第258話 勝敗
モーガンと競い始めてから20日、討伐祭は各地でトラブルを起こしながらも、無事終了を迎える。
各地で起きたトラブルに関しては、今後フランちゃんを中心にルージュさん達が対策を考えていくだろう。
初めての催しとしては大成功と言って問題ない。
今回の討伐祭でもっとも驚くべきことは、モーガンがサンドドレイクを4体討伐してきたこと。
ギルド長は20日という期間的に無理だと言っていたが、さすがは実力はSランクと言われるだけのレベル100オーバーの元冒険者だ。
モーガンは僕と別れた後、すぐにスカルタまで移動して、サンドドレイクを4体討伐。
魔石と心臓だけを回収し、残りは破棄してすぐに王都に戻ってきたそうだ。
「それでは結果を告げる。クオンはフレイムレックスのものと思われる魔石1つを納品、モーガンはサンドドレイクの魔石4つと同魔物の心臓を4つ納品した。それぞれ保有魔力量を厳正に測定した結果、勝者はクオンとする」
野次馬の集まる中、ギルド長が勝負の結果を宣言する。
途中まで余裕の笑みを浮かべていたモーガンの顔は、ギルド長の最後の言葉で変化した。
「ふざけるな!何が厳正にだ!初めから負けるようになってたんだろうが!」
モーガンが怒りをあらわにする。
「この結果に納得のいかない者はモーガンだけではないだろう。よって、ここでそれぞれが納品した魔石と心臓に含まれる魔力の測定を行う。まずはモーガンが持ってきた物からだ」
ギルド長が測定用の魔導具にモーガンが持ってきた素材を全て乗せる。
「具体的な数値として表記されるわけではないが、魔力が多いほど魔導具は強い光を発する。これだけ強い光を発することは稀であり、モーガンが持ってきた物は高い魔力を有していると断言出来るが、これはモーガンとクオンと勝負だ。この光を覚えておくように」
ギルド長はそう言ってから、次は僕が納品した火蜥蜴の竜玉を魔導具に乗せる。
すると、先ほどよりもさらに強く魔導具は光を発した。
「見ての通り、クオンの持ってきた魔石の方が多くの魔力を保有している。クオンからはフレイムレックスを倒した時に手に入った魔石だと聞いているが、討伐記録を見た限りではヒートドラゴンの魔石と思われる。保有魔力の総量で勝敗を決めるというルールに則り、勝者をクオンとした」
ギルド長が説明するが、残念。それは火蜥蜴の竜玉であり、ヒートドラゴンでもなければ、フレイムレックスの素材ではなく、実際には魔石ですらない。
ただ、立会人のギルド長が魔石だと判断したなら、僕の勝ちである。
「てめぇ、どんなズルをしやがった?そんな魔石かどうかも怪しい物が、俺が持ってきた物より優れているなんておかしいだろ」
モーガンが勝敗に文句を付ける。
「ルールに抵触することはしていませんよ。そんなことより、僕はあなたに謝らないといけないことがあります」
MPポーションを作る要領で、火蜥蜴の竜玉に魔力を注ぎ込んで結果を水増ししただけだ。
モーガンの言う通りズルはしているが、ルールには抵触していない。
そもそも、今回の勝負にルールなんてほとんど無いに等しい。
他人の力を借りることさえ許されているくらいであり、どんな手を使ってでもドレイク種の魔石と心臓を多く持ってきた方の勝ちだ。
「なんだ?」
「僕はあなたがメアリーさんに一方的な好意を向けて付き纏うストーカー野郎だと思っていましたが、それは僕の勘違いだったようです。すみません。お詫びに、あなたがメアリーさんに話そうとしていたことを僕でよければ聞きますよ。話を聞いた上で、メアリーさんと直接話した方が良いことだと僕が判断したら、今度は勝負とは関係なく話が出来るように掛け合ってあげます」
「……お前本当は何者だ?」
「結構時間があったのに、対戦相手のことを調べていないんですね。僕はクオン、1番わかりやすく身分を説明するなら、元第1騎士団団長です。噂で聞いたことないですか?無能の烙印を押された騎士団長の話です」
「そうか。噂なんて当てにならないな。口振りからして無能なんて思われていないだろうよ。俺のことが聞きたいなら聞かせてやる」
「それならギルドの個室を借りてそこで話をしましょうか」
モーガンと2人で話をして、事情を本人の口から聞く。
ギルド長から聞いていた通り、モーガンはパーティ仲間が無茶をして重症を負ったことに起因して怒っていたようだけど、怒っている理由は違った。
「つまり、重傷を負ったダングさんの見舞いにも行かないメアリーさんに怒っていたんですね。無茶な依頼を受けさせたことではなく」
「そうだ。職員が何と言おうが最終的に依頼を受ける判断をしたのだから、それに関しては怒りをぶつける気はない。しかし、その気がなかったとしても、あいつの為に無茶をしてダングは重傷を負った。仕事の合間にでも顔を見せてやってくれと頼んだら拒否され、ギルド長からも求めていない説明をされた。だからこうして頼みにきただけだ。ダングが死ぬ前に惚れた女に一目会わせてやることはそんなにおかしいことなのか?」
その時は興奮して本来の意図がギルド長に伝わっていなかったんだろうな。
「ダングさんは死にそうなんですか?」
「ああ、治癒魔法では延命するので精一杯だった」
「そうなんですね……。少し待っててもらえますか?」
「ああ」
モーガンさんに断りを入れてから、僕は席をたつ。
「メアリーさんに聞きたいことがあるんですけど、ダングさんはわかりますよね?モーガンさんから見舞いに行くように頼まれたそうですが、なんで見舞いに行ってあげないんですか?」
メアリーさんを呼んでもらい、別の部屋で話を聞くことにする。
「やっぱりモーガンさんの話はそのことなんですね。本当は知らせを受けてすぐに駆けつけたんです。担当する冒険者さんに何かあれば連絡がくることになっていますので」
「そうなんですか?」
「はい。その時にダングさん本人からドア越しに、今の傷ついた姿を見られたくないと言われて、会えなかったんです。モーガンさんにもそう説明すればよかったのかもしれませんが、ダングさんの気持ちを考えると誰にも言わないほうがいいと思って、会えないとだけ伝えたんです。その後のことはクオンさんも知っての通りだと思います」
会わないようにしてたのはメアリーさんではなく、ダングさんの方だったのか。
そうなると、ギルド証を剥奪されることにまでなったモーガンは哀れだな。
「ちなみにですが、ダングさんがこんなことにならなかったら、ダングさんの気持ちに応える気はあったんですか?」
「冒険者の皆さんに元気を与えることも仕事の一つです。ですから、誰か一人に特別な好意を向けることはないです。全員がとは言いませんが、冒険者さんたちもそれはわかっていると思います。それとここだけの話ですが、ダングさんはパーティメンバーのレイナさんと交際していました。無茶な依頼を受けたのも、そろそろ身を固めるつもりだったからです。モーガンさんには言ってなかったみたいですね」
受付嬢に恋するのは、アイドルに恋しているようなものなんだな。
たまに聞こえる告白みたいな言葉も冒険者のノリということか。
そして、やっぱりモーガンは哀れだな。
「教えてくれてありがとうございました」
「お待たせしました。メアリーさんからも話を聞いてきたんですけど、色々と話が食い違っていて、話を聞く限りだとメアリーさんの言うことの方が正しく聞こえました。モーガンさんはダングさんからちゃんと話を聞いたんですか?もしかして、状況から勝手に判断してません?」
「俺がダングの所に行った時には話せるような状態じゃなかったが、お前もメアリーの肩を持つのか?」
「どちらの肩を持つ気もないですけど、ドレイク種の魔石と心臓を4つも持ってきてくれたあなたに、女王陛下に代わって僕から恩賞を与えます。ダングさんのところに案内してください」
「不敬罪で捕まってもおかしくないことだとわかってて言っているのか?」
「女王陛下とは友達なので不敬罪に問われることはないですよ。恩賞を勝手に与えても文句を言われることはないです。ほら、さっさと案内してください。この後王城に行く予定があるので、僕も暇ではないんです」
「わ、わかった」
その後、ダングさんを回復させ、ダングさんからモーガンに本当のことを説明してもらう。
モーガンがレイナさんに好意を向けていたから、ダングさんは本当のことを言えなかったそうで、ダングさんは自分が死んだ後レイナさんのことをモーガンに任せたいと思っていたそうなので、色んな意味でモーガンは報われないと思ったけど、モーガンは2人を祝福するつもりのようだから、僕のしたことはモーガンにとって悪いことではなかったようだ。
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