第241話 説得(脅し)

あんころさんから良いヒントをもらった僕は、早速準備に取り掛かることにする。


まずは一番重要であるネロ君に会いにいく。


「どう?何か困ったことはない?」

占いが出来なくなった後も、ネロ君には王都に滞在してもらっている。元々サラボナさんと一緒に帰ってもらう予定だったことと、占いが示す人物の可能性があるからだ。


「騎士の方達によくしてもらってますので、贅沢をし過ぎてしまっているくらいです」


「それはよかったよ。クローネに話があるんだけど代わってもらえるかな?」

用があるのはネロ君というよりはクローネなので、クローネに代わってもらうように頼む。


「…………ごめんなさい。クローネが代わりたくないって」

ネロ君の時間を奪うつもりはないって言ってたし、クローネは基本的には代わりたくないのだろう。

前は恩を返す為って言ってたし、何度も恩を返す気はないということか。


「今僕が話していることはクローネには聞こえているんだよね?クローネが体を借りている時にネロ君の意識がないだけで」


「うん、そうだよ」


「ネロ君に聞かせない方が良いかなと思って代わってもらおうと思っただけだから、クローネが代わりたくないならそれでもいいかな。僕なりにネロ君とクローネに気を使って代わってって言っただけで、僕としてはネロ君に聞かれても問題ないし」


「代わりました。話を聞く前に言わせてください。あなたに感謝はしていますが、これ以上あなたとこうして話をする気はありません。これを最後にしてください」

クローネに代わったみたいだけど、少し怒っているようだ。


「さっきも言ったけど、ネロ君に聞かせない方がいいかなって思ったから呼んだだけで、僕は一方的にネロ君に話してもいいんだけど。今日の用も、別にネロ君に聞かれて僕が困ることはないし」


「……わかりました。それでは、適当な用で呼ぶのはやめてください」


「適当な用で呼ぶことはないですよ。僕の知りたいことを教えてくれないのは前のことでわかりましたし。あまり話したくなさそうだから本題に入りますけど、魔王の件はネロ君から聞いてますか?占いをしたこととか」


「はい。聞いています」


「占いが示す道の1つは僕が、もう1つはクローネとネロ君のことだと僕は思ってます。『光と影』というカードは以前クローネがどこにいるか占ってもらった時にも引いていましたからね。ネロ君にはその時にそれがクローネを示しているとは言わなかったのでカードが何を示しているのかわからないみたいですけど、間違ってないはずです。単刀直入に言います。魔王討伐は任せました。僕は他にやることがありますので」


「なぜ私がそのようなことをしなければならないのですか?」


「魔王を討伐しないと5年後に、ネロ君の住むこの世界が滅びるみたいですよ」


「ネロの名前を出せば私がなんでもやると思っていませんか?」


「そんなこと思ってないです。僕は魔王と戦わないと決めましたので、クローネがやらないなら魔王が討伐されないだけです」

実際は思っているけど、クローネの怒りが増している気がするので否定しておく。


「……魔王がこの世界を滅ぼせるとは思えません」


「クローネの言うところの作り物だからですか?その答えは期待してないですけど、確かに魔王がとは言ってなかったので、魔王が世界を滅ぼすわけではないかもしれませんね。でも、魔王が世界を滅ぼすかなんて関係なく、魔王が討伐されるまでネロ君は怯えて過ごすことになるんじゃないですか?魔王の存在を知ってしまったのだから」

クローネは覚えていないみたいだけど、世界を滅ぼすのは神であり、クローネの言うとおり魔王ではない。

でも、そんなことは関係ない。


5年後に世界が滅びると聞いて、今まで通り生活することなんて出来ない。

間違っていたとしても、世界が滅びる要因を取り除いたと信じるまでは。


「……わかりました。確かにあなたの言う通りではありますので、頼みを聞いてあげます。ただし、これであなたへの恩は全て返したということにしてもらいます」

クローネの説得は上手くいったようだけど、最後に付け加えられた条件は困る。


「なんで僕に恩を返したことになるんですか?ネロ君を助けたいからクローネが魔王を討伐するだけですよね?クローネが魔王を倒したところで僕には何もメリットがない。むしろ、クローネが魔王をなんとかしないとネロ君が苦しむことになると教えたことに感謝してもらいたいです。まあ、恩を返してもらったということにしても、必要なら僕は今日みたいに話をしにきますので、何も関係は変わらないですよ。まあ、元々恩を売るために再会させたわけではないので、そもそも恩を売ったとも思ってませんけどね。貸し借りの話ではなく、僕にネロ君を害する気はないのだから、仲良く出来ればと思います」


「……いいでしょう。ネロに危害が及ぶまでは、あなたの思惑通りに動いてあげます。ただ、私が魔王を倒したことは伏せてください。ネロには普通に生きて欲しいのです」


「わかりました。では、魔王は僕が倒したことにしておきましょうか。誰が倒したんだと騒ぎになるのは好ましくないでしょうから」


「それで構いません」


「最後に一つ、魔王を倒した後の素材は僕にください。先程、恩を売ったつもりはないと言ったばかりですが、恩を感じているなら、魔王という素材で返してください」

僕の目的は初めから魔王の素材だ。

つまらない作戦だという理由から、ブラッドワンドのウエポンスキルを使った方法は取れないというのは変わりないけど、それとは関係なく、僕が倒してしまったらドロップアイテムがランダムになってしまう。

魔王の死体を丸々頂くには、誰かに倒してもらうのが最善で、その適任がクローネだ。


「好きにしてください。私にはもう不要なものです」


「ありがとうございます」


「魔王のむくろはどこかに隠して、場所はネロに伝えさせることにします。これでもういいですか?」


「大丈夫です。このお礼はネロ君に美味しいものでも食べさせることで返します」


「……クローネとは話せたみたいだね」

ネロ君に戻ったようだ。


「ネロ君は僕がクローネと何を話していたのか気になりはしないの?気になっただけで、僕が話すつもりはないけど……」


「気にならないわけじゃないけど、クローネが僕に聞かれたくないってことなら聞かないよ」


「クローネのことを信頼しているんだね。それじゃあ、用は済んだから僕は帰るね」

僕は手を振ってネロ君が寝泊まりしている宿舎の部屋を出る。

しかし、ネロ君はクローネのことを信頼しているみたいだけど、クローネの方はネロ君に執着しているって感じだな。


悪意はなさそうだけど、あまり首を突っ込みすぎるのはやめておこう。

取り返しのつかないことになりそうだ。

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