7話 田中波留は【1000円ガチャ】を引く

 やっぱりレギーナは頭がおかしいと思う。

 何でそういうことを平気で言うかな。


 それにしても異世界の人はなかなかに凄いことしてるね。自分の指を刃物で傷つけるとか、よくやるよ。指先とか特に痛いじゃん。


 そうそう、これは少し違うけど世の中には自傷行為をする人は少なからずいる。

 そのことについて一言だけ言いたいんだけどさ、やめた方がいいよ。


 昔さ、自分の手首をカッターで傷つけてた女の子とSNSで繋がっていたことがあって、どうして自傷行為をするのかをDMで聞いたことがあった。


 彼女は特に拒否することなく普通に答えてくれて、『自分を傷つけて痛みを感じることで、生きていることを実感できる』と言ってて、俺には意味がわからなかった。


 別にその人のことを非難するわけじゃないし、「やめなよ」と強くは言えないけど、そんなことしなくても生きてるってわかる。


 それにさ、その人。手首に残ってしまった傷、就活のときどうしようって困ってた。

 やっぱり不利になるんだよね。自分を傷つける行為というのは。


 俺は別に気にしたりはしないけど、会社に雇い入れるってなると話は別だろうからな。


 ……話が脱線してしまったな。

 

 とりあえず、異世界の人はみんなクレイジー。とてもじゃないけど、理解できないよ。


 でもこれで準備は整ったというわけだ。

 いよいよ俺の魔法適性がわかるな。

 ……女神であるクレーネさんはないと断言していたけど。


 まあこういうのは雰囲気だけでもワクワクするし、もしかしたら……の可能性もある。

 と言っても、こういう魔法が使いたいというのはあまりない。どうせなら強くて派手なのがいいけど。


 例えば全てを燃やし尽くす火の魔法とか!


「どしたの、急に。頭おかしくなっちゃったの?」


 ……おっと。楽しみすぎて、表情が顔に出ていたらしい。……というか失礼だろ。

 人のことを頭がおかしいとか言ったら。


 だけど今は気にしない。


「それより早く俺の魔法適性調べてくれよ! ワクワクしすぎて待ちきれねぇ!」


 俺はいつにも増して興奮してるらしい。

 そんな俺を見てレギーナは「ふふっ」と微笑むのだった。


 どうせ子どもっぽいとでも思ってるに違いない。が、今回に限ってはそれでいい。

 あながち間違ってはいないからな。


「それじゃあ、少し待っててね」


 そう言って、レギーナは部屋から出て行った。

 

「…………」

「…………」


 ああ、そうだった。忘れてたよ。

 サラは自分から話さないんだった。

 それは俺も例外に漏れず。


 多分、自分からは話さないのは、彼女なりに思うことがあってのことだろう。

 今まで、意図せず手にしてしまった体質のせいで、ロクに友達も作れなかったはずだからな。


 ……守りたい相手を傷つけてしまう体質。いや、ここまでくると呪いか。


 厄介なもんだと思う。こんなの気味が悪がられるに決まってる。俺だって嫌だ。

 だから友達になってくれたレギーナに嫌われないように……傷つけないように、自分からは喋ろうとしないんだろう。


 でも俺には普通に話しかけてくれても構わないんだけどな。こうやって無言のまま、気まずい雰囲気が漂い始めるぐらいなら、話してもらった方が気が楽だ。


 それに日常会話ぐらいなら影響ないと思うし。と言っても、サラからしてみれば、それだけでも怖いのかもな。

 

 そう思ったら俺から話しかけるのも気が引けてきた。

 もしかしたらサラは極力話したくないのかもしれない。


 ならここは、レギーナが戻ってくるまで大人しくしていようかな。

 そう思い、俺は部屋の中をキョロキョロと見回した。


 といっても目立つ物は特に何もない。

 それなりに広い空間なのに、テーブルと椅子ぐらいしか置かれてない。


 普段、ここは使われていないみたいだな。


 ……そういえば、ここに来たときから思ったけど、孤児院なのに子ども一人見なかった。

 レギーナは孤児院で働いてると言っていたけど、どういうことなんだろう?


 外観は普通に綺麗で、見た目は老人ホームに近いかな。なおかつ、孤児院の中も掃除が行き届いていて、誰も住んでないというわけではないはずだし……。


 ……まあ、どうでもいいや。俺に関係があるわけではないし、大人しくレギーナが帰ってくるまで待ってるとしよう。




 ……かれこれ一時間近く経過しただろうか。


 ようやくレギーナが戻ってきた。


 のだが……。


「…………」


 空気がなぜか重い。


 レギーナは一切口を開こうともしないし、表情もどこか釈然としない。

 一体、どうしたんだろう。……と言うまでもなく、何となく俺は察した。


 この、レギーナがチラチラと伺ってくる感じ……。


 結果があまりよろしくなかったんだろう。

 まあ、これは想定していたことだ。

 今さら落ち込むこともない。


 だから、


「それで、結果は? どうだった?」


 俺から切り出すことにした。


 本当のところを言うと、やっぱり魔法が使えないのは残念だ。

 だけど、そこにレギーナは全く関係ない。

 普段通りに接してあげるのが優しさというものだ。

 

 すると、レギーナは恐るおそるといった感じで、小汚く見える紙を渡してきた。

 どうやらこれに結果が書いてるらしい。

 まあ、俺に文字なんか読めるわけないけどな。

 

 そう思いながら、紙に目をやったのだが。


 ……カタカナ?


 これ、どこからどう見てもカタカナだよな? それに意味だって理解できる。

 だけど別におかしいことはない。レギーナもサラも日本語を喋っていたわけだし。


 だから、使われてる文字がカタカナだとしてもおかしくはない。

 おかしくはないけど……おかしいな。

 何で異世界で日本語と日本の文字が使われてるんだろう。


 ……考えても答えは出なさそうだな。


 まあ何であれ、文字が読めるのだ。

 何て書いてあるのか読もうじゃないか。


 俺は上から下まで、文字をなぞるように読んだ。


 ……結果はこうだった。


====================


 名前:田中波留 性別:男 年齢:15歳

 魔力値:3

 

《魔法適性》


 火:測定不能

 水:測定不能

 風:測定不能

 土:測定不能

 雷:測定不能

 光:測定不能

 闇:測定不能


《スキル》


 1000円ガチャ:レベル1


====================


 ……うわぁ。酷い結果だぁ。


 比較対象がないから断言はできないけど、絶対にそうに違いない。


 でも、よかった……。魔力があるだけで。

 もし魔力すらなかったら、正直萎えてた。


 ありがとう、クレーネさん。


 それにしても七つ魔法の適性があって、一つもないのはいっそ清々しいな。


 そんな俺が唯一持ってるスキルってのが、【1000円ガチャ】みたいだ。

 

 ……何でこんなスキルをクレーネさんは覚えさせたんだろうか……。

 本当に役立つかどうかわからないスキルだし、名前からしてコストがかかりそうだ。


 というか、千円ってなんだよ。この世界でのお金の単位、円なのか?


 ……ありえるな。もう疑問に思うことすらバカバカしいように思う。


 ……一回、スキル使ってみたいな。

 またサラからお金を徴収しようか。

 一度チャラにはしたけど、俺を魔法で拘束しやがったからな。

 

「よし、じゃあサラ。金くれ。千円でいいから」

「…………」

「おい、レギーナの方を向くな。千円でいいんだぞ? 千円で」


 そう言いながら、サラに詰め寄った。

 しかしレギーナの後ろに隠れてしまう。


 ……これは重症だな。コミュ症にもほどがある。

 

 仕方がない。ここはレギーナに貰うか。

 俺はレギーナの方に視線を向けた。


 すると、


「……てっきり落ち込むかと思ってたけど、そこまで気にしてないみたいだね。……残念」


 とんでもないことを言ってきた。

 こっちはレギーナが気にしないように普段通りに接してあげているというのに……!


 ああ傷ついた。ああ、傷ついたな!


「そう思うなら、金をくれ!」

「……意味がわからないけど、いいよ。あまり余裕がないから1000エンだけだよ?」


 仕方ないな、とでも言いたげな表情をしてレギーナは、金貨一枚を渡してきた。

 どうやら金貨一枚がこの世界では、千円の価値があるみたいだな。

 

 さて、【1000円ガチャ】のお手並み拝見といこうか……!


 俺は少し、いやかなりワクワクしながら【1000円ガチャ】を使用した。

 すると目の前に見慣れた自動販売機が出てきて、投入口にお金を入れる。


「ポチッとな」


 ボタンは十二個あって、縦が三列。横には四列という具合に並んでいた。

 俺は縦二列目の左から三番目のボタンを押してみた。


 すると、カタンッという軽い音がして、その時点でハズレだなと察する。


 が、ハズレはハズレでも、使い道があるかもしれないという期待を抱き、下にある取り出し口から動画サイトでは見慣れた白い箱を取り出す。


 ……うん、やっぱりハズレだな。


 そう思いながら中身を取り出した。


「……鼻毛、カッター」


 俺の口からはこれ以上の言葉は出てこなかった……。



 




 


 

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