彼女はなぜ

樟那

第1話 巡り逢い

小鳥の囀りが響く朝。

暑い日差しが今日も街を包み込む。

6年前のあの日と同じように________


「...以上でホームルームを終わりにする。

1限目遅刻すんなよーお前ら。」

高校3年の7月。部活も早々に引退し、学校に通う意味がわからなくなった俺は、それまで1度もサボった事がなかった授業を、今日はなんとなくサボりたくなった。


「1限目、松本の授業だぜ?くそだりぃ。」

「俺パス。」

「サボってどこいくんだよ」

「んー、いい所。お前には教えねーよ。」

そう友達に言い放って、屋上へ向かった。


うちの学校の屋上は誰も寄り付かない。

霊に憑依されるとかそんな噂が流れているけど、

きっとどれもこれもガセネタだろう。

まぁたとえ本当だったとしても、昼寝さえ出来れば俺には一切関係ない。

そんなことを思いながら、屋上の扉を開け、いつもの定位置に横になり目を閉じた。


昼のチャイムで目が覚め、教室に戻ろうとした時、

女の子が屋上のフェンスを跨ごうとしているのが目に入った。


「君、何してんの。」


驚いた表情で振り返った彼女の頬には、

涙が伝っていた。体が勝手に動き、次の瞬間には彼女の手を掴みフェンスから降ろしていた。

近くで彼女を見ると、透き通るほど淡い瞳に心を奪われた。生まれて初めての一目惚れだった。

それと同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、彼女は屋上から走って消えていった。

その晩、俺は、

彼女の名前を聞き忘れた事を、酷く後悔した。



いつもと変わらない朝がやってきて、今日も俺は、

重たい足を引き摺りながら学校へ行く。

帰りたいなと思いながら出席した朝のホームルームで、俺の心臓は昨日と同じように飛び跳ねた。運命だとさえ思った。

なぜなら、名前を知りたかったあの子が、

俺の隣に座っているからだ。


彼女の名前は、

久我山 紫夕 (くがやま しゅう)。

東京からこの街に引っ越してきたそうだ。


「昨日は大丈夫だった?」

「…」

「俺、安藤 霄。」(あんどう しょう)

「…」

「いやまじで昨日助けられてよかったよ。

これからよろしくな!」

「別に助けてくれだなんて頼んでない。

あと少しで…あと少しで…ッッ!!」

そう言うと、彼女は教室から出ていってしまった。














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