第3話 よろしいならば登録だ
他に怪しいところはないだろうか。
やばそうな約款とか契約事項とか。
ついついWebページを隅々まで見てしまう。
だがやばそうな文言は発見出来ない。
おかしい、何処かにありそうなのに。
念のため画面を反転させたりTABキー移動して極小の隠し文字が無いかなんてのも確認してみる。
更には危険そうなスクリプトの確認も。
証拠保全の為約款ページの魚拓をとったりもしてみる。
いざという時の為に証拠として。
そんな事態を想像したくはないけれど念の為。
備えは無いよりあった方がいい。
そんな事をしている途中でふと気づいた。
私、近頃に無いくらいのテンションだなって。
そう、間違いなく今の私、ここ数ヶ月で一番テンションが高い。
最近は鬱で何か少しでも考えるのも面倒だったのに。
何せ数日前まではネットすら見ることが出来なかった。
思考することすら面倒だった。
一日24時間、基本的にベッドで寝たまま。
危険を感じたら仕方なく最小限のアクションを起こす。
ちなみにこの危険とは主にトイレ。
行くのはとてつもなく面倒だが漏らすともっと面倒。
だから仕方なくずるずると行く訳だ。
他のアクションは生命維持くらい。
死なないように決めた時間には機械的に食事して飲み物も飲む。
食べるのは動けなくなる直前に受け取った通販購入の固形完全栄養食やペットボトル飲料。
ベッドの横に箱ごとおいてあるので手を伸ばしてとって口に運ぶ。
なお箱とかを捨てられないから現在汚部屋状態。
乾いた箱と空のペットボトルだけだから腐敗はしないけれど。
服すら着替えるのが面倒だし締め付けが気持ち悪い。
だからエアコン常時稼働で全裸に肌掛け布団スタイル。
シャネルの5番すら着ていない。
残念ながらセクシーでも魅力的でもないだろうけれど。
化粧はおろかスキンケアもしていないし髪も最近ほとんど整えていないし。
今も鬱状態なのは勿論変わりない。
動かすのは思考と目と手先だけ。
身体のほとんどは動かせない、動かしたくないままだ。
それでもここまで能動的に何かを調べたり読んだりするのは久しぶり。
これもこの怪しげなWebサイトと、此処へ私を導いた怪しいメールのおかげだろうか。
そう思ったらこの怪しい移住事務局とやらにも少しならつきあってやってもいい気がした。
ここまで私を動かした事に対するご褒美としてだ。
小学校低学年で先生が使う『よく出来ました』ハンコを押してあげたいくらいの気持ちにはなっている。
そんなハンコ持っていないけれど。
さて、結論を出そう。
この異世界移住の話、どう考えても現実離れしている。
詐欺としても正気とは思えない。
異世界詐欺なんて初耳だ。
しかし現在のところ詐欺らしい情報は一切発見出来ない。
また個人を特定出来るような情報も今のところ入力させていない。
危険な契約事項も約款も発見出来なかった。
組織の実在性も確認できた。
なら少しだけなら付き合ってやってもいいだろう。
勿論個人特定情報が漏れないように気をつける。
メールはセーフモードでWeb閲覧はプライベートモードで。
入金だの契約だのといった文言が出たらすぐ逃げる。
でもその辺さえ注意すれば暇つぶしには悪くなさそう。
寝たままでも出来るし。
鬱からのリハビリにはもちょうど良い感じだ。
何故かこの関係には私でも興味を持てるようだし。
ほかの事は鬱で何も出来ないしやりたくない状態の私が。
よろしい、ならば登録だ。
悪魔に魂を売るような感じで私はそう決断する。
とは言っても大切な個人情報は渡さない。
間違ってもクレジットカード番号なんて教えない、絶対。
勿論登録するのはメインで使っているメールアドレスでは無い。
今使っているメインのメールアドレスは2つ、職場用と友人そのほかプライベート用。
この2つは汚染されると面倒だ。
でもこういう時の為、私はフリーでとれるメールアドレスを幾つか用意している。
取得の際に偽名と偽住所で登録した、私に紐付けするのが不可能なメールアドレスを。
このメールアドレスならいざとなったら捨てても問題ない。
これだけの情報で私という個人を特定することは不可能な筈だ。
それこそプロバイダの通信記録とかを紐解かない限り。
そしてそれはメールでなくWeb閲覧でも同じ事。
仕事場でWeb詐欺関連の相談からアドミニの真似事業務までさせられているのでその辺の事はだいたいわかる。
そんな訳で私はメールアドレスを入力する。
間違い防止の為2箇所同じメールアドレスを入力するのはお約束通り。
さて、これで本当に魔法や異世界言語を教えてくれるのか。
特典の物品100万円分サービスとはどんなものなのか。
さあ送信だ。
『御登録ありがとうございました。入力いただきましたメールアドレスにアクセス用のアドレスを記載してあります。お手数ですがメールをご確認の上、記載されたアドレスへアクセス頂きますようお願いいたします』
どうやらメールを確認しなければ次へ進めないらしい。
そう思ったらタブレットのスピーカーから通知音が鳴った。
メール、早くも到着の模様だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます