第228話 弱体化
「わかったよ。そのつもりで準備しておくね」
委員長から国王を断罪する作戦を聞き、特に否定するところはなかったので、僕の役割について了承する。
この作戦には重大な欠点があるが、それは委員長も気付いてはいるだろう。
「随分と簡単に返事をするのね。作戦の要はクオン君だから断られた時の為に色々とどうやって交渉しようか考えていたのに」
「国のトップを邪教徒のトップだと糾弾して処刑させるだけでしょ?この国の人からすると国王様だけど、僕からしたらただの犯罪者の親玉だからね。面倒だとは思うけど力を貸すと言ったのは嘘じゃないし、無理難題じゃなければ断らないよ」
抵抗があるとすれば、新しく始めたゲームの素材集めが遅れるなということと、ノワールと戯れる時間を取れなくなるなということくらいだ。
「そうやって楽観的に考えられるのは羨ましいわ」
「それじゃあルージュさん達と話をしたら今日はもう遅いし帰るね」
書斎から出て、フランちゃんの相手をしているルージュさんのところに行く。
「委員長から話は聞きましたけど……騎士団を巻き込むことにもなりますがよかったんですか?最終的にはレイハルトさんが決めることですが、ルージュさんが進言すればレイハルトさんは首を縦に振ると思います。僕達はルージュさんを筆頭に第1騎士団の方達の力を借りれればこんなに心強いことはありませんが、慎重に物事を考えるルージュさんには珍しいとも思ってます」
「元団長の為ではありません。王国に悪が潜んでいるなら騎士の誇りをもって排除する。それが騎士の役目です。目的は違えど戦う相手は同じですから協力することにしたに過ぎません」
真面目に返しているようで、ルージュさんの口角は少し上がってピクピクしている。
相変わらずニヤけを隠しきれていないな。
「作戦の開始はいつ頃になりますか?」
ニヤけていることには触れずに予定を確認する。
「ここにある資料の確認が終わったわけではいないので、一旦団長に報告はしますが、もうしばらく情報の整理をしてからの予定です。事が事ですので見落としがあってはいけませんから。最終判断は団長が行いますので、早くとも30日程は掛かるかと」
「わかったよ。それじゃあそれに合わせて僕も動くね。レイハルトさんへの報告は僕がやっておこうか?」
「いえ、王都まで時間も掛かりますので頼むわけにはいきません。ルイスに行かせますので心配は不要です」
「僕のスキルにレイハルトさんとすぐに連絡が取れる方法があるから気にしなくていいよ。内容を紙に書いてまとめておいてくれれば渡しておくから。その方が早く作戦に移れるよね?」
「……そうですね。それではお願いします。明日には現状をまとめておきます」
今の間は、ルイスさんが団長に報告する為に王都に行きここを離れても作戦の開始は変わらないってことかな。
委員長とルージュさんがいれば頭脳は足りているということだろう。
「よろしくね」
翌日、立花さんにしばらくの間サモナーストーリーにインしにくくなることをメールしてから、ルージュさんから作戦についてまとめられた資料を受け取り王都にファストトラベルして、レイハルトさんに報告する。
「ふむ。ルージュにしては大胆な作戦を立てている。肝心な部分は全て君任せだが大丈夫だろうか?」
レイハルトさんがルージュさんのまとめた資料を見て心配を口にする。
「万全を期す為にレベルを上げておこうと思ってます」
ゲームだとレベルの最大は100だったけど、この世界でも100なのか気になるところだ。
Sランク冒険者や騎士の一部の人が100レベルを超えているのは知っているけど、マイナスな部分でもゲームのシステムが優先されるのかどうか。
多分僕のレベルは100が限界だろう。
アリオスさんのレベルがおかしいだけで、レベルは70を超えた辺りから極端に上がらなくなり、レイハルトさんでさえ300に届いていない。
なので、レベルが100で頭打ちになったとしても十分な力は手に入れたと判断出来る。
しかし、成長に限界がある時点でこの世界がゲームだとしたら、僕のスキルはハズレ枠だな。
「負担を掛けるがよろしく頼む。ルージュにこの作戦で進めるように伝えておいてくれ」
「わかりました。それからもう一つ、レイハルトさんから頂いた短剣を先日使わせてもらいました。これはそのお礼です。全員分はありませんが、団員の人にも配ってください」
レイハルトさんに短剣のお礼を渡してから、ブーケルにファストトラベルで移動してルージュさんにレイハルトさんに作戦の許可をもらったことを伝え、次はザングに移動して詰所に向かう。
「お久しぶりです。今大丈夫ですか?」
初めて会った時と同じように自ら詰所の受付をこなしていたアリオスさんに声を掛ける。
「真面目な話のようだな。奥で話そうか」
兵長室に行き、アリオスさんにも作戦を伝える。
「そんなことになっているのか……」
流石のアリオスさんでも、長年仕えていた国王が悪の権化だったことには驚きを隠せないでいる。
「確固たる証拠はないですけど、王族と一部の貴族しか知らないであろう隠し通路にある隠し部屋に出入りしていた人物が不浄の大地のトップであることは、証拠が揃ってます」
「私に話したのは、その作戦に協力して欲しいということか?」
「アリオスさんが協力してくれれば心強いですが、騎士を辞めたアリオスさんを巻き込むつもりはありません。僕が関わるのは、国王が僕達をこの世界に呼ぼうとした張本人だからです。国王が不浄の大地を配下とする邪教徒だと処刑されればこの国では大きな混乱が起こります。他国が攻めてくるかもしれません。アリオスさんが前もって知っていれば助かる命もあると思いましたので伝えただけです」
「情報感謝する。確かに事前に知っていれば出来ることは増えるだろう」
「助力は不要と言ったばかりですが、個人的に頼みたい事があります。早急にレベルを上げたいので手伝ってもらえませんか?アリオスさんのスキルが僕の思っている通りのものであれば、可能なら僕に掛けて欲しいです」
アリオスさんに弱体化のスキルを僕に掛けてくれないか頼む。
弱い魔物と戦うよりも強い魔物と戦った方がレベルはすぐに上がる。
システム的なことをいうと各モンスターに経験値が振られているわけだけど、それが現実なら意味合いは異なる。
強い魔物の方が経験値をたくさん持っているという理由ではなく、格上と戦った方が高い経験を得られるから、結果として強い魔物と戦った方がレベルが早く上がる。
レベルが70を超えた辺りから極端に上がりにくくなるのは、レベル70超えの人が苦戦するような凶悪な魔物と出会うことが稀だからだ。
僕のやっていたゲームに弱体化なんてスキルはなかったけど、なかったのであればゲームではなくこの世界の
弱体化され、そこらの魔物が格上の存在となれば、格上と戦うチャンスが簡単に得られるということになる。
「確かにあのスキルは君の思っている通りの効果がある。しかし、持続時間は1時間程しかなく、そこからは徐々に効果が薄れていく。どこでレベルを上げるつもりかまだ聞いていないが、私が付いていくことは難しい。それに、危険だ」
「危険は承知です。以前ここから南下したところにある遺跡にダンジョンがあると言っていましたよね?ダンジョンの入り口から一番近い村か街まではどのくらい掛かりますか?」
「あそこに行くつもりか……。遺跡は村に面している。ダンジョンまでの隠し通路を知っていれば数分で中に入れるが、それが何か関係あるのか?」
アリオスさんは険しい顔をしながらも良い情報を教えてくれる。
「アリオスさんに教えていないスキルがあります。行ったことのある村や街まで一瞬で移動するというスキルです。数時間に一度戻ってきますので、弱体化のスキルを掛け直してくれませんか?対価として良いものを用意します」
「君が言う対価には興味がそそられるが、私が判断する点は一つだけだ。自ら死地に飛び込もうとしているわけだが、死なないように策はあるのだろうな?」
「もちろん考えてはいますが、絶対はありません。予期せぬ事態が起きれば、絶対安全なんて言えません。ただ、万全を尽くす為に、弱体化する前に敵の行動パターンを把握するつもりではいます」
「それなら私がこれ以上言うことはない。これも皆が幸せに暮らす為だと協力しよう」
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