その4 教室の怪異

「4年4組。僕の隣の隣のクラスだよ」

 がらがらと扉を開けるのを、教室の怪異はほくそ笑みながら待っていた。

『ふっ……来たな。私の怪異は七不思議の中で最もきょうあ』

「えっとね、ここの前から4番目、扉から4番目の席で校歌の4番を歌うと死ぬんだ」

 良寛がホワイトボードの上にある校歌の歌詞が書かれた額縁を指差す。

「ふーん。私メロディーとか知らないけど」

「適当でいいよ、適当で。えーと」

 少し音程の外れた良寛の歌に、もごもごと薫子が合わせる。

 あっという間に終わって、教室には元の静寂が戻った。

「……死なないけど」

「……死なないね」

 辺りを見回す二人の真ん前で、教室の怪異は膝をついていた。

『お、おいどうした、教室の怪異!』

『だめだ……私にはできない』

 涙を流しながら仲間達を見上げる。

『そもそも私の怪異は、子どもの魂をひとり占めするものなんだ。この状況で……皆が飢え死にしそうなこの状況で、そんな残酷なこと、私には……できないっ……!!』

『教室の怪異……!!』

 抱きしめ合いながら友情に浸る怪異を知りもせず蹴り上げて、良寛は言う。

「まあ、人間誰しもいつかはひとり孤独に死ぬものさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る