第257話 ドラゴン狩り

ギルド長から渋々ハイドレイクの棲家を教えてもらい、行ったことのある1番近い地点である魔法都市にファストトラベルする。


詳しい場所は現地の人間に聞いてくれとのことだったので、魔法学院に向かい、学院長のマリエールさんから話を聞くことにする。


ギルドに聞かないのは、冒険者ギルドの連絡ツールが僕の移動より時間が掛かるからだ。

早すぎる移動に関しては、アリオスさんやレイハルトさんが本気で走ったら目に追えない速度で移動出来るので、なんとでも誤魔化しはきくから問題はないけど、また初めから説明するのは面倒くさい。


「────ということで、ハイドレイクを狩ることにしました。ヒートドラゴンの棲家を教えて下さい」

マリエールさんにモーガンと競うことになった経緯を伝え、炎龍の二つ名で有名なヒートドラゴンの居場所について尋ねる。


「教えることは構いませんが、危険は承知の上ということですか?ヒートドラゴンの巣は、フレイムレックスによって守られています。少なく見積もっても20はいるでしょう」


「フレイムレックスも狙いなので大丈夫です」

フレイムレックスもドレイク種に含まれており、竜玉など魔石に相当する素材をドロップする可能性はある。


「わかりました。耐火対策は忘れずに」


「はい、気を付けます」


地図に細かい居場所を記入してもらい、ヒートドラゴンの棲む活火山へと向かう。


活火山へファストトラベル出来るわけではないので、馬車に乗せてもらった後は徒歩で山を登るわけだけど、ヒートドラゴンの棲む頂上付近まで3日は掛かる。


ここでもドロップに恵まれなければ、勝負の行方が怪しくなるので、なんとかフレイムレックスの方だけでも手に入れておきたいところだ。


そんなことを考えつつも、僕の気持ちの大部分は新しく強化した水魔法を試したい気持ちが占めていた。



そして3日後、予定通りヒートドラゴンを見つけて、挨拶代わりの不意打ちを仕掛けた僕は、つまらない顔をして山を後にすることになる。


ヒートドラゴンが纏っていた炎は、上位水魔法である『ウォーターストーム』を最大の威力で発動する為の前準備として発動した『水の神殿』に四方を囲まれた時点で弱まり、嫌な予感がしつつも発動したウォーターストームにより完全に消火、そしてまもなくしてヒートドラゴンは消え、ストレージには火龍の逆鱗というアイテムが追加された。


取り巻きであるフレイムレックスもウォーターストームに巻き込まれており、3日という長い時間を掛けて高めてきたワクワクは一瞬で終わった。


中途半端に強くなりすぎたようだ。


アリオスさんやレイハルトさんには敵わないのに、自然界では頂点に立っているような存在には簡単に勝ててしまう。


対人戦を気軽に楽しめるバーチャル空間ならこれでもいいけど、お互い殺さないように気を付けながらしか出来ない模擬戦を純粋に楽しむことは出来ない。



「モーガンの方はどんな感じですか?」

完全に熱が冷めてしまった僕は一度王都に戻り、ギルド長に途中経過を尋ねる。


「何も動きはない。そもそもの話、20日でドレイク種を狩ってくることなんて出来るわけないだろう。王族の住む王都周辺にドレイク種の目撃情報があれば直ちに討伐され、王都を離れて討伐に向かえば期間内に帰ってくるのは不可能に近い。お前さんの方はどうなんだ?まだ王都にいるということは、諦めたのか?」


「結構な数は倒したんですけど、残念なことに僕が戦うと相手は跡形もなく消えてしまって……。手に入った魔石は1つだけです。他の素材なら少しずつ手に入りましたけど、勝負的にはわずかな成果にしかなってないです」

運良く火蜥蜴の竜玉が手に入ったけど、魔石というには形がきれいに整いすぎており、傾斜があればどこまでも転がりそうなほどに丸い。

名称もサラマンダー扱いになっており、フレイムレックスの魔石というには無理がある。


「討伐はしてきたと?」


「はい。討伐記録で確認してもらって構いませんよ。手に入った素材は勝負を無視すれば悪くないんですけどね……」

ギルド長にギルド証と火龍の逆鱗と火蜥蜴の竜玉を見せる。


「鱗か。随分と大きいが、なんの鱗だ?」


「火龍です。素材としては当たりの部類だと思いますが、勝敗には影響しません」


「こっちの水晶みたいなのはなんだ?」


「フレイムレックスの魔石ですかね。フレイムレックスが消滅したところに落ちてました。もしかしたら特殊個体だったのかもしれません」

とりあえずフレイムレックスの魔石として伝えておく。

断言はしてないし、落ちていたと言えばフレイムレックスのものではなくても騙したことにはならないだろう。


「……ヒートドラゴンにフレイムレックス、それからウッドドレイクも倒しているのか。馬を乗り潰したとしても早過ぎるな。何か特殊な移動法でもあるのか?」

ギルド長が魔導具でギルド証の情報を読み取り、移動が早すぎることに疑問を持つ。


「はい、移動に特化したスキルが使えます。そういうわけで、討伐はしてきましたが成果は芳しくありません。相手の結果はわかりませんが、メアリーさんにはモーガンに会ってもらうことになるかもしれません。そうなったらもう一度キッパリと振ってもらってください。逆上してもちゃんと僕とレイハルトさんで取り押さえますので」

可能性としてギルド長には伝えておく。


「誰かから聞いたのだろうが、勘違いしているな。モーガンはメアリーに好意を向けているわけではない。モーガンが組んでいたパーティのメンバーが、メアリーに良いところを見せようと無茶な依頼を1人で受け、重傷を負って冒険者を辞めることになった。メアリーは危険だと忠告したにも関わらず、モーガンはメアリーが仲間をたぶらかせた結果だと逆恨みしている」


ストーカーではなかったのか。

聞いた話を鵜呑みにして、勝手に決めつけたのは反省しないといけないな。


「確かに勘違いしてました。それなら話をさせろって言ってたのは、何を話すつもりだったんですか?」


「俺が知るところではないが、メアリー本人の口から真実を聞こうとしたということだろうな。以前はメアリーに掴み掛かろうとしたところを取り押さえて俺の口から説明したから、俺がメアリーを庇う為にギルドにとって都合のいい嘘を言ったと思っているのかもしれない。もしかしたら話というのは嘘で暴行を加えようとしているだけかもしれないが、流石にそこまでではないと俺は考えている」


「付き纏っていたから冒険者資格を剥奪したというのも僕の勘違いですか?」


「ギルドとしてメアリーとモーガンを会わせないという判断をした結果、メアリーの帰り道で待ち伏せしていたから、頭が冷えるまでメアリーに近付かないように警告をした。それでもメアリーに会わせろと騒いだから職員を守る為に厳しい処罰を下すことになった」


「そうですか。自制が効かないだけで、仲間思いのいい人だったんですね」

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