第26話 特産品を試作しよう

 勉強のノルマを終了後、最近は移住予定地であるヒラリアの知識を読みあさっている。

 何せ今後の生活を送る場所なのだ。

 生活設計を立てるためにもよく知っておいた方がいい。


 私の生活設計の基本は一人漁業だ。

 漁業で得た魚や魚加工品を換金商品とする事が出来るか。

 商品はどのような加工をするべきか。

 その辺についてを中心に調べている。


 前提としてオースにはアイテムボックス魔法がある。

 物を大量に新鮮なまま保存可能だ。

 そのせいか保存食というものは発達していない。


 移住モデルケースにあったハンス・フォン・ペトケさんはそんな状況に燻製と塩漬けを持ち込んだ。

 結果それらは有用な換金商品となった。


 ヒラリアでは魚介類より肉の方が一般的。

 しかし魚を食べない訳ではない。

 主な食べ方は焼くかフライ。

 あまり凝った料理にはしない模様だ。


 ハンスさんと同じ事を魚の加工品で出来るだろうか。

 別にそこまで成功はしなくていい。

 ただ日用品を購入する分+老後の蓄えを貯金できればいいのだ。


 生よりは加工して付加価値をつけた方がいい収入になるだろう。

 さつま揚げとか蒲鉾なんてものの需要はあるだろうか。

 それとも干物の方がいいだろうか。

 塩漬けの方がいいだろうか。


 その為にもある程度の加工品製造方法を収集しておこう。

 ついでに製造に必要な道具類も通販で購入と。

 すり鉢とすりこぎ以外は今まである物で流用できるけれど。


 調べ考えていくうちにふと思う。

 そうだ、試しに作ってみようと。

 やはりこちらでもある程度実践してみた方がいいだろう。


 すりこぎがないのでミンチ加工の必要があるものは出来ない。

 出来るのは干物系統だ。

 しかもこの家の中でならある程度魔法を使える。

 干物も魔法を使えばかなり時短して作れる筈。


 よし、それなら新鮮な魚を買って挑戦するか。

 本当は異世界の魚で試作するべきだろうけれど、日本にそんな魚の流通は無い。

 だからとりあえず売っている中で新鮮なもので。


 ただ私の家の近くには手ごろなスーパーは無い。

 何処も1km以上離れている。

 早朝行くスーパーはその時間帯、鮮魚は欠品している。

 雨の中散歩しても魚は買えない。


 諦めるか。

 しかし移住する前にある程度やり方をおぼえておく方がいいと思うのだ。

 練習そのものは向こうでも出来る。

 しかし作ってみて何か道具が必要だったとか、これがあると便利だといった事には対応できない。


 やはり買いに行って挑戦するべきだろう。

 画面右下の表示を見る。

 午前10時05分。

 今朝も雨で早朝散歩はサボった。

 だからまだ時間は早い。

 

 前回のホームセンター行きで自信はついた。

『薬さえキメればある程度の長距離外出も可能だ』という実績に基づく自信だ。


 勿論この場合の薬とは危ない薬ではない。

 医者の処方で薬局で出した頓服だ。

 もっともこの頓服もヤバい薬と言えない事も無い。

 麻薬及び向精神薬取締法で第三種向精神薬として指定されている。


 よし、今朝行かなかった運動も兼ねて行くとしよう。

 そしてどうせなら魚の入手にも最善を尽くそう。

 もちろん漁港まで行くつもりはない。

 朝市だ。


 朝市と言っても本当に朝から市場をやっている訳では無い。

 そういう名前の商店街だ。


 場所が拠点駅の近くで半ば観光客相手。

 だから残念ながら凄く安い訳では無い。

 しかしそれなりに新鮮な魚が各種揃っている。

 それに駅から近いし、中央の通り以外は屋根付き。

 雨の日に行くにはちょうどいい。


 よし、それでは準備にとりかかろう。

 重い荷物を持てるよう、エコバックだけではなくディパックも準備して。

 そのディパックも安物ではなく35リットル入るそれなりのもので。


 およそ30分で何とか支度を整え、家を出る。


 ◇◇◇ 

  

 今は反省している。

 何を反省しているかと言うと、つい買いすぎてしまった事についてだ。


 本来は干物の試作の予定だった。

 だから手ごろな大きさの魚を数匹買って来るのが正解。

 しかし実際には必要以上に大人買いしてきてしまった。

 私独りで食べるには多すぎる位に。


 買ってきたのは、

 〇 カツオ やや小ぶりのもの2匹

 〇 シイラ カツオと同じくらいのもの1匹

 〇 イワシ マイワシ6匹

 〇 サバ  丸々したの5匹 


 シイラは何となく恐竜が現役の異世界にいそうな見た目だったから。

 カツオは1匹800円とそこそこ安かったから。

 大きい魚をさばくのが久しぶりだから練習用にというのもあって。


 ディパックに氷と魚を一緒に詰めたビニル袋を入れて帰って来た。

 キッチンで出してびっくりこんなに大きかったっけ、こんなに多かったっけという訳だ。


 多すぎるので取り敢えず最初は小物から。

 なお現在調理しない魚も今と同じ鮮度を維持する方法はある。

 冷蔵庫より優秀なアイテムボックス魔法だ。


 私は既に魔法を使える。

 この部屋に居る限りだけれども。

 惑星オースよりは微弱だが100kg程度なら収納可能。


 そんな訳で魚はまずアイテムボックスに収納。

 この方が冷蔵庫よりいたまないだろうから。


 さて、まず調理するのはイワシ4匹サバ2匹。

 この程度の魚ならさばける自信はある。

 でもさばく前につけ汁を作ろう。


 漬け汁は2種類。

 〇 水1ℓ、食塩80g、みりんちょっと、味の素1振り入れた定番塩味バージョン

 〇 醤油300ml、砂糖420g、みりん大さじ2の砂糖醤油バージョン


 これはWebページで見た干物の作り方を少しだけ家にある調味料にあわせたものだ。

 なお現地でも砂糖は手に入るが醤油は不明。

 もう少し探してみて、無ければ醤油の代用品を探すことにしよう。


 漬け時間は実験のつもりでしっかり計測しよう。

 そう思って、ついでに現地で電池を使わない時計が必要だという事に気づく。

 機械式時計とソーラー時計どっちがいいだろうか。

 後で考えよう。


 予定では塩水の方がイワシは30分、サバは1時間半。

 砂糖醤油の方がイワシは1時間半、サバは2時間。

 これはネットを巡回して私が考えた『このくらいがいいだろう』という時間だ。


 つけ汁が出来たら魔法で冷ます。

 そうしたら魚をさばく番だ。

 今回は腹開きで背中をつなげた状態で。

 干物の定番の形だ。


 イワシなんてのはその気になれば手でもさばける。

 今回はきれいに開きにしたいから包丁を使ったけれど。

 サバは丸々と大きめなので少しばかり丁寧に。


 久しぶりにやったにしては上出来だ。

 塩水につけて血を流し出して、その間に包丁とまな板を洗ってと。

 血が抜けたらつけ汁へイン。


 ここまでやって少し疲れを感じた。

 無理はしないでおこう。

 何せ少し前までは1日1ターン制。

 風呂に入るのですら1ターンで、それすら出来ない事もあったのだ。

 無理はすまい。


 漬け時間の進行を止めるのは簡単だ。

 全部アイテムボックス魔法でしまい込めばいい。


『漬けはじめた。塩水はイワシ30分、サバ1時間半。砂糖醤油イワシ1時間半、サバ2時間』

 こう書いたメモも一緒に収納する。


 それでは気分が悪くなる前に休憩タイム。

 薬を飲んでおやすみなさい……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る