せば自然と口角が上がったし、わくわくとして楽しくなった。
次第にピースをあてはめるだけでは足りず、どうして自分がここにいるのか?という疑問の解消の為に、色々な行動をし始めた。
それも全く怖くなくて、まるで物語の裏側の設定を呼んでるような感覚だった。例えその先に何もなかったとしても、全ての疑問を解消して残った手段がきっと正解だと思ってる。
(まぁ最終手段は夢オチ想定で自殺してみるかなあ)
なんて考えるが、生憎自殺する勇気はないのでできれば別の選択が残ってほしいなあと考えながら歩いて行った。
まずは校門に向かったが、やっぱり外には出れる気配もなかった。
(う~ん…外に出れないということは、別の脱出方法があるのかな?
でも…どうやってこの…場所?に来たのか、全く覚えてないんだよな…)
最初の記憶が進路室で目を覚ました事。だから進路室で寝れば、と思ったが、特に変化はなかった。
「あ…あー…」
そして、同時に声を出す練習も始めた。話し相手がおらずずっと声を出さなかった生活のため[考えていることを言葉にする]ただそれだけのことが難しく、図書館でセリフの部分を読んだり、歩きながら考えたことを口に出すようにした。
「…」
そこで、ふと気になって蛇口を回した。この世界は常に時間が止まっているような感じで、時計も動いてない。だけど、物を落とせば重力に従うし、と思っていれば、予想通り水が出た。
「お~(いいね。水でできる事は沢山あるし…)」
それから、水を使って実験をした。ホースを体育館にある掃除用具入れから持ってきて何とか繋げてやってみたが、やっぱり私以外のものも無理なようだった。
「うわっ!」
上の方に水をかけると、跳ねた水がかかって驚く。どうやらドーム状になっているらしく、制服がびしょ濡れになってしまった。
(まぁ、これも進展…か?)
と思いつつ、水を止めてホースを放り投げ日光に当たる。
「っは~~疲れたぁ…?」
手を洗った後ハンカチが無くてスカートで拭こうとしたとき、スカートのポケットに何か入ってるのに気が付いた。
スマホは電源がまずつかないから諦めて職員室に置いているが、まだ入ってたとは…と思ってみれば、飴玉が入っていた。
(いちごみるく…あ)
―――――――――――――――――
「―――――今日の午後にはつくけど、午後までいる?」
「それ居るしかないでしょ。全然進んでないし」
「そっかw。じゃあ頑張ってるから、これね」
「わー、あざっす」
―――――――――――――――――
「…あ~…。…あー!! そうじゃん!!」
その時、やっと私がどうして進路室で寝てここに来たのかがわかった。
(変な煙みたいなののせいかな? でも、空調設備関係ってどこにあるかわかんないな…ま、ここまで来たら何日かかっても一緒か)
なんて思い起き上がるが、とりあえず服乾かしてからだな、と椅子に座り、そのまま寝てしまった。
「…ん…ふぁ…」
(今日は…えーとなんだっけ。アレ探すのか)
とりあえず空調設備関係のものがありそうな場所を中心に探していき、職員室に操作パネルを見つけた。
(とりあえず…これつけて元の場所で眠ってみるか。できるだけ再現して…)
オンにして稼働音を聴きながら逃げるように進路室へ行くと、丁度煙のような冷房が出始めた…が、温度に違いを感じない。元々外に比べてクーラーが効いてる感じの温度だったから、とりあえずそのまま座ってスマホやファイルの配置を再現する。
「こんな感じかな…ん…」
正直わくわくとしていたが、次第に眠くなってきて机に突っ伏した。
(戻れるといいなぁ)
もうどれぐらいの月日が経ってしまったかも、昼夜の感覚も全部忘れてわからなくなってしまったけど、まぁそんなのすぐ直るだろう。
そんな楽観的な思考で、次に目が覚めるのを楽しみにしながら眠りについた。
―――――――――――――――――――――
「―――…こえます―? 聞こえますか?」
「んっ…? …ぇ、と…」
目が覚めると、目の前には進路室の先生でも学校の人でもなく、見知らぬ顔だった。そして、場所が進路室ではなく保健室…いや、病院に似た場所だった。
「?」 「意識ははっきりしていますか?」
「ぁ…はい、あの…ここは…?」
それから色々な話を聞いた。
ここはとある財団の医務室で、その財団はあの空調みたいに変な事が起こるものを壊したり囲って一般人が混乱や滅亡しないようにしてるらしい。
それで、私はあそこからの初の生還者らしく、色々な事を聞かれた。人と話すのが久しぶりだったから少しぎこちなくて話しにくかったけど、こっちも色んな事を聞いて、あれから数年経ってる事やもう死亡届が出されてる事も分かった。
同じ巻き込まれた人に友達はいなくて、少し安心した。
記憶を消して死亡届はミスにして一般人として生きるか、ほぼ二度と家族や友人とは会えないが連絡はできてこの異常なものを収容する仕事を手伝うか。
その二択を迫られて、私は…_______を選んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます